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世はまさに、「地方の時代」。
いわゆる地方創生が叫ばれて久しい昨今、岡山県笠岡市でも市外からの移住者呼び込みに力を入れています。
担当部署は、政策部の定住促進センター。
そこはかとなく夏の訪れを感じる5月下旬、定住促進センターの担当職員さんの案内で、笠岡市大島中(おおしまなか)地区にある売り出し中・貸し出し中の2軒の空き家を見学してきました。
あいにくの曇り空でしたが、とても充実した内容に大満足!
まるで観光ツアーのような当日のようすをレポートします。
頼れる移住コンシェルジュ!笠岡市定住促進センターとは
笠岡市役所本庁舎の敷地の一隅に、離れのように位置している建物が定住促進センターです。
笠岡市政策部所管の定住促進センターは、読んで字のごとく、笠岡市の定住人口増加を目的とした種々の業務を担っています。
主な業務
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笠岡市の賑わい創出のベースキャンプといっても過言ではない、定住促進センター。
その業務は、おおむね以下の6つが中心となっています。
- 移住・定住支援事業
- 笠岡市の魅力を発信する、シティプロモーション事業
- 各種助成金を扱う、暮らしに関する支援事業
- 結婚推進事業
- 若者会議(「ぼっけーまち会議」)に関する事業
- 地域おこし協力隊に関する事業
どれも笠岡市の活性化には欠かせない取り組みといえるでしょう。
なかでも個人的に大変お世話になっているのが、「地域おこし協力隊に関する事業」です。
地方創生政策の目玉として、総務省主体で平成21年度にスタートした地域おこし協力隊制度。
都市部から地方へ多くの個性豊かな人材が移住し、さまざまな地域活動に取り組んでいます。
笠岡市において、そんな地域おこし協力隊の受入担当部署となっているのが、ここ定住促進センターです。
筆者自身、地域おこし協力隊として、2年前の令和2年6月に笠岡市へ移住してきました。
縁もゆかりもまったくなかった笠岡市でしたが、赴任当初より担当の職員さんには親身になって面倒を見ていただいています。
協力隊活動についての支援のみならず、日々の地域での生活全般に関する相談や、はたまたプライベートでの食事まで…。
まさに頼れるパートナー!
こうしたきめ細やかな対応は、都会の肥大化した行政においては難しいことかもしれません。
人情味あふれる関係性は地方ならではですね。
「人」の血の通った市民サービスこそ、笠岡市定住促進センターの最大の強みです。
空き家・空き地バンク制度
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笠岡市定住促進センターのメイン業務ともいえる「移住・定住支援事業」。
その中核を成しているのが空き家・空き地バンク制度です。
この制度、一言でいってしまえば、非営利の不動産業。
行政が仲介役となり、市内の空き家や空き地を希望者に紹介する制度となっています。
事前に所有者から申し出のあった空き家・空き地の登録情報は、市のホームページや定住促進センターの窓口などで閲覧可能です。
令和4年5月現在、笠岡市内で登録されている物件数は約100件、土地数は約10件とのこと。
気になる物件・土地があった!こんな空き家・空き地を探している!など、制度を具体的に利用したい場合は、希望条件などを記載した利用登録のための書類を提出する必要があります。
お目当ての物件・土地を絞り込んでいく過程で利用者からの要望があった場合は、平日の午前9時から午後4時までの間に担当職員の案内で現地を見てまわることも可能です。
条件に合致した空き家・空き地を買いたい!借りたい!となったら、いよいよ契約へと進みます。
まずは所有者との交渉。
そこで希望者・所有者の双方間で合意が得られれば、宅地建物取引士資格を有する市内の提携不動産業者仲介のもと、めでたく契約成立と相成ります。
笠岡市の空き家・空き地バンク制度を利用して実際に契約まで至った数は、平均して年間で約50件。
これは近隣自治体と比べても多い数字だそうです。
移住者にとっては大変ありがたい空き家・空き地バンク制度。
現地の空き家巡りを実際に体験してきました。
物件巡りスタート
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空き物件巡り当日は、どんよりとした曇り空。
それでも、笠岡市定住促進センターの空き家・空き地バンク担当職員、品川 亜弥(しながわ あや)さんと村上 泰恵子(むらかみ たえこ)さんに笑顔で迎えていただきました。
お二方の案内で、笠岡市の南東端、浅口市 寄島町(あさくちし よりしまちょう)地区と境を接する大島中地区の、2軒の趣ある空き家を見てまわります。
いざ現地へと赴く前に、まずは定住促進センターの窓口で物件の情報をチェック。
事前に頭の中でイメージを膨らませます。
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だいたいの物件情報を確認したら、いよいよ出発!
