Vol.06 映画撮影現場にFX6とFX3で臨む[Cinema Line 今、広がる大判の世界]

事実をもとに映画化された「20歳のソウル」

2022年5月27日公開の映画「20歳のソウル」。千葉県船橋市の市立船橋高校(以下、市船)に代々受け継がれている応援曲「市船soul」。その楽曲は、市船を勝利へ導く神応援曲として話題になった。本作はこの名曲を生み出し、同校吹奏楽部出身であり、20歳という若さで、その短い人生の幕を閉じた、浅野大義(たいぎ)さんの実話を元にした映画だ。

「大義の魂に音楽を聴いてもらおう」。同校の吹奏楽部顧問・高橋先生の呼びかけに、彼の告別式には164人の部員が集まる。そこで奏でられたのは「市船soul」。これまで仲間の背中を押し続けてきた「市船soul」が、大義を天国へと送り出す。彼が残した音楽は後輩たちに受け継がれ、いまも彼の魂とともに生き続けている。

演出を手掛けたのは、元テレビ朝日の演出家・プロデューサーで、「特命係長只野仁」シリーズや「同窓会~ラブ・アゲイン症候群」、「陽はまた昇る」などを手がけてきた秋山純監督。今回の作品も、ドキュメンタリータッチに近い独特な秋山監督スタイルの演出法に手慣れたスタッフでないとなかなか難しい現場だが、長年秋山監督の現場に携わっている株式会社万永の撮影監督 百束尚浩氏と、カメラマンの島田貫仁氏が撮影に臨んだ。

そして今回のアクティブ性・柔軟性が求められる現場で活躍したのが、ソニーCinema Line FX6/FX3だ。今回は、百束氏と島田氏にその撮影現場で活躍したFX6、FX3についてお話を伺った。

(左)撮影監督 百束尚浩氏、(右)D.O.P. 撮影 島田貴仁氏

百束尚浩氏

取締役 撮影監督(株式会社万永)

島田貴仁氏

D.O.P. 撮影(株式会社万永)

「20歳のソウル」

出演:神尾楓珠 / 尾野真千子 / 佐藤浩市 他

監督:秋山純

脚本:中井由梨子

原作:中井由梨子 「20歳のソウル 奇跡の告別式、一日だけのブラスバンド」(小学館 刊) 「20歳のソウル」(幻冬舎文庫)

配給:日活

©2022 「20歳のソウル」製作委員会

映画から写真撮影までメンバーが多様に活躍する

撮影監督 百束尚浩氏

――株式会社万永、そして業務領域について教えてください

百束氏:

株式会社万永は、1981年創業の映像制作会社です。長年テレビ業界や映画業界で制作に携わってきましたが、最近では、撮影、照明、録音から編集まで制作の工程全てに携わっています。仕事のサイズも個人で受けるような仕事から映画や大きなイベント関係の仕事まで様々です。
僕自身のキャリアについては、大学入学以前にスチルでキャリアをスタートしました。その後、日本大学芸術学部入学後、映像を始めました。社会人になって多岐にわたって映像に関することをこなすようになったのは、当時あった海外のカメラメーカーに就職し、営業から制作までを覚えたという感じですね。

D.O.P. 撮影 島田貴仁氏

島田氏:

僕はムービー撮影だけでなく、スチルもやりますし、編集もやります。当社では照明やカラコレや合成までカメラマンが知識としてだけでなく、実際自分で作業を経験して各現場に活かしています。映像がキャリアのスタートです。通常はスチルから入ってムービーも手がける流れの方が多いと思いますが、僕の場合は逆でしたね。

百束氏:

ですので、僕も島田もスチルとムービーを手がけています。スチルとムービーのトーンを合わせて欲しいという案件も多いので、じゃあ両方やりましょうという仕事が多いですね。

――映画「20歳のソウル」にかかわるきっかけはなんでしょうか?

百束氏:

「20歳のソウル」はすでに舞台化が決まっていました。我々が仕事としてかかわったのは舞台収録からでした。
実話のストーリーはすごく辛い話です。まずは舞台劇中での主人公・大義君役の演技が凄まじく、我々もその演技を映画まで引きずる事になります。その後、急速に映画化の話が進行し、映画の撮影も引き続き行いました。
クランクインが昨年2021年で、ちょうど緊急事態宣言が明けた頃から、次の緊急事態宣言が出る4月までの間で撮り切りました。桜のシーンも出てきますが、実際の浅野大義君が卒業した市立船橋高校や周辺の通学路などで撮影しています。

使い慣れたソニーのカメラで捉えた映像群

――Cinema Line導入のきっかけを教えてください

百束氏:

今回はCinema LineのFX6とFX3をメインで使用しました。ちょうどFX3が発売された時期だったので、入手するのが大変でしたね。色々探したのですがどこにも在庫がなく、探し回ってやっと手に入れた感じです。作品では4カメ体制がベースで、球場のシーンなどは、観客を入れて何日も撮影できないので8カメ体制で撮影しました。FX6が5台、FX3が2台、α1が1台です。

島田氏:

今回はFX6、FX3に加えて、α1もワンカットだけ使用しています。8Kで撮っておこうというカットがあり、そこで使いましたね。作品によってカメラも様々な機材を使用していますが、ソニーのカメラはずっと使っていて、過去にはPMW-EX1やEX3とかもずっと使っていました。今回の作品ではFX6とFX3をかなり均等に使用しています。

FX6はソニーの映像制作用カメラ商品群Cinema Lineに属する製品。35mmフルサイズ裏面照射型イメージセンサー搭載のコンパクトなレンズ交換式カメラ。2020年12月発売

――画作りに関してどのような方針がありましたか?また、この映画の撮影でどのような表現を狙いましたか?

