「もんじゅ」廃炉で1兆円の無駄使いにやっと終止符か(新聞うずみ火/伊藤宏)

◆「夢の原子炉」破たんの末に……

9月、政府は原子力関係閣僚会議を開き、福井県敦賀市に設置された高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」について、事実上の廃炉を決めた。(撮影:新聞うずみ火)

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9月21日、政府は原子力関係閣僚会議を開き、福井県敦賀市に設置された高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」について、事実上の廃炉を決めた。(新聞うずみ火/伊藤宏)

1983年に設置許可がおり、85年に着工、95年に発電をしたものの、直後にナトリウム漏れ事故を起こした。以来、一度も再稼働されることなく今日に至っていた、もんじゅだったが、ついに廃炉ということになった。

この間に投じられた費用は国の発表でも1兆円余り。壮大な無駄遣いにようやく終止符が打たれようとしている。

高速増殖炉とは、プルトニウムを燃料として高速の中性子を使って運転しながら、燃焼した以上のプルトニウムを生み出す「夢の原子炉」と言われた。その開発は実験炉(茨城県に建設された「常陽」)、原型炉、実証炉、実用(商用)炉という段階があるが、世界的にもフランスが実証炉にたどり着いたものの、実用化の例はない。現在、開発を進めているのは日本だけだが、原型炉段階で頓挫したことになる。

もんじゅはまた、国の核燃料サイクル政策の要の施設でもあった。

核燃料サイクル政策は、「資源少国」日本のエネルギー政策の柱として進められてきた。一般的には一つの輪のように受け取られているが、実際には「軽水炉サイクル」と「高速増殖炉サイクル」の二つの輪があり、エネルギー政策的には高速増殖炉サイクルが機能して初めて有効となるものだ。

もんじゅの廃炉によって、高速増殖炉サイクルが破綻した今、核燃料サイクル自体も完全に破綻したことになる。軽水炉サイクルのみでは、単なる燃え残りの燃料の再利用にしかならない。しかも、プルトニウムというやっかいな核物質をため込むだけのものになる。

1 兆円超の税金の無駄遣いは、これまでに何度もあった廃炉の機会を、ことごとく無視した結果、膨れあがった金額だ。ナトリウム漏れ事故後に発覚した動燃(当時の運営主体であった動力炉・核燃料開発事業団)の不祥事、フランスの高速増殖炉開発撤退、設置許可を無効とした2003年の名古屋高裁金沢支部の判決(最高裁で原告の逆転敗訴)、10年の運転再開直後に起きた燃料交換装置の落下事故、そして、12年に発覚した約1万件に及ぶ機器点検漏れ……などなど。それでも、存続にこだわった理由は何だったのか。
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◆もんじゅ専用の再処理工場RETFの存在 もんじゅは停止していても年間200億円の維持費がかかる。そして、無駄遣いの象徴のようにマスメディアで取り上げられたのが、もんじゅ用の核燃料輸送船とされた「開栄丸」であった。停泊しているだけで年間12億円もの費用がかかっているということでやり玉に挙がったが、この船はもんじゅ専用というわけではない。もんじゅに直接関連する施設としては茨城県東海村に建設中の「リサイクル機器試験施設(以下、RETF)」がある。その名称から、どのような施設なのかわかりづらいが、RETFはもんじゅ専用の再処理工場なのだ。

RETFは1955年に着工し、2000年に第1期工事が終わり建物部分が完成している。これまでに800億円余りが支出され、総工費は1200億円とも言われる施設だ。もんじゅの廃炉という方針の決定の中で、実はこのRETFについては、明確な方針が示されていない。

しかも、国は新たな高速炉の開発方針を策定することを決めており、核燃料サイクル政策の維持に固執している。エネルギー政策的にはほぼ意味のなくなった核燃料サイクルにこだわり、RETFの存続が不明である理由はなぜか。

◆もんじゅで生み出されるプルトニウム~核兵器の転用が容易 それは、元京都大学 原子炉実験所講師の小林圭二さんたちが、これまで再三にわたって指摘してきた、日本の核オプションのためとしか考えられない。つまり、日本は容易に核兵器に転用できるプルトニウムを保持し続けたいのである。

プルトニウムは国際的にも非常に厳しい監視の対象となっている物質。これまでの再処理などによって、日本は50トン近いプルトニウムを保有しており、これを確実に「発電用の燃料」として使用することが義務づけられている。もんじゅはその意味でも要の施設であった。現在、軽水炉でウラン燃料にプルトニウムを混ぜて燃焼させるプルサーマルによる消費が唯一の手段であるが、その消費量は微々たるものだ。これ以上、プルトニウムを生み出す必要性はどこにもない。

さらに、もんじゅで生み出されるプルトニウムは、核兵器への転用が容易である高純度であることは見逃せない。軽水炉でもプルトニウムは生み出されるが、核兵器に使用するプルトニウム239の純度は低い。しかし、「もんじゅ」では純度96パーセント以上のプルトニウムを「生産」可能で、試運転段階で60キロ程度生み出されたという試算もある。これを使用済み核燃料から取り出すための施設がRETFなのだ。

「夢の原子炉」が破綻した今、日本で発電のため(エネルギー政策のため)に高純度のプルトニウムを取り出す必要性は全くない。

また、高速炉開発や核燃料サイクル政策の維持は当面、エネルギー政策にほとんど寄与することはなく、むしろプルトニウムの備蓄によって国際社会から厳しい批判の目を注がれるだけになる。私たちは今後、そのことをきちんと見極めて、政府が決定する方針をチェックしていかなければならない。【新聞うずみ火/伊藤宏】

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