<南風>奇跡のイノー

 今年も大雨による赤土流出が山原の辺土名はじめ本島西海岸各地で見られた。

 私のフィールドの一つ、瀬底島アンチ浜では入れた手が見えないほどに濁っていた。同じころ、伊平屋島北西岸のイノーでは全く濁りを観察しなかった。調査中に巻き上げた砂はサラサラと沈降し、全く濁りが残らない。まるでゲレンデのパウダースノーだ。イノーに流れ込む表層水が表土を持ち込まない。つまり土地を触っていないということだ。夏でも人影のないプライベートビーチ、澄み切ったイノーではサンゴの枝陰に亀も休み、外海には堅牢(けんろう)なサンゴが繁茂する。宿では島の魚介で晩さんとなる。

 名護を拠点に2時間圏に別世界が広がる。離島・山原・城・水族館・恩納村や北谷のリゾートが網羅でき、沖縄の楽しみが広がる。昭和の色濃い名護の商店街では沖縄の居酒屋文化に触れることもできるし、宿にキッチンがあれば市場で沖縄食材を買い出して食べることもできる。

 サンゴ礁の国際シンポジウムでケアンズ、グアム、ホノルルを訪れたことがある。ケアンズはグレートバリアリーフの入り口としてにぎやかだった。グアムは多くの日本人観光客がいた。ホノルルは世界のセレブも集まる観光地だ。華やかな観光施設ばかりでなく、各地には独自の文化がある。

 アボリジニ、チャモロ、ハワイアンの人々の歴史的・経済的境遇も社会への参加もまちまちで、アボリジニは保護対象であり、グアムは準州、ハワイ語は学校で正課である。沖縄は観光でハワイを目指すという。滞在日数や消費額が県経済の隅々まで行き渡るには、自然資源・文化資源の多様な価値を尊重し、長逗留(ながとうりゅう)を楽しむ来訪者が増えると良い。子どもたちが誇りを持って従事したいと思える観光の将来像を考えたい。

(中野義勝、沖縄県サンゴ礁保全推進協議会会長)

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