定住促進センターから、車で片道15分ほどの当該地区へと向かいます。
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海まで歩いてすぐの古民家
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1軒目は、大島中地区の大工ノ浜(おくのはま)エリアにある重厚な造りの古民家です。
木造瓦葺き2階建ての母屋に、同じく2階建ての離れ。
さらには広い庭、農地(田畑)、山林までついています。
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そしてなんといっても、目と鼻の先に雄大な瀬戸内の海が広がっているんです!
まさに「海のまち・笠岡」を感じることのできる好立地ですね。
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見た目にも風格の漂うこの物件、昭和2年の築なので、令和4年現在で実に95年もの時が刻み込まれています。
まさしく古民家といった風情で、玄関を一歩中へ入ると、あたかもタイムスリップしたような感覚をおぼえることでしょう。
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2階の窓際には細長い廊下が。
肘掛欄干(ひじかけらんかん)と相まって、まるで谷崎 潤一郎(たにざき じゅんいちろう)の小説に出てくるような、えもいわれぬ艶やかさを醸し出しています。
暑さが増す時季には、ここで海をぼんやりと眺めながら、風鈴の音をBGMに涼みたい…。
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畳敷きの部屋の至る所には、これまた趣深い調度品・骨董品がズラリ。
博物館よろしく、目を楽しませてくれます。
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レトロなレコードプレイヤーやアップライトピアノも。
現役でしょうか。
なんとも味わい深いです。
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そして…、やはりありました。
2階へと通じる超急勾配な階段!
古民家にはつきものですね。
田舎のおばあちゃん家を思い出します。
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積み重ねた歴史が凜としたオーラを放つこの物件。
でも、どこか懐かしい温もりを感じます。
家の隅々まで堪能したところで、さあ次の目的地へと向かいましょう。
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高台に建つオーシャンビュー物件
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次にやってきたのは大工ノ浜エリアの隣、大島中地区の正頭(しょうとう)エリアです。
急傾斜地に建つ見晴らし抜群の物件を訪ねました。
海沿いの駐車場に車を停め、ひたすら坂道を上ります。
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息も絶え絶えに細い傾斜道を進んでいき、やがてお目当ての物件が見えてきました。
そして振り返ると…、そこは一面のオーシャンビュー!
1軒目の物件に負けず劣らず、「海のまち・笠岡」の名に恥じない素晴らしい立地です。
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木造瓦葺き平屋建てのこの物件、とてもコンパクトな造りになっています。
さっそく中に入ってみましょう。
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高台に立地しているため、海から駆け上がってきた潮風が心地よく室内を吹き抜けていきます。
部屋を見渡してみると、台所の脇でレトロアイテムを発見!
計量器付き米びつです。
食器棚と一体となったこのタイプ、今では米びつだとわからない人もいるかもしょうか。
筆者が幼いころ、実家にかろうじてあったのを覚えています。
懐かしい。
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さらに室内を見てまわると、どことなく違和感が…。
物件の登録情報では平屋建てだったはずが、上へと通じる階段が現れました。
キッチンに無理矢理とってつけたような、そんなようすの急勾配階段です。
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壁と見紛う角度の階段を、両手の補助を使いながらおそるおそる上っていくと、8畳ほどの空間がぽっかりと広がっていました。
なんとこの部屋、家主さんがあとから自分で増築したそうです。
低い天井に、一本木で構えた圧巻の梁(はり)。
秘密の隠し部屋を彷彿とさせます。
屋根裏収納として、はたまた優雅にリラックススペースとして、何かと使い勝手が良さそうです。
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派手さはないけれど、慎ましやかで落ち着く雰囲気のこの物件。
帰り際、玄関先でまたひとつおもしろいものを見つけました。
角大師(つのだいし)のお札です。
角大師、すなわち「比叡山延暦寺中興の祖」と呼ばれる平安時代の僧・元三大師 良源(がんざんだいし りょうげん)の伝説に基づくこのお札。
家の戸口に貼ることで、あらゆる災厄、とりわけ疫病を祓うと信じられています。
新型コロナウイルス感染症がまん延する昨今、パンデミックの終息を祈念しつつ物件をあとにしました。
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往きの上り坂に比べ、帰りはあっという間です。
少し時間が余ったので、海辺の大島美の浜漁協(おおしまみのはまぎょきょう)に寄ってみました。
ここでは水曜日・日曜日・祝祭日を除き、毎朝8時から朝市が開かれています。
水揚げされたばかりの新鮮な魚介類を豊富に取り揃えており、一般のお客さんでも買い求めることができるとあって、地元のかたを中心に連日大賑わいです。
営業時間は正午までですが、売り切れ次第閉市となるので、なるべく早い時間帯に行くことをおすすめします。
所狭しと鮮魚が並ぶ構内は、見てまわるだけでもわくわくしますね!
