NASA小惑星探査機「ルーシー」片方の太陽電池アレイを完全展開させる試みが続く

▲ 木星のトロヤ群小惑星を観測する探査機「ルーシー」の想像図(Credit: Southwest Research Institute)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)は2021年10月に打ち上げられた小惑星探査機「Lucy(ルーシー)」について、2つ搭載されている太陽電池アレイのうち完全に開ききっていないことが判明している1つに関して、最新の状況を明らかにしました。

NASAによると、太陽電池アレイを最後まで展開させるためのコマンド送信が5月9日から6月9日までに5回試みられました。依然として完全展開には至っていないものの、太陽電池アレイはより安定した状態になっていると推定されており、ミッションの計画通りに飛行し続けられる可能性が高まっている模様です。

■太陽電池アレイはより安定した状態に、2022年10月には地球スイングバイを予定

【▲ ルーシーを搭載して打ち上げられたアトラスVロケット(Credit: NASA/Bill Ingalls)】

日本時間2021年10月16日に打ち上げられたルーシーは、木星のトロヤ群小惑星7つと小惑星帯の小惑星1つ、合計8つの小惑星の探査を目的としています。複数の小惑星を訪問することから、ミッションの期間は2021年から2033年までの12年間が予定されています。

木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にある「L4点」(公転する木星の前方)付近と「L5点」(同・後方)付近に分かれて小惑星が分布しています。

木星のトロヤ群小惑星は初期の太陽系における惑星の形成と進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされています。これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前は有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体)にちなんで名付けられました(探査対象の小惑星については以下の関連記事もご覧下さい)。

関連:NASA探査機「ルーシー」10月16日打ち上げ予定、木星トロヤ群小惑星に初接近

【▲ ルーシーがフライバイ探査を行う小惑星の一覧(想像図)。上段左から:二重小惑星のパトロクロスとメノイティオス、ユーリバテス。下段左から:オラス、リュークス、ポリメレ、ドナルドヨハンソン。このうちユーリバテスは1つの衛星をともなう(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab)】

地球よりも太陽から遠く離れた木星の公転軌道付近まで飛行することから、ルーシーには直径7.3mという巨大な円形(正確には十角形)の太陽電池アレイが2基搭載されています。この太陽電池アレイは扇のように広げて展開する仕組みになっているのですが、打ち上げ直後の2021年10月17日の時点で、片方の太陽電池アレイが完全に展開されなかったことが判明していました。

畳まれた状態で打ち上げられたルーシーの太陽電池アレイを展開するには、端に結び付けられている長さ約290インチ(約7.4メートル)のストラップをモーターで巻き取る必要があるものの、展開が完了しなかった太陽電池アレイではストラップの巻き取りが途中で止まってしまった模様です。NASAによると、残ったストラップの長さは20~40インチ(約51~102センチメートル)と推定されています。

【▲ 小惑星探査機「ルーシー」の太陽電池アレイ展開試験の様子】
(Credit: NASA/Lockheed Martin, 2021)

打ち上げ後の分析や地上での試験結果から、この太陽電池アレイは約345度まで展開されていて、発電量も十分だと判断されています。しかし、運用チームはルーシーの主エンジンが稼働した時に問題の太陽電池アレイが損傷する可能性を懸念しており、アレイの完全展開が試みられることになりました。

関連:NASA小惑星探査機「ルーシー」5月に太陽電池の完全展開が試みられる予定

2022年5月9日、ルーシーの運用チームは2つのモーターを使ってストラップを巻き取るコマンドを初めて送信しました。ストラップを巻き取るためのモーターは、冗長性を確保するためにメインとバックアップの2つが搭載されています。通常は一度に1つのモーターしか作動しませんが、2つのモーターを同時に作動させてより強いトルクを生み出すことで、残ったストラップを巻き取ることが期待されたのです。

過熱を避けるために、モーターは短い間隔を空けて繰り返し作動。運用後に結果を分析したところ、残っていたストラップの一部が巻き上げられたことが確認されました。同様のコマンドは5月12日にも送信されていて、固定機構が太陽電池アレイをロックするには至らなかったものの、太陽電池アレイに張力をかけて安定させるのに十分な長さを期待通り巻き取ることができたといいます。

ストラップを巻き取るためのコマンドはその後も5月26日、6月2日、6月9日に送信されていますが、太陽電池アレイは依然としてロックされていない状態が続いています。今後もコマンドを送る機会は何度かあるものの、必ずしもロックできるとは限らないようです。

ただし、ストラップの一部が巻き取られたことで張力がかかった太陽電池アレイはより安定した状態になっていると推定されています。追加のモーター操作でさらに張力を加えることができれば、最終的にロックできなかったとしても十分かもしれないとNASAは予想しています。

なお、NASAによるとルーシーは2022年10月16日地球の重力を利用したスイングバイ(天体の重力を利用して宇宙機の軌道を変更する手法)を予定しており、6月7日にはスイングバイに備えて計画された一連の軌道修正操作のうち、最初の操作が完了したとのことです。

関連:NASA小惑星探査機「ルーシー」のカメラはターゲットをどう捉えるのか?

Source

  • Image Credit: Southwest Research Institute
  • NASA \- NASA’s Lucy Mission Continues Solar Array Deployment Process

文/松村武宏

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