生産工程の変革から路面データの分析まで、DXで進化を続けるゴム製品製造業

一口に製造業といっても、千差万別。このコラムでは、製造業界の基礎情報やトレンドを紹介します。第八回目は、「ゴム製品業界」を解説します。

ゴム製品製造業は、ブリヂストン、住友ゴム、横浜ゴムの3社で、市場シェアの8割を占める寡占業界で、2019年の市場規模は約7兆1000億円である。ゴム製品には様々なものがあるが、なかでも、ゴムタイヤとゴムチューブ、そしてゴムベルト・ゴムホース・工業用ゴム製品が全体の93%を占める。製品の多くが自動車業界向けであることから、ゴム製品業界の業績は、自動車生産台数に大きく左右される。2020年には、コロナ禍による自動車生産台数の落ち込みにより、自動車タイヤの国内生産量が、前年の約1億4700万本から、16%減の約1億2100万本となるなど大きな影響を受けたが、中長期的には、世界経済の回復・成長にともに、業界は緩やかに成長していくとみられる。業界最大手のブリヂストンの売上高の80%以上が海外であるように、すでに生産体制を含めてグローバル化が進んでいることも業界の特徴である。

データ活用で進化するタイヤ生産

性能面での差別化が難しくなってきたゴムタイヤの生産では、各社が、ITを活用した効率化や生産性向上に取り組む。住友ゴムは、2017年に製造IoT推進室を設置し、ビッグデータを活用できる仕組みの構築と、生産工程の効率化を進める。IoTプラットフォームとして、PTCジャパンのIoTプラットフォーム「ThingWorx(シングワークス)」を採用し、タイヤ工場の生産設備の稼働データ収集を収集する。可視化したデータは、日立製作所の「Lumada(ルマーダ)」のAI解析機能で分析し、品質や生産性、エネルギー消費などに影響を与える要因を高速・高精度に把握し、それを生産工程にフィードバックする。住友ゴムは、2025年までにこのシステムを、国内外の全タイヤ工場に導入する予定だ。

ブリヂストンでも、データの可視化による製造改革が進む。鉱山などで稼働するダンプカーのタイヤなど、産業・建機用の大型タイヤは、現在でも熟練技術者の手作業に頼るプロセスが多い。熟練者の作業をデータ化し、解析することで、若手作業者への円滑な技能継承を実現する狙いだ。

デジタルツインで、開発時間と材料消費を大幅に削減

ブリヂストンでは、タイヤ開発にデジタルツインを活用する。仮想空間上で様々な検証を行うことで、プロトタイプタイヤの作成に使う原材料の使用を削減し、さらに製品開発時間を最大50%低減する。ブリヂストンの欧州グループ会社、ブリヂストンEMIAは、デジタルツインの活用により、2020年に、開発段階で使用するプロトタイプタイヤの本数を前年比20%削減することに成功したという。

センサーを搭載したタイヤで、走行しながら自動で路面状態を把握

タイヤ業界におけるデータ活用は、生産プロセスにとどまらない。ブリヂストンが世界で初めて実用化した、路面センシングソリューション「CAIS(カイズ:Contact Area Information Sensing )」は、タイヤに取り付けたセンサーから得たデータを分析することにより、路面状態を「乾燥」、「半湿」、「湿潤」、「シャーベット」、「積雪」、「圧雪」、「凍結」の7つに分類する。このデータをドライバーに伝えることで安全運転を促すほか、道路管理者にデータを共有することで、冬期の路面管理に貢献する。センサーでの路面診断であれば目視の必要がないため、夜間の凍結状態などを把握するのに有効だ。

タイヤに装着されたセンサーでは、タイヤの摩耗や空気圧をリアルタイムで確認することも可能だ。このようなデータを活用することで、事故を未然に防ぐことや燃費向上、タイヤ交換の効率化などを実現する。また、タイヤがどのように使われているか、というデータは、今後のタイヤ開発にも活用できる。分析対象となるのは、自動車用タイヤだけではない。ブリヂストンでは、航空会社から提供されるデータを元に、航空機のタイヤのすり減り具合を予測するアルゴリズムを開発し、タイヤ交換時期を予測するソリューションを開発した。

横浜ゴムも、タイヤ内部の空気圧と温度をリアルタイムで確認するシステムを提供している。一定の値に達すると警報を発する仕組みで、事故を予防する。また、収集したデータを分析してタイヤの耐久性を分析し、リトレッドタイヤ(摩耗したトレッドゴムを新しく貼り替えて、タイヤの機能を復元して再使用するタイヤ)として利用可能かどうかを評価することも可能だ。

自動車業界の大変化に合わせ、ゴム製品業界も変化していく

自動車メーカー各社が、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)対応を急ぐ中で、タイヤ・ゴム関連メーカーも、それに合わせた生産体制や製品開発を進める。2022年2月、ブリヂストンは、EV向けのタイヤ生産などの生産体制強化のため、国内4工場の生産ラインを増強することを発表した。EV向けタイヤに使われる技術「エンライトン」を搭載したタイヤは、従来のタイヤよりも2割軽量で、走行時の抵抗が3割少ないため、EVの航続距離を延ばす効果がある。

ドイツのタイヤメーカー、コンチネンタルが発表した未来のタイヤ「Conti C.A.R.E.」は、センサーでタイヤの状態を把握するのみならず、ホイールに組み込まれた遠心ポンプを活用して空気圧を能動的に調節する機能を備えている。この新しいタイヤのコンセプトは、2020年、欧州ゴムジャーナルが選ぶ「Journey to Automation」賞で、総合優勝とタイヤ技術賞の2部門を受賞した。車の進化とともに進化するゴム業界、未来のクルマのタイヤで一体どのようなことができるようになるのか、楽しみだ。

 

(製造DXチャンネル 2022年6月3日掲載)

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