「拘禁刑」創設 改正刑法の意義 法務省元矯正局長・名執雅子さんに聞く

法務省元矯正局長・名執雅子さん

 〈刑罰の懲役と禁錮を廃止して一本化した「拘禁刑」を創設する改正刑法などが13日成立した。2000年代の刑務所改革に携わった法務省元矯正局長の名執雅子さん(61)に、国内の刑務所を巡る変化や法改正の意義を聞いた〉

 今回の法改正では、刑務作業が義務の懲役と、義務ではない禁錮を一本化した拘禁刑を創設し、改善更生のために必要な作業や指導ができると新たに規定した。再犯防止と円滑な社会復帰支援のため、個々の受刑者の特性に応じて作業と指導のベストマッチで柔軟な処遇を図る狙いがある。
 もともと日本には犯罪に関する規定や刑罰を定めた刑法と、刑の執行方法や受刑者の処遇方法を定めた監獄法という二つの法律が存在していた。どちらも明治期に制定されたものだ。
 02年の名古屋刑務所の受刑者死傷事件を受け、有識者による「行刑改革会議」が発足。受刑者の人間性を尊重し、改善更生や社会復帰に向けた処遇をすることが刑務所の役割だと明確に打ち出した。
 監獄法が06年、約100年ぶりに改められ、刑事収容施設法として施行。社会生活に適応する能力の育成を図るため、改善指導が明記され、教育的処遇の充実に重点を置いた新たな法律に生まれ変わった。
 一方、事件を機に、外部に積極的に情報を公開する「開かれた矯正」を掲げ、その結果、外部との連携の素地ができた。社会福祉法人南高愛隣会(諫早市)の故田島良昭元理事長が高齢や障害のある受刑者の問題に気付き、出所時に必要な福祉的支援につなげる「地域生活定着支援センター」を設置するなど、福祉との連携が始まった。
 社会復帰支援の重要性への認識が高まり、16年には再犯防止推進法ができ、地域や自治体と連携して、刑務所の中の処遇も含め再犯防止施策を推進する流れになっている。
 刑務所ではこの十数年で薬物依存や性犯罪の改善プログラムなど各種指導が進展したが、懲役の場合、一定の作業をさせないといけない制約があった。法改正で若年受刑者の就労支援や高齢受刑者への福祉的支援など柔軟に、より充実した処遇ができるようになる。
 充実を図るとなると、外の力をさらに導入していくしかない。福祉の専門家などが刑務所の中に関わることで、帰住後までを見据えた、切れ目のない、息の長い支援につなげることができる。そのためには地域の理解が必要だ。
 法改正で取り組もうとしている矯正処遇は加害者の再犯防止、ひいては安全安心な地域社会をつくることにつながる。理解を共有してもらいたい。

 【略歴】なとり・まさこ 慶応大法学部卒。1983年に法務省に入り、少年院や少年鑑別所などで勤務。同省矯正局少年矯正課長や総務課長などを経て、2018年9月から退職までの約1年半、女性初の矯正局長を務めた。


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