片桐仁が大好きなミロの回顧展へ…日本との思わぬ関係に驚きの連続

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。3月26日(土)の放送では、「Bunkamura ザ・ミュージアム」で開催された「ミロ展―日本を夢みて」に伺いました。

◆シュルレアリスムの巨匠ミロは日本に憧れていた!?

今回の舞台は、東京都・渋谷区の複合文化施設「Bunkamura」にあるBunkamura ザ・ミュージアム。

1989年の開館以降、海外の巨匠の作品展や世界有名美術館の名品展など、さまざまな企画展を開催しています。片桐はそこで今春開催されていた国内では約20年ぶりとなる大規模なミロの回顧展「ミロ展―日本を夢みて」へ。

ミロ好きの片桐は「来たかったです」と心躍らせ、「子どもの頃から抽象画といえばミロ。絵の自由さみたいなものを体現しているような印象がありますね」と語ります。今回は副題に「日本を夢みて」とあるように日本もテーマとなっており、「今までにない切り口ということですね」と期待を寄せます。

ミロことジュアン・ミロは、1893年にスペイン・カタルーニャ地方で誕生。ピカソと並ぶ現代スペインの巨匠で、シュルレアリスムの作家として知られていますが、実は創作活動の裏には日本文化への深い造詣があったそう。そこで、まずは日本への憧れが垣間見える、若き日の作品から両者の繋がりを紐解きます。

同館の上席学芸員・宮澤政男さんの案内のもと、手始めに「アンリク・クリストフル・リカルの肖像」(1917年)を鑑賞。リカルという親友の画家を描いた作品を前に、「ミロの作品かわからないですね」と戸惑う片桐。それもそのはず、これは20代半ばの作品で、いわゆる誰もが知っているミロの作風ではないから。

着目すべきはその背景で、そこには輸出用の安い浮世絵が貼り付けられています。当時、カタルーニャ地方の州都バルセロナでは万博を機に日本ブームが巻き起こり、こうした作品が多数散見。

19世紀半ばにパリで起こった日本文化の大ブーム「ジャポニスム」はスペインにも波及し、若きミロやその仲間も日本のアートに魅せられていたそうで、片桐は「ゴッホとかは(日本画を)真似て描いていましたけど、(ミロは)貼っちゃうんですね(笑)。ビックリしましたけど、面白い」と興味を示します。

続いては、「これもミロ?」と片桐が訝しんだ「花と蝶」(1922~23年)。モチーフは花ですが、当時ヨーロッパで描かれていた既存の花の絵とは異なり、枝だけが刺されているなど、その様はどこか日本の生け花のよう。ミロがどこまで生け花に造詣があったか定かではないものの、写真などで生け花を見ていた可能性は大いにあるとか。

片桐が「蝶の描き方も独特ですよね……バランスを外すというかね、きっちりしすぎない」と話すように、画中の蝶もとても効いており、ミロの画家としての才能が窺えます。こうして若い頃から日本文化を吸収しながら模索し、その後、自身のスタイルを確立します。

◆ミロのスタイルが確立、そこに影響した日本の文化とは?

20代後半、ミロはパリでシュルレアリスムの運動に参加し、この頃から画風が大きく変化。片桐もその当時の作品「絵画(パイプを吸う男)」(1925年)を見て「ミロらしくなってきましたね」と目を輝かせます。

当時ヨーロッパではシュルレアリスムが台頭。ミロはその影響を受けていたと言われますが、宮澤さんはもうひとつ、日本の"俳句”の影響を示唆。というのも、俳句に見られるミニマリスム、さまざまなものを排除しエッセンスだけを残す、その空気を醸し出ているから。

俳句という文化はヨーロッパにはなかったこともあり、各国で大流行。俳句関連の本も出版されていたため、文化の中心にいたミロは確実に知識を得ていたことが予想でき、宮澤さんは「自身の絵画芸術に応用していたのではないか」と推察します。

片桐もミロの変化に「言葉で説明することではなくなり始めている。苦悩している感じがないというか、それまで試行錯誤して細かく描きこんだりしていたけど、ここにきて全く描きこまないというか……」と思いを巡らせます。ミロは写実的に描くことも可能ながら、それを捨てることで彼ならではのオリジナルスタイルを確立します。

さらに、「これは面白い!」と片桐が声を漏らしたのは、30代後半に描いた作品「焼けた森の中の人物たちによる構成」(1931年)。「どこが焼けた森やねん(笑)」とツッコミつつ、「この顔を付けちゃうのはズルいし、いいですね~。かわいらしい絵ですよね」と片桐は食い入るように眺めます。そして、画面下には意味不明の黒い物体もありますが、これも「むしろ何かを考えることがナンセンス」と一蹴。

