100年に一度の大変革時代を迎えた自動車業界

一口に製造業といっても、千差万別。このコラムでは、製造業界の基礎情報やトレンドを紹介します。第一回目は、日本の製造業の主役、「自動車業界」を解説します。

自動車業界は日本経済を支える

日本の自動車産業は、日本の高度成長期を支えた立役者であり、今も間違いなく日本経済の中心的な存在として日本経済を牽引している。日本自動車工業会(自工会)の統計によれば、2018年の自動車製造業の製造品出荷額は62兆3040億円で、バブル経済直前の1985年に比べて、ほぼ倍に成長を遂げている。同年の日本の実質GDPは554兆円であるから、日本のGDPの1割以上を占めており、まさに日本の基幹産業の一つとして大きな存在感を発揮している。

日本には、完成車メーカーが14社あるが、言うまでもなく、完成車メーカーだけでは自動車は完成しない。自動車(四輪車)は、なんと2万~3万点の部品から構成されているといわれており、当然、これらの部品を製造する自動車部品メーカーはかなりの数にのぼる。完成車メーカーと直接取引をする部品メーカーは、「Tier1」、「Tier1」企業と取引をする企業は「Tier2」というように、完成車メーカーを頂点としたピラミッド構造になっていのが特徴だ。製造のほかにも、運輸・販売・整備・資材など各分野に関連産業が拡がっており、自動車関連産業の就業人口は542万人に達する。日本の労働力人口(15~64歳)は5955万人であるから、働いている日本人の10人に一人は、自動車関連の仕事にかかわっていることになる。

新型コロナウイルス感染拡大や半導体不足の影響を受けるも、長期的には成長が続く

日本の自動車業界は、リーマンショックや米中貿易摩擦など、いくつもの荒波を乗り越えて成長を続けてきた。しかし、日本国内では、人口減の影響もあり、生産台数は2019年から前年割れが続いている。2020年前半には、新型コロナウイルス感染拡大によるサプライチェーンの分断や緊急事態宣言の発令により、生産は大きく落ち込んだ。その後は急速に回復したが、国内外で繰り返される新型コロナの感染拡大や、世界的な半導体不足により、2021年も生産台数は前年比減となった。とはいえ、長期的に見れば、半導体不足の解消や経済活動の再開にともない、市場は成長に転じると見られている。全世界の新車販売台数は、2021年の7700万台から2030年には約1億台に成長すると予想されており、自動車業界の未来はまだまだ明るい。

100年に一度の大変革の時代に、日本の自動車業界は対応できるか

そんな自動車業界は、今、100年に一度の大変革の時代の最中にある。「コネクテッド」、「自動運転」、「シェアリング」、「電動化」の英語の頭文字をとって「CASE」と呼ぶが、急速な技術革新や異業種の参入により、自動車業界の競争はますます激化している。2020年7月には、米国のテスラが、株式時価総額でトヨタ自動車を抜き、自動車業界でトップとなった。これは、業界の変化の激しさを示す一例に過ぎない。

世界では、インセンティブ政策や充電インフラ整備などを追い風に、新興ベンチャーのみならず、既存の大手メーカーが一斉にEVへのシフトを進めている。コロナ禍の真っ只中であったにもかかわらず、2020年の世界での新車販売台数は、HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド自動車)、EV(電気自動車)を合わせて前年比22.1%増の585万台となった。日本でも、トヨタ自動車が、2030年のEV販売台数目標を350万台に上方修正したように、今後、EVへのシフトはさらに加速するとみられる。2040年には、新車販売台数の半分をEVが占めるようになるという予測もある。これから10数年の間に、大きく様変わりする自動車業界に目が離せない。

大量生産から少品種大量生産への流れが加速する

もちろん、EVが増加するといっても、すぐにガソリン車がゼロになるわけではない。今後は、EVをはじめ、多様化する車種を高効率かつ低コストで生産できる体制を構築することが急務だ。多くのメーカーが、少品種大量生産から多品種少量生産への流れに対応すべく、混流生産を可能にする生産ラインの実現に注力している。

大きな変化にさらされるのは、部品メーカーも同様だ。エンジン部品に使われる製品を製造する金属加工部品業界などは、内燃エンジン車需要の減少する中で、EVに搭載する部品を製造するなどの対応が迫られていく。

自動車のビジネスモデルが大きく変化する

「CASE」の進展により、自動車の製造プロセスのみならず、ビジネスモデルも大きく変化していく。今後は、自動運転ソフトウェアやカーナビの地図データ、車内のインフォテイメントのソフトウェアなどは、OTA(Over the Air)でアップデートしていくことが主流になる。テスラでは、すでに自動運転ソフトウェアのサブスクリプションサービスが提供されている。自動車のIT化が進むとともに、自動車は車体というハードウェアを売って稼ぐものから、ソフトウェアで稼ぐものに変わっていく。

日本の自動車業界が、大変革の時代を勝ち抜き、今後も日本経済を支える大黒柱であり続けられるかどうかは、「CASE」時代に求められる新技術や新素材への対応にかかっている。

主な関係団体
一般社団法人 日本自動車工業会:https://www.jama.or.jp/

一般社団法人 日本自動車部品工業会:https://www.japia.or.jp/

一般社団法人 日本自動車販売協会連合会:http://www.jada.or.jp/

一般社団法人 日本自動車タイヤ協会:https://www.jatma.or.jp/

(製造DXチャンネル 2022年4月25日掲載)

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