【おんなの目】 擬人化

 我が家には、縫いぐるみや木彫り、手作りの人形が二十体ある。私が求めたものもあるが、貰ったものが多い。熊や猪、はく製の少し羽の抜けた雉の雄(七十年も昔のもの)。ミッキーマウス、中近東の民族衣装を着た思索的な顔の少年。亡くなった友人手作りの日本人形もある。彼女の来ていた着物の布で作った着物を着ている。

 置き場所は、出窓や玄関の下駄箱の上、トイレの棚、廊下にぶらさげたりしている。毎朝、それ等に挨拶するのに三十分はかかる。彼等を大切に思っていることを伝えるために順番に抱きしめる。平等に同じ力、同じ秒数抱きしめる。熊には熊語で猪にはその語で話しかける。人形の着物が乱れていたら直してやる。金襴の帯がゆるんでいる。あの世で元気ですか、と話しかける。

 数年前から一年が一ヶ月が一日が本当に短くなった。あっという間に過ぎてしまう。特に朝は挨拶する間に終わる。ちょっと怖い。

 人形への愛が薄まったわけではないが、朝の挨拶が負担になってきた。さっと彼等を見まわして、「元気、幸せ?」とそれだけにしようと思っている。彼等も私も老いて行くのだからいずれ別れが来る。擬人化して気持ちを注ぎこむのはやめよう。ほどほどの距離を。

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