ウマい「町中華」はタクシー運転手が知っている! 水ドラ25『ザ・タクシー飯店』に今すぐ駆け込みたい!

『ザ・タクシー飯店』Ⓒ「ザ・タクシー飯店」製作委員会

渋川清彦&髙木雄也が「町中華」に熱視線

テレビ東京の深夜ドラマ『ザ・タクシー飯店』の放送が開始された。同局のヒットドラマ『孤独のグルメ』(2012年ほか)と同じスタイルを踏襲した作品だ。フィクションの中に実在する飲食店が登場する、ドラマ仕立ての飲食店ガイドとしても利用できるドラマである。

『ザ・タクシー飯店』Ⓒ「ザ・タクシー飯店」製作委員会

無言の飲食シーンに、長々とした一人称のナレーションで、心の声が重ねられる演出。オフビートなセンス。音楽はビッグバンド・スカ。まさに『孤独のグルメ』の兄弟のような作品である。

『孤独のグルメ』では様々な種類のレストランが紹介されたが、この『ザ・タクシー飯店』は、いわゆる「町中華」に限定されている。近年、町中華には注目が集まっている。BANGER!!!でもお馴染みの玉袋筋太郎氏が出演しているバラエティー番組『町中華でやろうぜ』(BS-TBS)も人気だ。

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現在のように町中華に注目が集まる少し前に、私はネットの記事で<消えゆく町中華、消えゆくラーメンライス>という内容のコラムを読み、「確かに、そういう時代なのかもしれない」と納得したことがあったので、突然の“町中華への熱視線”に戸惑いを覚えた。しかし、絶滅危惧種であるがゆえに持つ郷愁が、エンターテイメント・コンテンツとして魅力があったから、町中華が注目されたのであろう。町中華には「味がある」のだ。

思い返してみると、かつてはファストフードの外食チェーンといえば、ハンバーガーショップと牛丼店、立ち食い蕎麦くらいしかなかった。それが今では「お一人様焼肉」まで登場し、ほとんどの料理が安価で気軽に食べることができる。コンビニのメニューも非常に充実している。人々の空腹を満たす役目は町中華から、これらのものに移った。

とはいえ、ただ郷愁だけでは『ザ・タクシー飯店』にしても『町中華でやろうぜ』にしても、町中華に限定した飲食店ガイドも兼ねる番組が成り立つはずもない。町中華には、現在においても非常に強いニーズがあるのだ。

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住めばそこには必ず町中華があった

私はこのコラムを書くにあたり、思い出の「町中華」を振り返ってみた。すると高校卒業以来、現在の50歳を超える年齢までに住んだ街それぞれに、非常に思い入れが深い町中華がことごとく存在することに、改めて驚いた。

調布・ジャスミン亭、笹塚・代一元、西新宿・富城屋、学芸大学・二葉、石川台・ 三番、自由が丘・梅華……やべぇ! 一軒一軒、訪ねてぇ! インターネットで確かめてみると、30年前に行った店もまだ存在しているようだ。確固たる存在感があるからこそ、町中華がエンターテイメント・コンテンツとして改めて取り上げられているのだろう。

『ザ・タクシー飯店』Ⓒ「ザ・タクシー飯店」製作委員会

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思えば30年前は、インターネットなどその存在を想像することすらできなかった。その頃、大学のために上京した私だったが、次第に登校しなくなり、近所の町中華とレンタルビデオ店にだけ通うような毎日を過ごしていた。

その町中華店に、懺悔しなければならないことが私にはある。あるとき食事を終えると、手持ちのお金が足りなかった。いつも通っていた店なので、おばさんは「後でいいよ」と言ってくれた。しかしその後、なんとなく返しそびれたままになってしまい、そのまま、その街を引っ越してしまった。

お金が惜しかったわけではない。1ヵ月ほど経過した後に、お金を返しに行くことがなんとなく恥ずかしくなってしまったのだ。いま考えると、若い頃の自分のその自意識が全く理解できない。恥ずかしいって何が? おかげで私は不義理を働いただけでなく、行きつけの店を失ってしまった。

ただ、ずうずうしい言い草であるが、その自分の理解不能な未熟さに、私が過ごしていた“過去”の気配のようなものを、いま感じることができた。また、この人情がチェーン店ではありえない町中華の魅力でもある。……って、おばさん、ほんとにごめんなさい。

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やっぱり町中華は庶民の味方!

『ザ・タクシー飯店』の第2話には、柳沢慎吾がゲスト出演している。このキャスティングは、かつて『ふぞろいの林檎たち』(1983年)で中華料理屋<金華>の息子、実(みのる)を演じていたことへのオマージュだろうか? 私とほぼ同時代の大学生だった実は、その後、葛藤を抱えつつも紆余曲折の末に<金華>を継いだ。彼はまだ中華鍋を振っているだろうか?

最後におまけ。私は1年ほど前に、上京以来30年以上過ごした東京を離れて茅ヶ崎に引っ越した。その茅ヶ崎の駅前にずっと気になっていた、町中華がある。このコラムの執筆をきっかけとして、意を決して入店してみた。「意を決して」というのは、ここのラーメンが「300円」だからである。その看板を見て、あまりの安さになんとなく尻込みして入れなかったのだ。

結果、そのラーメンは透き通った鶏ガラ醤油スープで、まさに町中華の基本の味。おいしゅうございました。それにしても300円って。やはり町中華は庶民の味方だ!

文:椎名基樹

水ドラ25『ザ・タクシー飯店』はテレビ東京系にて毎週水曜深夜1時より放送中

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