DX待ったなし。イノベーションが求められる医療機器業界

一口に製造業といっても、千差万別。このコラムでは、製造業界の基礎情報やトレンドを紹介します。第六回目の今回は「医療機器業界」を解説します。

高齢化や健康意識を背景に、医療機器市場は堅調に推移

国内の医療機器市場は約2.9兆円だ。高齢化が進む日本では、医療機器市場は堅調に推移しており、2004年に2兆円を超えて以降、ほぼ右肩あがりに成長している。今後も、健康意識の高まりなどを背景に、2025年には3.4兆円、2040年には4.7兆円に成長すると予想されている。

最先端の医療の実現には、医療機器メーカーのデジタル化は欠かせない

医療機器は、人の命に関わる製品だけに、高度な品質や安全性が求められる。その一方で、各メーカーは、革新的かつ高品質な製品の開発に注力しており、使われるテクノロジーはますます高度化している。医療機器製造業では、最新テクノロジーの取り込みを狙ったM&Aが活発だ。オリンパスは、2020年から2021年にかけて治療機器を中心に5件の買収を実施したほか、2021年には、コーポレートベンチャーキャピタルを米国に設置し、今後5年間で約55億円を投資する方針を発表した。富士フイルムによる日立製作所の画像診断関連事業の買収や、川崎重工業とシスメックスの合弁会社であるメディカロイドによる、国内初の手術支援ロボット事業など、高機能化、デジタル化の流れはますます加速している。

そんな現在の医療機器製造業のトレンドが、「4Ps」だ。4Psとは、「予防(Preventive)」、「予測(Predictive)」、「パーソナライズ(Personalize)」、そして「精密医療(Precision Medicine)」の頭文字をとったもので、これを実現するテクノロジーとして、ロボティクス、AI、遺伝子医療、医療向け3Dプリンティングなどが注目されている。実際に、患者のスキャンデータから3Dモデリング技術を活用して臓器のレプリカを作成し、執刀医が手術の練習を行うような取組みが現実のものになっている。難易度の高い手術の前に、精緻に再現されたレプリカ臓器で練習することができれば、手術の成功率も上がるだろう。このように、医療機器メーカーが「4Ps」のようなトレンドに対応し、グローバル展開を進めていくためには、DXが不可欠だ。

イノベーションを加速するデジタルツイン

医療機器メーカーが、競争力のある製品を市場に投入し続けるためには、製品の企画段階から設計、製造、サービス、サポートまでの各ステップにかかる時間を短縮させることが必要だ。ここで活躍するのがデジタルツインである。デジタルツインを活用し、試作やシミュレーションを行うことで、設計やサービスにかかる時間を大幅に短縮できる。また、顧客に提供した製品に取り付けたセンサーなどから収集したデータから、デジタルツインを構築しておけば、機器の稼働状態をリアルタイムで確認し、故障する前に部品を交換したり、より効果的な使い方をアドバイスすることもできる。

データ利活用には、統合プラットフォームが欠かせない

また、企画からサポートまでの業務を連携させて、品質の確保や、新たな法規制といった課題に効率的に対応することも重要だ。しかし、医療技術や医療機器メーカーが、合併や買収によって成長してきたという経緯から、多くの企業で、合併された企業の製造手法や個別のプラントモデルやプロセスが引き継がれているという課題がある。中には、全社共通の情報基盤や統一基準がなく、各部門や製造施設を独立した事業体のように扱っている企業もあるという。これでは、データをいくら収集したとしても有効に活用することは難しい。医療機器メーカーが保有する、ERPやSCADA、MES、PLMなどのシステムから収集した大量のデータを、有益な情報に変えるシステムが必要なのだ。

独シーメンスは、このような課題に対応した統合アプリケーションライフサイクル管理システム「Polarion(ポラリオン)」、製品ライフサイクル管理システム「Teamcenter(チームセンター)」、製造実行システム「Camstar(カムスター)」、そしてIoTシステム「Mindsphere(マインドスフィア)」の4つのプラットフォームを展開している。世界の医療機器メーカー大手40社中、なんと39社が同社のツールを活用しているという。

デジタル化で安全と信頼を確保

医療業界の厳しい法規制に対応するため、医療機器メーカーは生産工程を追跡し、安全性と信頼性を確保することが求められる。かつては、この作業を書面で行っていたが、グローバル化で製造拠点が世界各地に分散したり、複数の製造パートナーと協力したりするケースが増え、紙による管理は限界を迎えている。ここでも、デジタル化を進めることによる効率化が必須となっているのだ。

イノベーションの推進から規制対応まで、あらゆる観点で医療機器メーカーにはDXが求められているといえる。DX推進により、我々の生活に不可欠な医療機器が、ますます安全に、そして優れたものへ進化していくことを期待したい。

関連する業界団体

一般社団法人 日本医療機器産業連合会:https://www.jfmda.gr.jp/

一般社団法人 日本医療機器工業会:http://www.jamdi.org/

(製造DXチャンネル 2022年5月24日掲載)

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