<北朝鮮内部調査>過酷すぎる今年の農民生活 農場の食糧底つき飢え蔓延 コロナで人手足らず夜間に草取り さらに干ばつ被害も

(参考写真)疲れ果てたのか、農村動員作業の合間に横になって休む女性。2013年6月北部地域で撮影アジアプレス

金正恩政権が新型コロナウイルスの感染発生を認めたのは5月12日。全国で田植えや種まきなど、農作業が本格する時期と重なった。コロナ流行にともない都市住民の農村動員は中断。すでに4月から備蓄食糧が底をつき始めていた農村では、いよいよ飢えが深まっている。深刻な危機に直面している北朝鮮の農村は今、どうなっているのか? 北部地域の農場現地からの報告をお伝えする。(カン・ジウォン/石丸次郎)

◆コロナで都市住民動員できず

北朝鮮では、本来なら5月から7月までが1年でもっとも人の移動が多い時期である。労働者、学生、主婦から労働党や行政の幹部まで、都市住民がこぞって協同農場に通って農作業に従事する。それがコロナ防疫のための移動禁止措置で止まった。金正恩政権は年初から農業第一主義を掲げて農村への総動員を指示していたが、コロナで大きな狂いが生じたわけだ。

6月上旬に調査したのは咸鏡北道(ハムギョンプクド)のA協同農場。農場員数は約500人で、主にトウモロコシを栽培している。咸鏡北道では平均より若干小規模な農場だ。ここを長く定点観測してきた取材協力者D氏が現状を伝えてきた。状況は深刻であった。
※南西部の穀倉地帯の黄海道(ファンヘド)など、他地域の状況は把握できておらず、北朝鮮全体の収穫予測は現時点では困難だ。

――A農場のコロナの状況はどうなのか?

D 感染者が農場でも出ている。分組ごとに体温測定を毎日しているが、もし有熱者(発熱者)がいても、人手が足りないので症状のない分組員は出勤を要求される。距離を取って密集せずに作業するのが規則だ。毎日の分組の朝会は中断している。
※分組は集団で農作業をする最小単位。現在は10数人程度で構成される。
※地方ではPCR検査などコロナ感染を判定する手段がまったくなく、A農場の感染状況について評価することは難しい。

――農村は封鎖していないそうだが?

D 外出制限はなく、農作業に出なくてはならない。都市との移動は厳しく統制している。農村でコロナが流行ると大問題だと、農村に外部の人間は入って来られないし農民たちも出られない。外部と結ぶ道路に防疫哨所(検問)を置いて、動員作業で来る者以外、一切の出入りを禁止している。

◆種まきできず「空き地」の畑まで

――田植え、種まきの時期にコロナが拡大した。農作業の進行はどうなのか?

D 農村動員者が足りなくて深刻だ。トウモロコシなどの種まきが進まないまま「空き地」になっている畑が多い。その上、草ぼうぼうなので農場員たちに夜間にも草取りをさせている。幹部たちが夜に見回りに来て、作業中にマスクを着けているか確認までする。農場員たちはあまりにしんどいので、コロナの症状があると嘘をついて家から出てこない者もいる。

――そろそろジャガイモが収穫期だが?

D ジャガイモは日照りのせいでできがすごく悪く、例年の50パーセントにも満たないそうだ。ポリコゲ(収穫までの端境期)時期の食糧不足に役立たないだろう。
※6月の北朝鮮は新ジャガイモ収穫の季節。4~5月は少雨だった。両江道(リャンガンド)の別の農場からもジャガイモが大不作だとの情報がある。

北朝鮮地図(製作アジアプレス)

◆飢える「絶糧世帯」が増加

――農村の食糧事情はどうか? A農場では、すでに4月に飢える人が出ているとのことだったが?

D 深刻だ。絶糧世帯が4月より増えている。1つの分組員は10数人程度だが、半分近い4~6人程が絶糧世帯に分類されたそうだ。1日1食、2食しか食べられない人も多く、顔にむくみが出ている人が少なくない。
※絶糧世帯とは、現金も食糧も尽きてしまった家庭のこと。

――農民の飢えに対し政府はどんな対策を取っているのか?

D 今のところ国家的な支援は何もなくて、郡と農場が自ら解決しろという指示があるだけだ。コロナで封鎖した都市の住民に優先的に食糧を回したため、農村には与えるものがないのだそうだ。

昨年までは、秋(の収穫時)に精算する約束で、農民に分配分を前渡しする予備食糧が農場にあったのに、国がそれをやめさせた。さらに個人の高利貸しが農民に貸し付けるのを、「非社会主義行為」だと強力に取り締まったため、農民たちは借金して食べることもできない。それなら国家が貸し出せと、農民たちから要求が出ている。

農村の現状が深刻なので、政府は幹部を農村に派遣して問題を解決する措置を取ったと宣伝だけはしているが…。今年の農業は失敗だ。

――都市では封鎖が緩和されて、労働者を農村に送り始めたというが?

D 企業ごとに「農村動員突撃隊」を作って動員を始めた。移動が増えるとコロナが広がる可能性があるので、農作業が終わるまでずっと農村にいさせるのが原則だそうだ。コロナが安定すれば、スプーンを持てる人間はすべて農村に動員する方針だ。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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