南島原市の針路 松本市政3期目へ<上> 人口減 見えぬ将来像

基幹産業の島原手延べそうめん。生産者は慢性的な労働者不足に悩んでいる=南島原市内(市提供)

 任期満了に伴う南島原市長選で現職の松本政博氏(74)が無投票3選を果たした。だが、人口減少や基幹産業の衰退など長期的な課題に加え、公共交通網の縮小や農地の荒廃などが社会問題化。3期目の針路に据えた「持続可能な社会」は実現可能なのか。松本市政の現状と課題を追った。
 そうめんの一大生産地で全国2位の生産量を誇る同市。中元商戦など夏場の最盛期に向けて生産者はフル操業しているが、有家町の50代男性の顔色はさえない。主原料の輸入小麦の価格が昨秋に続き、今春も大幅に値上げされた。「企業努力も限界。ロシアのウクライナ侵攻の影響もこれから。耐え忍ぶしかない」
 慢性的な労働力不足も追い打ちをかける。2000年に5万7千人だった市人口は、4月時点で4万3100人に減少。老年人口(65歳以上)は4割に達し、生産年齢人口(15~64歳)の減少が地域活力の低下につながっている。そうめん製造業者は最盛期の450近くから250近くに減った。
 地域経済を支える農業も同様だ。農林水産省の19年全国市町村別農業産出額の県内シェアは雲仙市(18%)に続く2位(16%)を誇る。しかし、口之津町の40代男性は「パートもいない。農作業を支える外国人実習生も賃金の高い都市部に流れる。規模を拡大したくてもできない」と嘆く。
 交通網のぜい弱さも、人口減少や企業誘致が進まない要因の一つ。島原半島の南端に位置し、県都の長崎市まで車で約2時間、諫早市中心部へも約80分。国や県が整備する高規格道路「島原道路」の全線開通を待ち望んでいるが、見通しは立っていない。島原鉄道(島原市)は先月、南島原市内が起終点のバス2路線を9月末で廃止すると発表するなど、公共交通網も年々縮小している。
 福祉に携わる30代男性は「独居高齢者の孤立が目立つ。買い物に行く手段がなく、引きこもりがちになっている」と危惧する。15年に市が公表した人口ビジョン(将来の人口推計)によると、30年には4万人を割り込み、生産年齢人口は45%と大幅に下落する。
 市は人口減社会の本格的な到来を見据え、昨年3月に市行政改革大綱と実施計画の集中改革プランを策定。効率的な行財政運営に努めているが、20年度決算をみると、自主財源は前年度の26%から22%に減少。財政力に乏しい状況に変わりはない。
 市長選での論戦を期待していた元団体職員の30代男性はこう指摘する。「市長が掲げる『住みよいまち、住み続けたいまち』とは何。一貫したグランドデザインが見えない。具体的な将来像を自らの言葉で示して」


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