なお、この作品は1932年に日本で展示されました。その展覧会では、前衛芸術の中心地パリで当時最も先鋭的な画家のひとりとしてミロの作品が持ち込まれたそうで、「当時の日本人はビックリしたんじゃないですかね。どう見たらいいんだろうって。サイズ感と色のセンスといい、なんでこんなのをプロが描いているのって」と思いを巡らせます。

◆これぞミロ…超大作に片桐仁も感動しきり

片桐が「大きな作品ですけど、一目でこれぞミロというような作品ですね」と目を見張っていたのは「絵画(カタツムリ、女、花、星)」(1934年)。その画中にカタツムリなどの姿があるのかといえばそうではなく、カタツムリ(エスカルゴ)、花(フルール)、星(エトワール)女(ファム)という文字が。

これに「字が完全に絵の一部」、「掛け軸などで絵と字がセットになっているものもあるが、これは絵の中を堂々と字が自由に横断しているんですよね」と恐れ入っていましたが、ミロ自身「文字は絵と同列」という言葉を残しているそう。そして、宮澤さん曰く、ミロがこうして文字を取り入れていたのは、日本の「書道」の影響。日本語は読めなかったものの、文字や書道に興味を持っていた節があり、そうした線の面白さをあえて作品の中に取り入れていた可能性も。

一方、超大作「ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子」(1945年)を前に片桐は「僕が最初に思ったのは、子どもの絵って、こういうふうに上にいくんですよね。楽しさというか、子どもが絵を描く、自由で何をやってもいい、そういうものを感じましたね」と率直な印象を語ります。

作品自体は何を描いているか相変わらずよくわかりませんが、これは1930年代からミロが構想を練っていたそうで、1930年代といえば、スペインでは内乱が起き、第二次世界大戦直前。パリにいたミロは戦火を逃れ、あちこちを回るなか、辿り着いたのが地中海のマジョルカ島。

このタイトルにもある"ゴシック聖堂”は、そのマジョルカ島にあり、ミロとしては大聖堂こそ平穏を約束してくれる場所であり、そうした思いも加味された、ものすごく計算して描かれた一作だとか。

片桐も「これぞミロ」と絶賛。「いろいろな要素があり、絵の中で縦横無尽に振る舞っているのに1枚の絵として世界観ができている。すごく難しいことに挑戦しているんだけど、パッと見、全くそうは見えないというのが面白い」と圧倒されていました。

総じて片桐は「僕の大好きなミロの作品が見られただけでなく、日本との関係、ミロの方から日本に歩み寄っている部分があるというのは面白かった」と笑顔で語ります。さらには、「浮世絵を貼ったものから、俳句の思想で無駄を排していったという作品、その目線は面白かった。また、この番組の醍醐味でもある学芸員さんの話の妙も味わいました」と大満足。「日本を愛し、自らの作風を追求し続けたミロ、素晴らしい!」と称え、和の文化を取り入れながらのぼり詰めていった偉大なる巨匠に拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、「絵画」

「ミロ展―日本を夢みて」の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったものからぜひ見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。片桐が選んだのは「絵画」(1966年)。

これは1966年、ミロが70代になって初めて来日し、帰国後すぐに描いた作品であり、学芸員の宮澤さんイチオシの作品だとか。来日にあたり、ミロは事前に「日本の書」という記録映画で予習し、日本では前衛書道家などと親交を深めたそう。そうした経験を経て描かれた作品に、片桐は「"書”というのがミロと親和性が高い感じがしますね」と話していましたが、タイトルはあくまで「絵画」。

書から学びながらも、あえてそう名づけているのがミロらしく、自分はあくまで絵を描いているとの主張が窺えるとても興味深い一作で、片桐は「最後の部屋にこれがあるとなんかいいですね」とミロに思いを馳せていました。

最後はミュージアムショップへ。「ミロはグッズとの相性が抜群ですよ!」とウキウキの片桐はさまざまな商品を物色。「プレゼントに向いていますね~」とポーチを手にし、「飴もありますよ。千歳飴みたい、すげ~!」と驚くなか、「これは買おう!」と即決していたのは"MIRO”と胸に文字が書かれたTシャツ。ちなみに、片桐は同じタイプでゴッホ版も持っているそう。

さらには、「コッチミロ」と描かれたユニークなトートバッグにも興味津々の片桐でした。

※開館状況は、Bunkamura ザ・ミュージアムの公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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