中国はロシアの行動に反対、ロシアと一緒にしてほしくない 中国の立ち位置や台湾の平和統一をめぐって 日中両国の安全保障専門家が激しく議論~第4回日中安全保障会議報告~

 6月13日、言論NPOは中国の上海国際問題研究院との共催で第四回日中安全保障会議を開催しました。東京と上海をオンラインでつないで行われた今回の対話では、ロシアのウクライナ侵略における中国の立ち位置や、台湾の平和統一を中国はどのように進めていくのかといった点について議論が展開されました。

 この中で中国側の参加者は、個人的な意見と断りながらも、中国はロシアの行動に反対であること、NATOの東方拡大や指導者間の個人的な関係もあり、対応が明確になっていないように見られるが、ロシアとは中国を一緒にしてほしくない、などの見方が繰り返し示されました。

 日本側からは、中国が国連憲章の立ち位置に立ち、世界の平和秩序の擁護者としての姿勢を示すためにも明確な反対の態度を示すべき、との意見が示されたほか、中国には「米国との戦略的競争」というレンズで物事を見る癖がついているとし、それが態度を明確にできない「罠」に陥っている原因である、との指摘がありました。

 この日の議論には、日本側からは、言論NPO代表の工藤泰志に加え、「アジア平和会議」から座長の宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)、河野克俊氏(前自衛隊統合幕僚長座長代理)をはじめとする9氏が参加。中国側からは、陳東暁氏(上海国際問題研究院長)や陳小工氏(元「中央外弁」副主任、元中国人民解放軍空軍副司令官、元空軍中将)など計9氏の計18氏が参加しました。

現状分析よりも平和秩序の修復とアジアの紛争回避で具体策を考える

 開幕式ではまず、主催者挨拶の中で陳東暁氏が「世界の安全保障環境が悪化している。また、日中間でも安全保障のジレンマをどうコントロールしていくかは大きな課題だ」と語ると、工藤も「現状分析よりもとにかく秩序の修復と平和の実現に向けた具体策について本音で議論してほしい」と呼びかけ、議論がスタートしました。

 基調講演で前駐日中国大使の程永華氏は、安倍政権時代に日中両国は建設的な安全保障関係の構築で合意していたにもかかわらず、その後停滞していることを指摘。防衛交流や、危機管理メカニズム機能化など具体的な課題に取り組むなどしてイデオロギーにとらわれずに協力を進めるべきと提言しましたが、同時にアジア太平洋に軸足を移す米国に追随しすぎないよう日本側に釘を刺す場面も見られました。

 宮本雄二氏は、ロシアによるウクライナ侵攻は戦後国際秩序に対する巨大な衝撃となり、日本社会の世界に対する見方を一変させたと分析。また、西側においてロシアと中国の一体視が進むとともに、仮想版冷戦構造が生じつつあるとしましたが、これは「何もしなければ『仮想』が『実体』に変わる」と強く警鐘を鳴らしました。

 宮本氏はその上で、国交正常化50周年という節目は、日中関係を再考する分岐点であるとしつつ、先人たちの不戦の誓いに則りながら両国が何をすべきか構想すべきであると主張。「それが有識者の歴史に対する責務だ」と訴えました。

 第一セッションは、「ロシアのウクライナ侵攻と今後の世界平和秩序」がテーマ。冒頭、于鉄軍氏が中国政府の公式の立場はすべての国の主権と領土の相互尊重であるためウクライナも尊重するとしつつ、歴史的な経緯、そして安全保障の観点から「ロシアの立場も理解できる」とし、友好国であるが故の中国の難しい立場を語る場面がありました。

 これを受けて中国側からは、「イラク戦争時でも中国は曖昧な姿勢だった」「侵攻には反対だが、その反対のやり方が西側諸国とは違うだけだ」「2014年のクリミア併合の際、日本は欧米よりもロシアに融和的だったではないか」「日本もサハリン2から撤退していない」などといった発言が相次ぎました。

 これに対し、日本側からは「国連憲章の重要原則に違反しているロシアを中国が批判しないことの意味は大きい」「『人類運命共同体』実現のためには他国の主権や領土を侵害してはならないと謳ってきたではないか」などとロシアと明確に一線を画すことを迫る意見が寄せられました。

 一方、エネルギーや食糧などの点では中国も影響を受けており、また停戦や戦後復興の必要性という点では日中両国は一致しているために協力できることは多いはずだ、といった前向きな意見も寄せられると、工藤も言論NPOが実施した「55カ国民主主義世論調査」ではウクライナ国民の中国に対する期待が極めて高かった結果を紹介しつつ、ロシアの侵略行動に対する中国のリーダーシップに期待を寄せました。

