NTT、三菱UFJ、トヨタも…自社株買い、株価への影響と投資家の注意点

5月16日に配信した「オリックスにJT、マルハニチロも…株主優待の潮目、廃止増加の背景とは」の記事の中で、株主優待の廃止の代わりに増配や自社株買いを行う企業が増加するとお伝えしましました。株主優待を2024年には廃止するとしたオリックス(8591)も自社株買いと増配を発表した企業の一つです。株主優待の廃止を嫌気し、発表直後の株価は下落しましたが、その後の同社株は堅調に推移しています。今回の決算時において、オリックスに限らず、自社株買いや増配の発表が目立ちました。

そこで自社株買いのメリット、デメリットを始め、自社株買いの規模や現在の株価動向を振り返り。また、高配当企業の株価動向などをお伝えしたいと思います。


自社株買いのメリットとデメリット

4~5月に発表されたTOPIX構成銘柄企業の自社株買い設定金額は4.2兆円となり、4~5月ではコロナ禍前の2019年度の約3.6兆円を超える規模となっています。自社株買いとは、企業が自社の株式を自らの資金で買い戻す事です。

メリットしては、株式市場から自社の株式を購入し、その株式を消却することにより、市場に出回る株数が減ることで「EPS」(1株当たりの利益)の向上に繋がります。また、自社株買いは自己資本を使って行われるので、自己資本のうちの当期純利益の割合である「ROE」(自己資本当期利益率)の比率も良くなり、配当と同様に株主還元策の一つとされています。

デメリットは、手元のキャッシュを使って行われるため、自己資本比率が低下します。また、手持ちの現金が減ることで、経営上の資金繰りに支障をきたす可能性もあります。

今回発表した企業の特徴

今回、自社株買いの設定が多かった理由として、企業の業績に対する自信と自社の株価が割安との判断があるように思います。

また、今回の特徴として自己株式取得予定株数の上限が発行済株式総数に対する割合が高い事や、取得金額が大きい事が挙げられます。

今回発表された金額の大きい企業は、NTT(9432)の4,000億、三菱UFJ(8306)の3,000億、2,000億が日立(6501)、ソニー(6758)、トヨタ(7203)、日本郵政(6178)、KDDI(9433)となります。その他で富士通(6702)、第一生命(8750)、信越化学(4063)、三井物産(8031)、ヤマダ電機(9831)、ENEOS(5020)が1,000億円を超える規模の自社株買いを発表しました。

また、自己株式取得予定株数の上限が発行済株式総数に対する割合が高い企業は、ニコン(7731)の9.8%、コスモHD(5021)の9.6%、ENEOSの 9.3%、大成建設(1801)の9.0%などと続きます。いずれも、自社株買いを発表した当時の値段より上値で売買されています。その中でも発行済株式数に対する割合が高い企業の上昇が目立ちます。ニコンは25%、コスモHDは18.5%、ENEOSは約20%、大成建設は約12%値上がりしています。

その他でも自社株買いを発表した企業の株価は堅調に推移しているものが目立ちます。

投資家が気をつけておきたいポイント

自社株買いを発表した企業の注意点をお伝えします。

1つ目は取得枠を設けたものの、実際には自社株買いを行わない企業があります。日本電産(6594)は数年前から自社株取得枠は設けますが、全額取得した事はありません。株価が非常に安くなった時に取得を行うスタンスのように感じます。月初に毎月どれぐらい自社株買いを取得したのか公表する企業が多く、実際に取得したかどうかを確認出来ます。

2つ目は、立会外取引を使い取得枠を使い切る企業もあります。市場での取得がなく株価へのインパクトはさほどありません。


自社株買いを発表した企業が全て上昇する訳ではありませんが、一つの投資のヒントとして役立てる事もできるでしょう。

また、増配を発表する企業も目立ちました。日本では低金利が続く中で、高配当銘柄への物色も続くと思われます。今年に入り株価の下落が続く米国市場においても、高配当銘柄やETFは堅調に推移しています。

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