コロナほとんど無症状か軽症…5類相当に引き下げるべき 大阪大学特任教授の大竹文雄氏「行動制限、長所短所比較して政治判断を」

大阪大学特任教授・大竹文雄氏

 ―新型コロナウイルスの新たな感染拡大に備えながら、社会経済活動の正常化に向けた取り組みが進みつつあります。今年1月にはまん延防止等重点措置の発令に反対していましたが、現在の考えは。

 「ほとんどの人が無症状、あるいは軽症であることを考えると、医療の逼迫をもたらすような病気では今のところない。高齢者の3回目ワクチン接種は約9割の人が終えた。そういう意味でも重症化リスクはかなり大きく下がっている。行動制限は観光業や飲食業にマイナスの影響を与えるが、それだけではない。ビジネスや普段の生活でも、マスクによって表情が見えないということで、生産性も幸福度も教育のレベルも下がる。治療法がなく致死率が高い場合には、当然人命を重視しないといけない。その場合なら、社会経済活動をある程度犠牲にしてでも行動制限によって感染を抑えることは合理的。しかし重症化リスクが下がってきた病気に対して、行動制限をして、社会経済活動を止めて感染拡大を抑えるべきか。季節性インフルエンザの感染が拡大しても、経済は止めない。感染拡大によるデメリットと、それを抑えるために社会経済活動を止めることのデメリットを比較して決める。感染症や教育、社会経済の専門家が、どんな影響があるか意見を出して最終的には政治が判断すること」

 ―新型コロナの感染症法上の位置付けを、危険度が5段階で2番目に高い「2類相当」から季節性インフルエンザ相当の「5類」に引き下げるべきという見直し論があります。

 「『5類』相当に引き下げるべきだ。重症化リスクが高ければ、行政による私権制限は正当化される。保健所に毎日健康情報を伝えるなど国や自治体は陽性者の行動を制限している。そこまで重症化リスクがあるような病気ではないとほとんどの人は思っている。そうなったときに、行動制限、私権制限することが正当化できるのか。もしそこまでの深刻な病気ではないということであれば自発的な対策で十分。季節性インフルエンザは致死率からいうと危険な感染症。しかし病院に行くことや休むかどうかは自分で判断している。保健所に命令されるわけでも公費負担で入院させるわけでもない。『5類』に引き下げたときに、全額公費負担がなくなるというのは当然」

 「『2類』相当が問題なのは、濃厚接触者や感染者の行動を制限すること。そのため企業や学校で過剰に感染対策をしようとする状況になっている。濃厚接触者の追跡調査範囲は変更されているが、基本的にはあまり変わっていない。軽症、無症状だとしても、行動制限を受けてしまう。季節性インフルエンザのときに濃厚接触者の調査はしない。新型コロナはもはや『5類』の感染症であると理解することが重要。重症化リスクが下がったという前提で考えれば、『2類』である必要性は既にない」

 ―新型コロナ対策が子どもに及ぼす影響を懸念する声があります。

 「子どもがあまり重症化しないという病気に対して、行動制限をかけることはデメリットが大きいのではないか。体育の授業やクラブ活動など屋内、屋外での活動が制限され、教育の質も明らかに低下している。マスクによって表情が見えないことは、教育や発達への影響を考えるとマイナス。『5類』にして、季節性インフルエンザと同じような対応にすれば変わる」

 ―政府は水際対策を緩和しました。

 「ウイルスが将来どのように変異するか分からない。変異株の特性を踏まえて対策を柔軟に見直し、運用する必要が当然ある。状況に応じて首相が決断すればよい。水際対策についても、国内に一定数の感染者がいる状況で、海外の感染者の比率と大して変わらないのであれば、国内の人が移動することとどこが違うのか。感染率が非常に高い地域からの入国者は、ある程度制限を加えることは合理的かもしれないが、そうでない場合は、特に外国からだからといって規制する必要はない」

 ―ウィズコロナに向け、出口戦略をどのように描いていくべきでしょうか。

 「感染再拡大のリスクは常にある。ただ2年前とは違い、ワクチンがあり、治療法も確立している。そうすると特別に怖がる必要性がある病気ではなくなったということが理解できる。重症化リスクの高い人にはきちんと対応していく、という方向に変えるべきだ。国内ではワクチンも努力義務。マスクやステイホームもすべて義務ではなかった。国民が感染対策をすることで社会を守ることができるという合意ができていた。これからは正しい情報のもとで変えていかなければならない。過度な対策や長期化によって私たちが失うものは非常に大きい。短期間ならある程度犠牲を払ってもよいが、このまま続けるのかどうか。もう一度考え、普通の病気とみなしていく時期にきている」

 ◇大竹文雄氏(おおたけ・ふみお)1961年生まれ。京都大学経済学部卒。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。専門は労働経済学・行動経済学。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の委員を務める。著書に「行動経済学の使い方」などがある。

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