百束氏:

秋山組は何回もお芝居はしないです。しかも監督は1回目の芝居を使いたい方なのでテストもゲネプロ(通し稽古)もやりません。実際に秋山監督自身もそれを明言されており、撮影を進めていくスタイルです。
もちろんベテラン俳優さんでどうしてもテストしたいという方がいる場合はありますが、今回のように若い子たちが主なキャストでその熱量でドーンと行こうという場合は一発撮影ですね。だから撮影部はフィルム以上の緊張感がありました(笑)。さらにここまで!という「はい、カット」と声がかからないシーンも多いので、予め撮影部が編集点を予想して撮影するという感じでした。
今回の撮影スタッフも、「秋山組を知っているチーム」でさらに、「ドキュメンタリー経験者」ということで人選しました。また今回の編集も、弊社カメラマンの一人で、撮影素材を把握している岡田が行っています。

――表現への狙いの中で、課題として大きかったこと、FX3・FX6がそれぞれ具体的にどのようなシーンで貢献しましたか?

島田氏:

FX6は良いカメラですね。使えば使うほどその良さがわかります。電子式のバリアブルNDフィルター内蔵というところも特に良いですね。現場環境から臨機応変に光を調節できるフレキシビリティと、即座に撮影に入れるスピード感が得られたことは制作進行上有用でした。何もよりも、一発撮りで熱量を捉えていく必要性から、シネマカメラの表現力を持ちながら小回りが利くことは重要でした。
最近はFX6もジンバルに乗せて使っています。
VENICEも候補として考えましたが、今回のドキュメンタリータッチの機動性を考えるとやはりFX6でしたね。ジンバルだけで撮っているところは、さらに自由度の増すFX3とα7S IIIで撮影しました。

百束氏:

VENICEとFX6を比べると、FX6は特に暗部特性がいいので、それでFX6を選択したのもあります。
あと(秋山組のように)テストもない現場でVENICEのようなカメラを持ち込んですぐに使うのは難しいので、FX6は所有しやすい価格帯で、社内で操作にも慣れることもできたので、よかったですね。弊社はレンタルで臨むことも多いですが、基本所有します。特に秋山組などの大変な現場に使うカメラは所有している方が何かと便利です。

レンズで演出をするということ~桜の満開の秘密

――使用したレンズを教えてください。またレンズが貢献したシーンはどのようなところでしょうか?

島田氏:

Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSSをよく使いました。解像感が全然違った印象です。今回、単焦点レンズはあえて使用しませんでした。最近、改めてパンフォーカス気味で撮影するのが気に入っていまして、それで絞って撮っていましたね。
前半はVario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSSで、後半に行くに連れてFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSやFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSなどの望遠レンズを使っています。桜のシーンは超望遠でないと無理でしたね。桜は全てリアルで、実際は五分咲きくらいだったのですが、そこをシーンによって、超望遠で狙って満開に見せたり、少し引いて8分咲きに見せたりしています。
桜のシーンは全てレンズのミリ数で演出しています。FX6にFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSを装着し、オートフォーカスで手持ち撮影しました。オートフォーカスがやはり優秀でした。手ぶれ補正についても映像に合った自然な手ブレ補正モードがあることが良かったですね。

百束氏:

最初、広角レンズを多用しているのは、前半、勢いで撮影していて、多人数の出演で動きも決まっていない中で、若い子たちがどういう動きをするのかわからないし、勝手に動く役者は2人いるし(笑)。流れで押さえられるようにということで、FX3に広角レンズを組み合わせて結構使っていますね。前半は常に絞りこんでパンフォーカス狙いで撮っています。

ソニー、Cinema Lineシリーズ最小最軽量のフルサイズセンサー搭載カメラFX3。筐体サイズはミラーレス一眼カメラ同等だが、動画撮影がしやすい操作性と冷却ファンを内蔵し長時間の収録をサポート。2021年3月発売

――Cinema Lineシリーズの色彩についてはいかがでしょう?収録モードは?

百束氏:

まず全て、S-Log3/S-Gamut.Cineで撮っています。この収録モードであれば、思い描く色彩に近づけやすいからです。当社ではソニーのカメラ運用に慣れていますので、このS-Log3/S-Gamut.Cineが社内では定番です。様々なカットやフッテージでも知り尽くしているこの収録モードで、もし何かあった場合でも対応ができます。今回は非常に特殊な現場でもありましたので、Cinema Lineシリーズの素晴らしいオートフォーカス性能を最大限に活かすために、その他の条件は、経験値があり、信頼を置ける選択をしました。

百束氏:

FX6は本当にいいカメラです。FX6が無かったら「20歳のソウル」は実現できなかったと思います。今回も手持ちのシーンが本当に多いのですが、レンズの手ブレ補正機能にも助けられました。
FX6は、追加で8台くらいにしたいと思っています。理想的にはFX6にドローンが付いていて、手持ちからそのまま空中に上がっていってくれるような、そんな撮影ができれば理想ですね(笑)。あとファインダーをつけて欲しいですね。視度調整などができるとありがたいです。
弊社は長年ソニーのカメラを選んでいますが、その理由は、他に比べて圧倒的にカメラとしての完成度が高いことが一番の理由ですね。

――機材の進化と変化は、目まぐるしい限りです。この状況について所感をお聞かせください。

百束氏:

自分がいま一番興味あるのが映像業界での生き残り方なのです。今後は映像クリエイターも、撮影や編集とかだけでなく制作までもプロデュースできないとダメな時代ですね。お金勘定も含めてセルフプロデュースも必須だと思います。機材の選択も含めて、お金勘定がきちんとできないと先が見えてこない時代ですからね。

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