僅差の戦いが続いたトヨタ。7号車のトラブルまで「互いに必死でプッシュ」/ル・マン24時間

 2022年のル・マン24時間レースを制したTOYOTA GAZOO Racingのテクニカルディレクターであるパスカル・バセロンは、同レースでトップ争いを演じた2台のトヨタGR010ハイブリッドのバトルは「非常にタイト」であり、小林可夢偉組の7号車にトラブルが発生し勝負を決定づけるまで、互いが優位に立とうと「必死でプッシュしていた」と語った。

 同氏はトヨタがル・マン5連覇を達成した後、2台のトヨタGR010ハイブリッドの戦いは、電気モーターに関連するトラブルで7号車が姉妹車の8号車から数分の差をつけられてしまうまで、激しく互角の戦いをしていたと述べた。

 前年王者のホセ-マリア・ロペス/小林可夢偉/マイク・コンウェイ組が後退したことで、ブレンドン・ハートレー/セバスチャン・ブエミ/平川亮のトリオが乗り込む8号車はややペースを落とし、アクシデントを回避して勝利を確実に手にすることができるようマージンをとることができた。

「セッティングはそれぞれ微妙に異なっていたが、2台のペースは非常に接近していた」とバセロン。

「序盤、セブ(セバスチャン・ブエミ)は最初のスティントでハードにプッシュしすぎてしまい、タイヤのデグラデーションという点で犠牲を払っていたかもしれない」

「しかし、レースが進み、彼らがタイヤをもう少しケアするようになると2台の争いは非常にタイトなものになった」

「我々のクルマが接近しているのはフィールドに正しいセットアップを持ち込んでいるためだ。そして6人のドライバーもとても仲がいい。接戦になる材料はすべて揃っている」

「だが、それは非常に、非常に熾烈だった。彼らは死に物狂いでプッシュしていた。ピットレーンから見ていると、ちょっと心配になるほどだった」

「事実、2台のマシンの間にギャップができると、チームは少しリラックスすることができた」

 バセロンは、レース残り8時間ほどで7号車に発生した問題の経緯を理解するため、トヨタがより徹底した分析を行う必要があると指摘した。

 この問題が、5月初旬に行われたWEC第2戦スパ6時間レースで8号車がリタイアしたハイブリッド電圧コンバーターの不具合と関連しているかどうかは不明だ。

「2台のクルマの位置が非常に近かったため、ほんの小さなトラブルがヒエラルキーを決めてしまった」とバセロン。

「7号車は小さな電気的な問題で、“パワーサイクル”と呼ばれるマシンの再起動を余儀なくされた。ふたたび走り出すために何をすべきかは分かっていたが、(その段階で)分析はしていない」

優勝した8号車トヨタGR010ハイブリッドの(左から)セバスチャン・ブエミ、平川亮、ブレンドン・ハートレー組 2022年WEC第3戦ル・マン24時間

■ハートレー「僕たちはすべてを出し切った」

 優勝した8号車のメンバーのひとりであるハートレーは、姉妹車の7号車が後退するまでの間、トヨタの2台のクルーは「お互いに激しくプッシュし合っていた」と語り、レースに敗れた経緯についてチームメイトに同情していると語った。

「ピットウォールの皆は、彼らがちょっとした問題を起こすまで、18時間ぶっ通しで僕たちの争いを見ていたと思う」と、ハートレーは振り返る。

「何も残っていなかった。僕たちはすべてを出し切って、お互いにプッシュし合っていたんだ」

「スローゾーンを行ったり来たりしていた。また、あるドライバーはトラフィックでいい走りをし、あるドライバーはそうでないこともあった。もう1台のクルマが何度かコースを外れたが、その時は僕らがレースをリードした」

「正直なところ、彼ら(のクルマ)が問題を起こすまでは素晴らしいレースだった。そのあとは明らかに、僕たちはすぐにペースを落として勝利を持ち帰ることに努めた」

「少々のギャップがあったとはいえ、あの瞬間までは素晴らしい戦いだった。技術的な問題が出てしまった彼らに同情している」

 チームメイトのブエミも、7号車との戦いは困難なものだったと語った。

「それはとても大変だった。背負うリスクのレベルが高すぎたんだ。とはいえ、姉妹車に差をつけられたくないから、ついていくしかなかった」

「しかし、そのプッシュのレベルは印象的だった。本当に大変だったから、(レース終盤は)少し楽ができるようになってほっとしたよ」

■7号車は3度目の2位

 一方のロペスは、ル・マンで3度目の総合2位となったことを「つらい」と述べた。

 トヨタの5回の優勝のうち、7号車によるル・マン制覇は2021年の1度きりで、その他はチームメイトの8号車が制している。

「ル·マンの勝利を逃すのはつらい」と語ったロペス。

「僕たちは皆、競争力があり勝ちたいと思っている。しかし、敗北をどう受け止めるか、とくにTOYOTA GAZOO Racingのワン・ツー・フィニッシュという結果をどのように喜ぶか、も知っておかなければならない」

「8号車のメンバーを祝福する。彼らは素晴らしい仕事をした。我々はほぼ完璧なレースを展開し、ハイパーカークラスのライバルたちに大きな差をつけることができた。彼らは皆、問題を抱えていた」

「僕たちはすべてを完璧にマネジメントした。マシンの速さと勝利への意志を示していた。だからこそ、あの小さな問題に向き合うのは難しい」

首位走行中にフロントモーター関連の電装系トラブルが発生し、チームメイトに対して後れを取った7号車トヨタGR010ハイブリッド 2022年WEC第3戦ル・マン24時間

© 株式会社三栄