日本勢の巻き返しなるか? 現代の生活を支える半導体業界

一口に製造業といっても、千差万別。このコラムでは、製造業界の基礎情報やトレンドを紹介します。第三回目は、「半導体業界」を解説します。

現代人の生活に不可欠な半導体

半導体は「産業の中枢を担うもの」という意味で、「産業のコメ」と呼ばれる。半導体は、スマートフォンやパソコン、自動車をはじめ、あらゆる電子機器に内蔵されており、現代人の生活は半導体抜きには成り立たないといっても過言ではない。世界の半導体出荷個数は1兆個を超え、単純計算で1人当たり年間約130個を消費していることになる。

半導体市場は絶好調

2020年の日本の半導体市場は、前年比0.6%減、金額では約3兆8,934億円となったが、2021年は同22.0%増と反転し、市場規模は約4兆7,486億円に成長した。2022年は、前年比で10.3%増となり、市場規模は5兆2,395億円に達すると予測されている。半導体市場が5兆円を超えるのは、2008年以来だといえば、現在の市場の好調さが分かるだろう。世界の半導体売上高は、2030年には現在の約2倍の115兆円に達すると見込まれ、日本政府は、同年の日本企業による半導体の売上高目標を13兆円としている。しかし、足元では、急増する需要に供給能力が追いついていないのが現状だ。

コロナ禍が引き起こした世界的な半導体不足

新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワークの普及や巣ごもり需要が急増した。また、テレワークの急速な普及で、データセンターを強化する動きが強まったことや、5G関連の投資増などで半導体需要が高まる中で、多くの半導体メーカーが、半導体生産をファウンドリに委託した。さらに、米中貿易摩擦で、米国が中国のファウンドリ企業に事実上の禁輸制裁を行ったこともあり、台湾や韓国のファウンドリ企業に注文が殺到し、需要と供給にギャップが生じた。

さらに、当面回復しないと思われていた自動車市場が予想よりも早く回復したことも、供給不足に拍車をかけることになった。半導体メーカーは、家電やPCなどの生産ラインを増やし、自動車向けの半導体の生産ラインを減らしていたため、急回復した自動車向けの半導体需要に対応できず、自動車メーカーが生産調整を行う事態となった。加えて、2021年以降、ルネサスエレクトロニクスの半導体製造工場(那珂工場)で火災が発生するなど、相次いで発生した自然災害や工場での水不足や火災によって、半導体不足が加速した。

安定供給と技術優位の確保のため、半導体の生産の国内回帰が進む

そもそも半導体は、どのように製造されるのだろうか。半導体の製造工程は大きく「設計工程」、「前工程」、「後工程」の3つに分けられる。回路を設計し、フォトマスクを製造するのが「設計工程」、ウェハ上の電子回路を形成するのが「前工程」、そして、ウェハから半導体を切り分けるのが「後工程」だ。材料であるシリコンから、最終製品である半導体チップが出来上がるまでには、なんと400〜600の工程が必要だという。半導体の製造は、工場以外でも素材、装置から受託生産まで世界的な分業の上に成り立っている。世界中に広がったサプライチェーンのどこかで「事故」が起きれば、影響が発生するのは不可避といえる。

新型コロナウイルス感染拡大によるサプライチェーンの混乱や、米中貿易摩擦の激化を受け、各国では半導体産業の国内回帰が加速している。米国では、半導体分野に520億ドル(約6兆円)を投じ、米国内の製造能力を高めたり、研究開発を促したりする法案が可決された。日本政府も半導体の確保を経済安全保障の重要案件と位置付けており、経済産業省の支援のもと、台湾のTSMCとソニーセミコンダクタソリューションズが熊本県に自動車やIT関連向けの半導体の新工場を建設するなどの動きがある。

米国や台湾企業の台頭に押される日本企業

米インテルや台湾のTSMCなどが台頭する世界の半導体市場における日本企業の存在感は、日本の半導体業界の黄金期であった1980年代と比較すると薄れつつある。もちろん、フラッシュメモリーのキオクシアやイメージセンサーのソニーグループなど、日本には今でも特定分野に強い企業は存在する。また、半導体材料業界では、信越化学工業とSUMCOの2社で世界シェア6割を占めるなど、日本の技術力は今でも半導体産業に欠かせない。

しかし、デジタル機器の頭脳に当たるロジック半導体では、米インテルや米エヌビディア、韓国のサムスン電子などに歯が立たないのが現状だ。1980年代、日本企業は世界の半導体売上高シェアの約5割を握っており、上位10社中、6社がNECや東芝などの日本勢が占めていた。現在の、日本企業の売上シェア1割を切っており、売上高の上位には米国、韓国、台湾企業が並ぶ。

現代の生活に欠かせない半導体には、今後も各国が積極的な支援を行い、官民挙げての競争が加速していくだろう。世界の半導体業界の成長に、日本の半導体企業が伍していけるのか、注目だ。

関連する業界団体

一般社団法人 日本工作機械工業会:https://www.jmtba.or.jp/

一般社団法人 電子情報技術産業協会:https://www.jeita.or.jp/japanese/

一般社団法人 半導体産業人協会:https://www.ssis.or.jp/

(製造DXチャンネル 2022年4月25日掲載)

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