外国人の就労拡大のための在留資格「特定技能」で日本に滞在するベトナム人が3月末時点で4万人を超え、全体の63%を占めた。新型コロナウイルスの感染拡大防止規制の強化で新たな入国が困難になる中、条件付きで在留資格変更が認められる「技能実習生」からの移行が増えた。技能実習生は今もベトナム出身者が6割を占めているが、労働集約型とされる「特定技能」資格の職場でもベトナム人の存在感が高まっている。

出入国在留管理庁の統計によれば、3月末時点で特定技能の全ての外国人が該当する「1号」の在留者は約6万4,700人。ベトナム人が占める割合は特定技能資格導入翌年の2020年3月末が58%、21年3月末が63%で、今年は横ばいだった。国籍別で2位のフィリピンは6,300人で、ベトナムは抜きんでて多い。
特定技能資格で働くベトナム人材の内訳を14ある産業分野別にみると、「飲食料品製造業」が1万7,100人で最も多く、74%を占めた。その他の分野でも、「造船・舶用工業」と「漁業」を除いていずれもベトナムが国別で最大だった。
■元実習生が8割
各分野でベトナム人材の比率が高いのは、19年の制度開始翌年の20年に深刻化したコロナ禍が影響している。入国規制の厳格化などで外国人の新規入国が困難になった結果、日本での技能実習を修了後に特定技能の資格に切り替えた人材の比率が高まり、技能実習経由は全体の8割に達した。
特定技能の資格を得る主な手段には、この「技能実習ルート」のほかに、「試験ルート」がある。同ルートでは日本語能力と各分野の技能を評価する試験に合格する必要がある。
■ベトナム人は今後も主力に
特定技能制度は日本国内で不足する人手を確保することを目的に、一部の産業分野を対象に創設された。教授やIT技術者、芸能など他の在留資格に求められる高度な技能や資格などは不要となる。日本の非熟練・低賃金労働の一翼を実質的に担い、人権の観点から批判もあった技能実習制度は、途上国への技術移転という国際貢献が本来の目的で、特定技能とは制度の趣旨が異なる。
政府は特定技能の制度開始5年で26万2,700~34万5,150人の受け入れを見込んでいた。3年経過時点での受け入れ総数は6万人余りと想定を下回るペースで推移しているが、水際対策の緩和とともに増加が見込まれる。
政府も受け入れ拡大のための制度設計の改善に取り組んでいる。5月からは「産業機械製造業」など3つの製造業の分野を統合し、求人が活発な半導体関連などでの追加の受け入れを可能とした。産業機械製造業は分野別の受け入れ上限を超えたため、4月に新規入国が一時停止されていた。
「建設」など2分野に限定されている熟練技能者を対象とした「2号」資格を、他の分野に広げることも検討している。1号が在留期間が最長5年なのに対し、2号は上限がなく家族の帯同も可能となる。
各国で試験の実施が再開されることにより、出身国の多様化が一定程度進むと予測される一方で、技能実習生としての勤勉性などで一定の評価があるベトナム人材への需要は特定技能でも旺盛のようだ。人材派遣などのウィルグループ傘下のウィルオブ・ワーク(東京都新宿区)の相川一人ファクトリーアウトソーシング事業部長は「日本企業は既存の外国人材と同じ国の出身者を採用し続ける傾向が強い」とベトナム人への求人が活況な理由を説明する。
■都市部での求職に集中
特定技能の制度が普及するに伴って懸念されるのが、賃金が高い都市部への人材集中だ。相川氏は「特定技能の採用で地方の企業はかなり苦戦している」と指摘する。
3月時点での特定技能のベトナム人材の都道府県別分布では、愛知が4,100人余りで最多。千葉、埼玉、大阪、神奈川が2,000人台で続き、山形と秋田は100人未満にとどまる。相川氏は「景気回復で都市部の求人が増えれば、地方との格差はさらに広がるのでは」と予想する。特定技能は同一分野であれば、条件付きで転職が可能。地方で就労していた人材がよりよい賃金を求めて都市部に流出することも考えられる。
こうした背景もあり、転職が制限されている技能実習生に対する企業ニーズは依然として高い。技能実習は試験などが必要な特定技能よりも資格が取得しやすいため、日本での就労を希望するベトナム人の若者からの応募も堅調だという。
