【中原中也 詩の栞】 No.39 「女給達」(『日本歌人』昭和一〇年九月号より)

彼女等が、どんな暮しをしてゐるか、
彼女等が、どんな心で生きてゐるか、
私は此(こ)の目でよく見たのです、
はつきりと、見て来たのです。

彼女等は、幸福ではない、
彼女等は、悲しんでゐる、
彼女等は、悲しんでゐるけれどその悲しみを
ごまかして、幸福さうに見せかけてゐる。

なかなか派手さうに事を行ひ、
なかなか気の利いた風にも立廻(まわ)り、
楽観してゐるやうにさへみえるけれど、
或(ある)ひは、十分図太くくらゐは成れてゐるやうだけれど、

彼女等は、悲しんでゐる、
内心は、心配してゐる、
そして時に他の不幸を聞及びでもしようものなら、
「可哀相に」と云(い)ひながら、大声を出して喜んだりするのです。 

一九三五、六、六

     

【ひとことコラム】タイトルの横に「なにがなにやらわからないのよ―流行歌」というエピグラフ(映画「愛して頂戴」主題歌からの引用)が置かれた詩。「女給」はカフェやバーで客の接待をする女性で当時脚光を浴びた存在でしたが、詩人はその心の内に暖かくも厳しい目を向けています。

中原中也記念館館長 中原 豊

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