常識破壊の「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」 アドレナリンのような「面白いことをやろうとしている感」批評家の見解

スーパー戦隊シリーズ最新作「暴太郎(あばたろう)戦隊ドンブラザーズ」(テレビ朝日系、毎週日曜・午前9時30分)の革新性が注目を集めている。作品のモチーフはおとぎ話「桃太郎」。46年の歴史で初めてピンクの戦士を男性が務め、主人公レッドの特異な性格、前作「機界戦隊ゼンカイジャー」の主人公が2年連続でレギュラー出演するなど、同シリーズでは異色の設定が話題になったが、15話を終えても落ち着く気配がない。ウルトラマンなどの特撮作品をテーマにした著作で知られる批評家の切通理作氏は「自分が特撮ものをジャンルとして好きだからとか、観るのが半ば仕事だからとかじゃなくて、純粋に『次はどうなるんだ』と先を、先をと食い入るように見たくなってしまう番組」と語った。

「ドンブラザーズ」イベントに登場した出演者。(前列左から)鈴木浩文、志田こはく、樋口幸平、柊太朗、別府由来(後列左から)森崎ウィン、駒木根葵汰、タカハシシンノスケ、富永勇也、宮崎あみさ、和田聰宏

チョンマゲ頭の主人公ドンモモタロウ(レッド)が、サルブラザー(ブルー)、オニシスター(イエロー)、イヌブラザー(ブラック)、キジブラザー(ピンク)を従え、欲望や不満に飲み込まれた人間が変身する怪人「ヒトツ鬼」と戦い、そのヒトツ鬼を人間ごと消去しようとする謎の第三勢力「脳人(ノート)」とも対峙する。

CG加工でブラックは身長100センチ、ピンクは足が伸び身長220センチ、ともに異形の姿で戦う。怪人の出現後に変身したメンバーが集結するため、当初は全員が互いの正体を知らなかったが、15話に至ってもブラックの正体は不明のまま。皆がそろって変身する定番シーンはまだない。

切通氏は「足がびょーんと伸びたり、背がすごく小さかったり、頭身がそろっていれば過去のルーティンでできるはずなのに、わざわざ手間がかかって面倒くさいことをやって、でもそれがカッコよさ、商品が売れるとかにつながるかは未知数なんですよね。つまりフォーマットの不安定さがどういった果実を求めてやっているのか読めないところが面白い。それに登場する人間の不確かさがあいまって、『面白いことをやろうとしている感』がアドレナリンとして伝わってきます」と語った。

脳人による「消去」が、実質的な「死」であることにも着目。「最近は必殺技で怪人を倒すと普通の人間に戻ってしまう流れがある。身勝手な欲望で怪人になっておきながら、やっつけられて改心しました、という流れには、そんな簡単でいいのか、と大人になった視聴者である自分は薄っぺらさをやや感じていました」と物足りなさを挙げた。その上で「今回は戦隊が倒した場合の改心は変えずに、それを逆手にとって、隊員が怪人になったり、脳人が怪人を消去しようとした時に、本来なら助けなきゃいけないはずの隊員が『あんなやつは消えていいじゃないか』と見殺しにしたのが『えっ』と引きつけられます」と語った。隊員が互いの正体を知らない設定にも「視聴者は分かっているので、変身前のドラマを含めて彼らがどうなるんだろうと、興味が持続すると思います」と感心。フォーマットの不安定さが魅力に結びついている。

レッドの桃井タロウは苦手がない万能者ながら、ウソをつくと脈が止まる特異体質者のため、無配慮な発言で職場はもちろん、戦隊メンバーからも反発を買う。他の4人は突然タロウの〝おとも〟になったが、くせ者ぞろい。ブルーの猿原真一は無職ながら博識で俳句をたしなむ風流人。イエローの鬼頭はるかは人気漫画家ながら第1話で盗作容疑により失脚した女子高生。ブラックの犬塚翼は何らかの罪で警察に追われる逃亡者。ピンクの雉野つよしは新婚で妻を大切にしながらも、劣等感に悩むサラリーマン。

