縁の下の力持ち。日本のものづくりを支える工作機械業界

一口に製造業といっても、千差万別。このコラムでは、製造業界の基礎情報やトレンドを紹介します。第二回目は、「工作機械業界」を解説します。

コロナ以前の水準を超え、活況の工作機械業界

工作機械の受注実績は、2021年、3年ぶりに1兆5000億円を上回った。日米中欧の世界の主要市場がそろって好調だった。2年続けて過去最高を記録した2017年、2018年の水準には及ばないものの、コロナ禍で大きく落ち込んだ2020年からはなんと70%増となるV字回復をみせた。

最大のマーケットである中国市場が堅調に推移したことや、経済活動の本格再開に伴い欧米や日本でも設備投資の動きが拡大したことが成長につながった。世界的な半導体不足など供給のボトルネックの影響は懸念されるが、人手不足とデジタル化、脱炭素といったトレンドを追い風に今後も堅調に推移するとみている。2025年には日本製の工作機械の市場規模は2兆円、2030年には3-4兆円規模へと大きく成長するという予想もある。

工作機械業界を見れば、今後の景気が分かる

工作機械の受注実績が注目されるのは、それが「景気の先行指標」だからだ。工作機械は、機械を作る機械という意味で「マザーマシン」と呼ばれている。工作機械は、自動車や家電のような機械の部品を直接作り出すことのみならず、このような製品の製造にかかせない産業機械を構成する部品の製造も行う。いわば、全ての機械の原点であり、日本のものづくりの基盤を支える存在といえる。

だからこそ、工作機械に対する投資額が、景気判断の先行指標となる所以だ。今後、好景気が見込めるとなれば企業は工作機械に設備投資を行い、逆に不況になると思えば、工作機械を買い控える。工作機械の受注が好調ということは、工作機械が活躍する多種多様な業界において、多くの企業が、景気の先行きが明るいと考えていることの証左といえるのだ。

世界をリードする日本の工作機械業界

そんな工作機械業界では、デジタル化や自動化、省エネなどの潮流の中で、より付加価値の高い製品を生み出すことに各社は注力する。なかでも、一つの作業を繰り返す汎用的な工作機械から、多品種少量生産を得意とする複合加工機等のNC工作機械(工作機械の受注額の約80%を占める)へとシフトするなど、工作機械の高度化が進む。また、環境保全への対応など新たな要求も生じており、加工終了後に不要な冷却ユニットから順にアイドルストップさせる機能、CO2排出量を分析する機能を搭載した工作機械も登場している。

実は、旋削加工やフライス加工などの、本来であれば別々の機械で行う加工を一台でできるようにした複合加工機を世界で初めて実用化したのは日本の企業だ。また、会話をするように質問に答えていけば、加工に関する専門知識を持たない人間でもプログラムができる対話型CNCという装置を開発したのも日本の工作機械メーカーである。日本の工作機械業界は、1982年に生産額で米国を抜いて世界一となり、その技術力で世界をリードしてきた。2008年に中国に追い抜かれたものの、今もドイツと2位争いを続けている。自動車などの異なり、工作機械は一般消費者の目に触れることがないため、一般に認知度は低いが、工作機械業界は、日本のものづくり産業の基盤を支える非常に重要な業界なのである。

工作機械のレベルが、製造業のレベルを左右する

工作機械は、その国の製造業のレベルに深く関係している。工作機械によって生産される部品や製品の精度は、それを作り出す工作機械の精度を超えることはない。これを母性原理というが、日本では、職人が“のみ”のような工具を用いて工作機械に使う部品の平面の精度を手作業で出す「キサゲ加工」など、匠の技も駆使しながら、加工精度の高い工作機械を生産している。日本の基幹産業である自動車を含め、機械産業が世界のトップに君臨できるのも、日本の工作機械が世界のトップクラスであることが大きな要因といえる。

工作機械の今に触れる絶好の機会、JIMTOF

自動車業界などと比較すると、工作機械業界の市場規模や就労人口は小さい。しかし、その規模からは想像できないほど、工作機械の製造業に対する役割は大きい。そんな工作機械の最前線に触れる機会として、日本では2年に一度、世界最大規模の工作機械見本市、JIMTOFが開催されている。2022年は、11月にJIMTOF2022が開催される予定だ。また、岐阜県美濃加茂市には、ヤマザキマザック工作機械博物館があり、そこでも工作機械を見ることができる。さらに、近年は工作機械各社がオンライン上にデジタルショールームをもうけており、自宅からでも、工作機械の最新機やその機能にふれることができる。

関連する業界団体

一般社団法人 日本工作機械工業会:https://www.jmtba.or.jp/

(製造DXチャンネル 2022年4月25日掲載)

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