企業価値10億ドルを超える「ユニコーン」の事業アイデアの見つけ方

岸田文雄首相が2022年5月にロンドンで行った講演の中で、「スタートアップ投資」に取り組んでいく方針を掲げましたが、企業価値が10億ドルを超える「ユニコーン」と呼ばれる、世界を変革するようなスタートアップは、どのように生まれてきたのでしょうか?

そこでスタートアップの聖地・シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト、アリ・タマセブ氏の著書『スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件』(渡会 圭子氏訳、すばる舎)より、一部を抜粋・編集して成功しているスタートアップがいかにアイデアを見つけたのかを紹介します。


アイデアはこうしてさがす

プロダクト・ハントの創業者であり、ヴィレッジ・グローバル(アーリー・ステージのベンチャーキャピタル企業)の共同創業者でもあるエリック・トーレンバーグは、毎年、数多くのスタートアップのアイデアを目にする。どのようなアイデアをさがせばいいのか彼に尋ねると、いくつか枠組みを教えてくれた。

人々に深く関わる問題を解決する事業。たとえばティンダーは新しい恋人をさがすという問題を解決した。次に新しいプロダクトや価値を生み出す事業。フェイスブックは新しいコンテンツを生み出し、エアビーアンドビーは新たな居住場所の提供を始めた。他に物流と倉庫管理のフレックスポートのように、退屈な事業を手がけて成功したスタートアップもある。

「他の人がやろうとしないくらい、つまらない事業を選ぶことだ」とトーレンバーグは私に言った。“クール”なアイデアをさがす起業家もいるが、一番クールなのは、たとえ事業がつまらなくても大成功することだ。

アイデアを出すのが1人ではなく、1つの集団の場合もある。ロクは最初、ネットフリックス社内のプロジェクトで、ストリーミング配信会社のハードウェア部門への軽視を避けるため独立させた。同じように、エクスペディアはマイクロソフトの旅行予約事業が始まりだった。ポケモンGOで有名なナイアンティックは、グーグルの社内プロジェクトから5年後に独立した。

またベンチャーキャピタル企業から生まれる会社もある。データ・ウェアハウスのスタートアップ、スノーフレイクは、シャッターヒル・べンチャーズで生まれた。ワークデイとパロアルト・ネットワークスはグレイロック・パートナーズで生まれた。

これを突き詰めて、ベンチャー・スタジオと呼ばれるものをつくってしまうVC企業もある。創業者を連れてきて、社内事業として会社をつくらせるのだ。アトミック・ラボは、ベンチャー・スタジオの1つである。他のいくつかのスタートアップと同時に、ヒムズというパーソナルケア・プロダクトのサブスク販売を行なう会社をつくった。

このような形態はバイオテック分野にはもっと多い。ボストンに本社を置くベンチャーキャピタル企業、フラッグシップ・パイオニアリンは、複数の大型スタートアップをこのやり方で始めた。その1つがmRNA薬品とワクチンを開発し、COVID―19 のワクチン製造に最初に成功した企業となった、モデルナ・セラピューティクスである。

大学などの学術機関から飛び出すアイデアもある。グーグルの創業者たちはスタンフォード大学在学中にページランク・アルゴリズムを開発し、〝Google.stanford.edu〞と、グーグルをスタンフォードのドメイン名でホストしていたが、1997年にGoogle.com が登録された。

バイオテクノロジー企業のジェネンテックは大学の知的財産から始まった。ロバート・スワンソンは同社を設立する前、できたばかりのベンチャーキャピタル企業クライナー・パーキンスのアソシエイトとして働いていて、そこで出資した会社を通して組み換えDNAについて学んだ。

スワンソンは、そこを辞めたあとも、そのアイデアに興味を引かれていた。社員ではなくなったため、彼はそのテクノロジーに取り組んでいる科学者に売り込みを始めた。その1人であるカリフォルニア大学サンフランシスコ校教授、ハーバート・ボイヤーが彼の共同創業者となる。ボイヤーは組み換えDNA分野のパイオニアで、その技術を商業化することに同意した。

現代のバイオテック産業を発展させたジェネンテックは、糖尿病治療用の合成インスリンを初めて生産し、のちに現在使われている重要な薬を多く発明した。ジェネンテックはやがて膨大な株主価値を生み、2009年に470億ドルで買収された。

アイデアを練ることはすべてのスタートアップに不可欠だ。アイデアは簡単に浮かぶが、それを適切なアイデアにまで練り上げることが成功への鍵だとよく言われる。これからの10年をスタートアップに捧げようとするなら、まず時間をかけて、それが取り組む価値のあるコンセプトであることを確認したいと思うだろう。まず自分が個人的に不便だと感じていること、特に職場での問題をさがす。

もし見つからなければ、経験から言うと、トップダウン方式でもすばらしい結果が生まれることがある。トレンドを見極め、あるいは市場を選択し、自分がよく知っている顧客層を選び、彼らが困っている現実の問題を見つける。早い段階で検証し、自分が取り組んでいる問題は、勝手につくり上げたものではないことを確かめる。一番いいのは、自分がつくったプロダクトを欲しいか聞いて回るのではなく、事前販売を行なうことだ。

また創業者とマーケットの適合性(ファウンダー・マーケットフィット)についても考えなければならない。自分たちがこの特定の問題を追求する、最高のチームであると考える理由は何か。他の知らないことをどのくらい知っているのか。他の人が持たないどのような強みを自分が持っているのだろうか。

アリ・タマセブ 著、渡会圭子 訳

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GAFA後も続々誕生している、ズーム、インスタカート、ペイパル、ネスト、カイト・ファーマ、ギットハブなど10億ドル達成したスタートアップ企業の創業者、またフェイスブック、エアビーアンドビー、ドアダッシュ、リンクトイン、ストライプなどへの出資者であるピーター・ティール、イラッド・ギル、投資企業のセコイア・キャピタル、ファウンダーズ・ファンドなどへの独占的インタビューも収録。
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