 「台湾有事と紛争をどう管理するか」をテーマとした第二セッションでは、中国側の問題提起として姚雲竹氏は、米中対立の中で、米国が台湾海峡を中国に打撃を与えるための武器にしようとしていると分析しつつ、一つの中国原則の修正を試みる米国、そしてそれに歩調を合わせる日本の動きを問題視しました。

 張沱生氏は、蔡英文政権下で独立に向けた動きがさらに拡大し、それを米国が追認すると台湾海峡に本格的な危機が到来すると警告。その危機を回避するためには米中双方にとってのレッドラインを越えることのないように管理することが必要だと提言。首脳レベル、防衛当局間のコミュニケーションの向上が必要であるとするとともに、日米に一つの中国原則を堅持するように求めました。特に日本に対しては、「台湾有事は日本有事で日米同盟の有事でもある」と述べた安倍元首相のような言説をすべきでないと忠告しました。

 一方で張沱生氏は、独立派に対する手段を留保するためにも中国政府は「絶対に武力行使はしない」という確約はしないとの見方も示しました。

 日本側から問題提起に登壇した香田氏は、台湾国民は自由で民主主義が定着した社会の継続を希望しているが、独立までは志向していないと現状分析。しかし、中国がこのような台湾の現状を無視して独立に向けた小さな動きを見出し、無理矢理武力統一に乗り出すことを日米は憂慮していると指摘しつつ、「中国は平和統一とはいかなるものか説明する必要がある」と語りました。

 続いて高原氏は、「中国の世界観がロシア化している」と問題提起。米中対立の中で、「米国との戦略的競争」というレンズで物事を見る癖がついているとし、それが日本は対米追従しすぎているといった偏った見方につながっていると指摘しました。

 高原氏の問題提起に対しては、中国側からも「米国の圧力が強大であるために、中国はどうしても米国を基準として物事を見てしまう」といった回答が寄せられましたが、同時に「中国は既存の秩序の恩恵を受けており、そこがロシアとは異なる」といった意見も見られました。

 問題提起を受けて自由討議では、一つの中国原則に関して、日本側から日中共同声明では「理解し、尊重する」としているのであって、日本は中国側の理解に100%同意しているわけではないといった指摘が寄せられると、中国側からは台湾の返還を明記したカイロ宣言、さらには「カイロ宣言の条項は履行すべき」とするポツダム宣言第8条を根拠として中国側の理解への全面的同意を求めるなどの応酬が見られました。

 中国の台湾の「平和統一とはいかなるものか説明する必要がある」という香田氏の問題提起に対しては、「平和統一の方が武力統一よりもはるかにコストが少ないためにこれしか選択肢がない」「ハード面での優位性に加え、時間をかけてソフト面でも魅力を増していくことによって台湾側から平和統一を望む声を増やしていく」といった説明が中国側からありました。

 最後の第三セッションでは、現状について「日中関係は薄氷を踏む危機状態」(中国側)「未来に向けた分岐点」(日本側)にあるとの厳しい認識が日中双方から出されました。その上で、2022年が日中国交正常化50周年ということもあり、過去の関係改善に向けた取り組みの総括に加え、今後の日中関係の立て直しにどのように具体的に取り組むのか、ということについて話し合われました。

【日本側参加者】
小野田治(日本安全保障戦略研究所上席研究員、元航空自衛隊教育集団司令官(空将))
川島真(東京大学大学院総合文化研究科教授)
河野克俊(前自衛隊統合幕僚長)
工藤泰志(言論NPO代表)
香田洋二(元自衛艦隊司令官(海将))
神保謙(慶應義塾大学総合政策学部教授)
高原明生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
益尾知佐子(九州大学比較社会文化研究院准教授)
宮本雄二(宮本アジア研究所代表、元在中国日本大使)
【中国側参加者】
陳東暁(上海国際問題研究院長)
呉寄南(上海国際問題研究院教授、上海市日本学会名誉会長)
程永華(元在日本中国大使)
于鉄軍(北京大学教授)
帰泳涛(北京大学国際関係学院副院長、准教授)
陳小工(元「中央外弁」副主任、元中国人民解放軍空軍副司令官、元空軍中将)
姚雲竹(元中国人民解放軍軍事科学院中米防衛関係研究センター主任、元陸軍少将)
張沱生(中国国際戦略研究基金会主任)
呉懐中(中国社会科学院日本研究所副所長、教授)

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