<金口木舌>心のバリアフリー化

 琉球新報から埼玉新聞の記者に転身した故近田洋一さんの著書に「駅と車椅子」がある。1980年に埼玉県鴻巣市の駅の橋上化計画が浮上し、それに抗議する車いす生活者の姿を伝えた

▼地続きで通えた駅が橋上化されれば、不便は計り知れない。近代化への抗議の本質を近田さんはこう評した。「彼らのたたかいは障がい者と差別され、しかたがないと自己承認させられ、社会との関係性を絶たれることへの抗議だった」

▼車いすで生活するコラムニスト伊是名夏子さんへのバッシングを思い起こした。電車の乗車拒否について書くと「わがまま」「迷惑」と中傷が相次いだ

▼「社会との関連性を絶つ」行為の横行に人心の狭量さを垣間見る。「障害は人にではなく、社会の側にある」のだ

▼伊是名さんが本紙に書いていた。「子どもや、自分とは違う人に耳を傾け、その人が豊かになれる暮らしを目指しませんか?」。それが「あなたをはじめ、いろいろな人の幸せにつながる」。街のバリアフリー化には、寄り添う「心のバリアフリー」も欠かせない。

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