初夏の時季、笠岡近海ではメバルやネブト(テンジクダイ)が旬とのこと。
今度ゆっくり買いに来よう…。
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海とともにある暮らし/笠岡市大島中地区の紹介
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見てまわった2軒の空き家。
位置しているのは笠岡市の南東端、海に抱かれたまち・大島中地区です。
筆者が笠岡へ越してきたきっかけも、海を中心に紡ぎだされる独特のまち並みや、海に根差した生活形態に強く惹かれたからでした。
行政サービス、交通の便、教育、仕事…。
移住を決断する際、はずせない判断ポイントがいくつかあると思います。
それこそ人によって重視する点は千差万別ですが、そのまちの雰囲気、言い換えればある種の「まちのにおい」といったようなものも、移住を決めるときの大きな要素のひとつではないでしょうか。
ここ大島中地区は、なんともいえない魅力的な芳香を強烈に放っているまちです。
そんな大島中地区のふたつのエリアを、「ヨソ者」の視点から紹介したいと思います。
ゆったりとした大工ノ浜エリア
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大島中地区のなかでもとりわけ東端部に位置するのが、大工ノ浜エリアです。
内見した物件から歩いてすぐのところには、こぢんまりとした同名の砂浜、大工ノ浜が広がっています。
とても小さなビーチで、レジャー客などもほとんど立ち寄りません。
水の透明度が高く、のんびりするにはうってつけの場所です。
沖には海苔網や定置網が仕掛けられています。
気取らない雰囲気の、まさに生活のための浜といった風情ですね。
大工ノ浜に隣接して、注目していなければ気づかず通り過ぎてしまいかねないほどの、小さな港があります。
今ではもうほとんど使われていないのかもしれません。
訪ねたときには、船が一艘も見当たりませんでした。
浜沿いを広い道路が走り、架橋のため港の湾口部が狭まって潮の流れが変化してしまったせいでしょうか、干潮時には港内の海水がほとんど引いてしまい、船の係留も難しそうです。
それでも、港脇には海事関係者の信仰を集める金毘羅(こんぴら)さんを勧請した、石造りの常夜灯が現在もなおそびえ建ち、往時の賑わいを今に伝えています。
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大工ノ浜エリアの魅力は海だけではありません。
集落の奥へと一歩足を踏み入れれば、なんとも牧歌的な雰囲気の里山が見えてきます。
海の青と田畑の緑。
自然のコントラストに心和みます。
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また、少し歩いたところには、市内外のクリエイターたちが集う「シェアアトリエ 海の校舎」があります。
令和4年5月現在オープンして丸1年のこちらの施設、廃校となった大島東小学校の木造校舎をそのまま活用しているそうです。
ノスタルジーを感じますね。
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海と山に囲まれて、のんびりとした時間の流れる大工ノ浜エリア。
ひとり思索にふけり、新たな価値を生み出すにはおあつらえ向きの環境が揃っています。
絶景広がる正頭エリア
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比較的平坦な大工ノ浜エリアと対照的に、2軒目の物件がある正頭エリアは、海岸線から急激に斜面が駆け上がり、山の中腹にへばりつくように民家が建ち並んでいます。
各戸へのアクセスは必然的に坂道を上り下りしなければならず、なかなか大変です。
また、典型的な漁村集落の様相を呈しており、家々は肩を寄せ合うように密集して建ち並んでいます。
その隙間を縫うように細い路地が縦横を走るようすは、まるで迷路。
傾斜地のアップダウンと入り組んだ生活道とで、集落を歩いているとあたかも冒険の旅に出ているようなわくわくを感じます。
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急傾斜地に展開する集落では、自ずと石組みの技術が発達するのでしょう。
正頭エリアではそこかしこで見事な石造建築物を垣間見ることができます。
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正頭の集落を歩いていると、よく神仏に出会います。
脈々と信仰が息づいているのを感じますね。
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物件巡りで最後に立ち寄った大島美の浜漁協は、ここ正頭の港に隣接しています。
また近くには、地域全体の活性化を目的とするNPO法人、大島まちづくり協議会の事務所も。
正頭エリアの生活と漁港とは、切っても切れない関係性なんですね。
まさにコミュニティの中心として機能する海。
正頭に絶景が多いのもうなずけます。
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おわりに
笠岡市定住促進センターの職員さんといく、空き家巡りツアー。
物件だけでなく、地域の雰囲気をも体感できるスペシャルなものでした。
匂い立つ生活のようすや、そのまちが持つ独特の肌触り。
現実的な指標にばかり目がいき、ついついないがしろにされがちですが、移住を考える際の原点だと思います。
訪れた笠岡市の大島中地区には、海とともに育まれた歴史と文化が香る、魅惑的な空気が漂っていました。
豊かな価値に出会うことのできた空き家巡り。
「地方の時代」の旗振り役、定住促進センターが中心となって進めるきめ細やかな笠岡版空き家・空き地バンク制度に、これからも期待です!
取材協力
- モデル:福山あいどるくらぶ あゆさん & ボス