切通氏は「みんな人間の時に得体が知れないんですよね。雉野も好青年に見えるけど、仕事で出世するとタロウの仕事(配達アルバイト)を軽蔑しだすとか、ああいうところは、ちょっと怖い。自分にもそういうところがありそうな、人間の不確かさみたいなものがキャラクターの中にある。タロウも仲間を攻撃するパワハラ気質に一見感じられるけれど、なんだコイツは、と思わせて、ウソをつけない体質や正体(脳人が住んでいた世界を壊滅させたため滅亡に追い込まれたドン王家の末裔)が明らかになった直後に、能人に弱点を正直に教えて殺されてしまう。意表を突く上に、意表を突く。予想を超えた何かが続くんでしょう」と、今後に期待を寄せた。

フォーマットの不安定さ、登場する人間の不確かさが特色というドンブラザーズ。メイン脚本の井上敏樹氏はシリーズでは「鳥人戦隊ジェットマン」(1991年)以来の復帰だが、平成仮面ライダーシリーズの初期作を支えたことでも知られる。

第15話ではピンクの雉野が、事故で負傷した妻を思うあまり、車を憎む怪人に変身した。切通氏は「仮面ライダー555」(2003年)でライダーである登場人物が怪人オルフェノクに変身する場面、「仮面ライダーアギト」(2001年)でG3への変身装具をアギトが装着する場面を挙げ「役割が固まってきたと思うと、役割が交換されて不安定になる展開は懐かしいですね」と語った。

第10話ではイエローの鬼頭がドンブラザーズから脱退し、人気漫画家の地位に返り咲く。かつて天才ギタリストだったが、才能をねたんだ教授の陰謀で大ケガを負い楽器を捨てた「555」の海道直也を挙げ「海道の『夢というのは呪い。挫折した人間は呪われたまま』というセリフから、呪いからの解放というドラマが生まれました。新しくイエローになった女の子がカメラマンの夢を捨てたのを見て、彼女が元に戻してあげようとしたことに海道を思い出しました。彼女は第1話で受難があって、かわいそうだとは思うけど共感するまではできなかったのが、あの話で共感できるキャラになった。うまいなと思います」と続けた。

切通氏は近年の仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズに「メンバーがそろって変身能力が披露されると、人物像を深く描くことをやらなくなってしまう」という不満を抱く。「10年前の『仮面ライダーフォーゼ』では学園モノでスクールカースト的なものが描かれましたが、メンバーがそろった後は横並びで皆いいヤツになってしまった。戦隊シリーズでも昨年の『ゼンカイジャー』は主人公ひとりが人間で、他がロボットでした。でも全員がそろったら、ロボットの持つ人間味に興味を掻き立てたのに、個々のロボットメンバーのドラマが描かれなくなり、ヒューマノイド型の新しいライバルキャラとの葛藤がメインになっていきました。視聴者を飽きさせないためかもしれませんが、それもまた見慣れたメソッドで、せっかくの面白い設定があまり発展しなかったように思います」と言及。ドンブラザーズについては「今回はそれを崩そうとしているのか、ひとりひとりの素顔で、分からない部分がまだまだ多い。途中で〝この人のことは分かりました。次はライバルを出します〟という、例年の僕からしたら残念な展開にならず、群像劇として、最後まで引きつけてくれるんじゃないか、と期待しています」と結んだ。

15話では13話で倒されたタロウが復活。新キャラクターの桃谷ジロウはドンドラゴクウに変身した。一方で鬼頭の漫画盗作問題の経緯、犬塚の罪の内容、雉野の妻と犬塚が探す恋人が同一人物であるような演出、「ゼンカイジャー」主人公でゼンカイザーブラックに変身した五色田介人、ジロウ、新たな勢力の獣人(ジュート)に関することなど、明かされていない謎は多い。主題歌の曲名「俺こそオンリーワン」のような、各キャラクターが抱くそれぞれのドラマは、どのように発展していくのだろうか。

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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