キーマンたちに聞く、失敗から成功に導いた話 第8回 「日本の中小企業の力に」と起業した石川彩子氏‐短所を長所に変えて躍進する

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企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。 第8回は、株式会社ミツモア創業者兼代表取締役CEOの石川彩子(いしかわ あやこ)氏に話を聞いた。

経歴、現職に至った経緯

石川氏は、東京大学の法学部に進み、公法を専攻。在学中に国家公務員試験(1種)に合格し、環境省から内定を得た。ところが、「入省前の職場訪問で、自分は中央省庁向きではないと感じてしまったんです」と話す。

大学卒業後は、経営戦略コンサルティングファームの「ベイン・アンド・カンパニー」でコンサルタントの職についた。ベイン・アンド・カンパニー在籍中の仕事内容を伺うと、「ミツモア」創業のきっかけとなった出来事を語ってくれた。

「ある地方銀行の成長戦略を描く仕事を任されたとき、銀行の融資先の中小企業など、地元の経営者と交流する機会が多くありました。そこで地方経済を担っている、『日本の中小企業を強くしたい』という思いが芽生えました」

そこで石川氏は行動を起こす。

「日本の中小企業に足りないものを考えたとき、『ITを使いこなす力』が圧倒的に遅れていることに気づきました。それで、IT投資を積極的に行い、労働生産性を高めているアメリカへ留学に行くことを決意しました」

ペンシルバニア大学ウォートン校にてMBAを取得。その後、シリコンバレーのEC企業Zazzle(ザズル)で、CFO(最高財務責任者)付きのスタッフとしてプロジェクトマネジメントや経営管理業務を担当した。

「仕事の傍ら、どのようなサービスで日本の中小企業の力になれるのだろうかと考えました。中小企業の労働生産性を上げるためのさまざまなビジネスモデルを模索し、起業のアイデアを練る毎日でした」

その頃から「いずれは日本のGDPを引き上げることに貢献したい」という思いがあった。 そして帰国後の2017年2月、共同創業者で現CTOの柄澤史也(からさわふみや)氏と満を持してミツモアを創業する。

ミツモアについて

続いて、ミツモアの会社概要について伺った。

「ミツモアは、カメラマン・リフォーム業者・士業など、さまざまなサービスの事業者と出会える、サービスのプラットフォームです」と石川氏。

「ミツモア」で取り扱うサービスは、エアコンやアンテナの取り付けなど機器設置・ハウスクリーニング・税理士や行政書士などの士業・壁紙の張り替えやドア交換、修理などのリフォーム・庭木の剪定・SNS用のプロフィール写真や商品を撮影するカメラマンなど300種以上にものぼる。

従来、見積りが出るまで数日から数週間かかるサービスも多く、実際の作業までに時間がかかってしまったり、複数の事業者から見積りをとろうとすると煩雑になってしまったり。

「ミツモアでは見積りが必要なサービスの生産性を向上し、受発注のわずらわしさなく見積りがとれるITサービスを目指しています」

「ミツモア」では、簡単な質問に答えるだけで、数分以内に希望の内容に沿った見積りがもらえる。時間をかけずに複数の事業者からの見積りを比較できるメリットは大きい。一方、事業者は、見積り作成や決済など煩雑な作業が自動化でき、空いた時間を本業に使うことができる、という利用者・事業者双方にメリットのある取り組みだ。

思い込みが先行してしまった失敗談

失敗談について伺うと、意外な答えが返ってきた。

「元来私はそそっかしく、空想しがちで、思い込みから突っ走ってしまう性格です。空想していて、うっかり反対方向の電車に乗ってしまうことも日常茶飯事。興味のあることはひたすら突き詰めて考え、ほかのことがおろそかになってしまうところがあります」と苦笑する。

そして、落ち着いた石川氏の雰囲気からは想像もつかないエピソードを語ってくれた。

「海外にMBA留学をしたときも、アメリカに行きたいという思いが先行して渡米しました。現地に着いてから、家賃の支払いに必要な銀行口座も作っていないことに気づきました。しばらくは、借りる予定のアパートの廊下で寝袋で寝るはめになってしまって…」と朗らかに笑う。

