台湾有事が起きたら最後。日本は抑止力の軍備増強が何より重要 国際政治学者の三浦瑠麗氏、安全保障で持論

国際政治学者・三浦瑠麗氏

 ―ロシアのウクライナ侵攻は、東部ドンバス地域と南部一帯を支配下に置くことが目的かとみられましたが、当初、首都キーウへも侵攻しました。プーチン大統領の戦略は。

 「電撃戦によるキーウ包囲戦は完全なる失敗に終わった。なぜ電撃戦をやろうとしたのか。支配の速やかな既成事実化を図り、その後、隠れみの的に不完全な国民投票を行い、かいらい政権の正当性を高めようと考えたのでしょう。情勢認識がかなり甘く、ウクライナの愛国心や国の一体性について目測を誤った」

 ―今後の行方は。

 「ロシアは東部地域で正規戦に切り替えるという見通しが強い。つまり予備役を動員して兵士の数を増やし、より長期的な構えで東部に進駐する。ウクライナは今、ゼレンスキー大統領と他の政府幹部が発するメッセージに齟齬がある。大統領は外交努力でクリミアを取り返すとしているが、軍や外交官からは武力奪還の考えが表明されている。軍がクリミアの手前で引き返さず、進軍する可能性がある。ロシアにとってはウクライナが攻めてきたことになり、総動員して戦争するに値する攻撃だとなる」

 ―プーチン大統領がウクライナ侵攻を決断した背景には、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大があったのでしょうか。

 「プーチン大統領にとってウクライナはあくまでも緩衝地帯であり、自分たちと対等な主権はないという考え方。緩衝地帯がなくなることはロシアにとって脅威。その脅威が軍事的なのか経済的なのか、文化的あるいは政治制度的なものかというと、全部だと思う」

 ―結果として、フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟申請するという逆の方向に動いています。

 「両国は冷戦期、中立的な緩衝地帯とされていたけれど、実際には西側と連携を深めてきた。ロシアからすると脅威は若干増すと捉えるだろうが、実質はあまり変わらない」

 ―ロシアの侵攻は台湾海峡有事にどう影響してくるでしょうか。

 「中国にとって武力で台湾を手に入れるのは、損が多くて得が少ない政策。台湾軍はそれなりの頑強さを有し、そして上陸作戦を必要とするので、地続きのウクライナ侵攻とは性格が違う。ただ、離島を占拠したり、そこに軍事基地を築く戦術は障害が小さく、米軍は懸念を持っている。それを許せば台湾の守りが弱くなり、脅威を目の前にした台湾の人々が分断され、一部が融和に向かい、徐々に中国化が進む可能性もある」

 「米国が参戦すれば、日本が攻撃される可能性は高い。中国は日本の米軍基地をたたきに来ると考えた方がいい。だからこそ、日米間に溝をつくろうとしているのが現在の中国だ。恐らく直ちに戦争参加をやめろという左翼運動が盛んになる一方で、戦後初めて国土が攻撃を受けたことで大変なナショナリズムが立ち上がり、国内が割れる。中国の台湾武力併合は日本にとって直接的な武力紛争に発展するので、起こってしまったら最後。抑止力を高めるための軍備増強が何よりも重要であり、我々の決意と覚悟が求められる」

 ―日本は核保有国のロシア、中国、核開発を進める北朝鮮に囲まれています。

 「戦場で使用されかねない戦術核が中国によって大量に開発されると大きな脅威にさらされる。中国に対しては、関係を絶つのか、関係を残しながら軍事的には対立していくのかという二つの選択しかない。一つ目を選択すると日本は圧倒的に貧しい国になるので、それはできない。二つ目を選ぶなら、米国を引き込みながら対抗していくしかない。核を持たず、戦力や政治力でも劣る日本は米国からアクターと見られていない。二つ目の選択もかなりの芸当が必要だろう。北朝鮮は事実上、核保有国化してしまった。韓国は北朝鮮の脅威に張り付かざるを得ないため、日米と一体的に中ロを牽制するアクターとしてあまり期待できない」

 ―ウクライナ戦争で機能不全を起こしている国連の改革についての見解は。

 「中国もロシアも第2次世界大戦から自分たちの正当性を導き出している。だからこそ日本とドイツは国連において旧敵国的な扱いを脱することができない。仮にプーチン大統領が失脚し、ロシアの新政権が西側に助力を乞うような状況になったと仮定しても、中国がいる。ロシアを5大国の地位から追放する改革はできても、便乗して中国を追放することはできない。中ロを排除した安全保障理事会はなんの統治能力もなく、恐ろしいの一言に尽きる。国連の形骸化を招き、完全なリアリズムの世界になる」

 ―ウクライナでは原発が制圧され、軍事の攻撃対象になり得る現実を突き付けられました。

 「止めても運転しても、攻撃されたら危ないことに変わりはない。原子力からの脱却は一つの手段だと思うけれど、使用済み核燃料がある期間はマネジメントしないといけない。原発災害やテロを想定した台本通りではない訓練をもっと実施していくべき。石橋が壊れるまでたたいて点検する今の原発再稼働はゼロリスクにかなり近い。規制側は、事業者が合理的な最大限の努力を払っているかに線を引くべきと思う」

 ◇三浦瑠麗氏(みうら・るり) 1980年生まれ。東京大学農学部卒。同大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。同大学政策ビジョン研究センター講師などを経て、2019年からシンクタンク「山猫総合研究所」代表。著書は「シビリアンの戦争」「21世紀の戦争と平和」など多数。

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