ミツモアを起業した後にも、思い込みが災いして伸び悩む時期があったのだという。

「創業当初はアメリカのThumbtack(サムタック)というサービスを参考にしていました。2年ほど経過すると、アーリーマジョリティ(*)までは普及できたものの、その先の利用者拡大が思うようにいかず、限界を感じるようになりました」

*マーケティング用語で、新しいサービスに関心が高い利用者層を示す。

それはどうしてか、と聞くと当時を振り返りながらこう語る。

「『こんなにコストパフォーマンスのいい集客サービスはない!』と絶賛してくださる事業者がいる一方で、『時間もお金も掛かりすぎる』と正反対の声を残して退会される事業者もいらっしゃいました」

そこでミツモアでは事業者へのヒアリングを実施。課題が見えてきたという。

「元々、運用広告型のビジネスモデルをヒントにしていたため、CPA(顧客獲得単価)がよい事業者と悪い事業者とがはっきり分かれてしまっていることがわかりました」

それだけではない。今とは大きく異なる見積りの作成方法にも問題があった。

「問い合わせがあると事業者が自身で内容を確認し、手元で見積りを作成しチャット上に提出するモデルだったため、利用者は気軽に見積り依頼をするのに対し、事業者への負担が大きかったことがわかりました」と石川氏。

「事業者の集客や営業にかける時間を減らすことを目指していたはずが、むしろ負担を増やしていたことに気がつきました。業務時間を削減するはずが、過度に時間を掛けさせてしまっていました」と後悔をのぞかせた。

ユーザビリティを向上して事業を大転換

これらを改善すべく、ミツモアでは事業を大きく転換した。

「従来の応募課金モデルから成約課金モデルへと変更し、見積り作成は自動化。依頼者への返信も『自動応募システム』で対応できるようにしました」と石川氏。

その結果、退会される登録事業者が減り、新規登録者も増加した。折しも、この大転換は確定申告シーズンを前にして税理士への見積り発注が殺到する時期と重なっていた。石川氏はこう振り返る。

「一回ごとに見積りを作成すること自体、中小規模の企業や個人事務所には大きな負担となっていました。見積りを自動化するシステムがあれば解決できるのでは、と急ピッチで開発を進め、たった1か月で「自動応募システム」のリリースにこぎつけました」 自動システムは事業者・利用者双方にメリットが大きく、評判も上々だ。

「事業者からは、『見積りの自動化はプロとしても楽で、わずか数分で見積りがでるため依頼者の使い勝手も良くなった』という声を多くいただいています。実際、自動応募システムの導入後、成約率がグッと上がりました。質の面でも、ユーザーの方がハッピーになっているという実感があります」

1件の依頼に対し、見積りがつく数も圧倒的に増え、利用者の満足度も向上。決済の安全性を担保するエスクローサービス(*)や、ミツモア上で成約した作業により発生した事故や破損を最高1億円まで補償する損害賠償補償制度を導入し、サービスのブラッシュアップを図る。

*取引の安全性を保証する第三者が仲介するサービスのこと。

就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを

最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けたメッセージをもらった。

「皆さんには、活躍の場を選ぶことで、短所は長所にもなり得るということをお伝えしたいと思います。私の経験をお話しすると、コンサルタント時代、突き詰めてこだわりすぎる性格から、結局時間内に仕上げられなかったり、内容が細かすぎて先輩から「わかりにくい」と指摘されたり。当時は、仕事に必要なバランスを欠いていたのだと思います」

「ミツモア」を起業し、軌道に乗せた現在、石川氏は、より多くのユーザーに使ってもらえるよう、サービスに磨きをかけている。

「取り扱う300以上の業種を深く理解し、依頼者にわかりやすく、事業者にとっても煩雑にならない計算式に落とし込むことに、情熱を燃やしています。当時は短所だと思っていましたが、今は長所にできていると実感しています」と微笑む石川氏は、生き生きと輝いて見えた。

「私は、いろいろな人がいて凸凹が受け入れられる社会のほうが、幸せな人が増えると思っています。『完璧にならなければ』という理想を捨てて、輝ける場所を自らつかみ取りにいくことを、若手のビジネスパーソンの皆様にはおすすめしたいと思います」

自らの「短所」を「長所」として生かしながら躍進を続ける、石川氏らしいアドバイスだった。