旅のくすり箱 ~ 日本の食生活と健康に欠かせない「発酵」に着目した店

健康のために、身体に良いものを食べたい!

ふだんは健康を気にしないかたでも、体調を崩したときには思ったことがあるのではないでしょうか。

でもそもそも身体に良い食べものって一体なんでしょう。

野菜?オーガニック食品?それとも国産食品?

「発酵食品!」と答えたかたもいるでしょうか。

なんとなく、発酵食品は身体に良いと聞くけれど、詳しくは知らないかもしれません。

その「なんとなく身体に良さそう」をていねいに説明し、アプローチしてくれる店「旅のくすり箱」に出会いました。

日本の食生活と健康に欠かせない発酵食品に着目した、旅のくすり箱を紹介します。

旅のくすり箱は「発酵」に着目した店

旅のくすり箱は倉敷美観地区内に、2021年12月にオープン。

「冨來屋本舗(とらいやほんぽ)本館」など倉敷美観地区にテナントを持つ株式会社TRYの店舗のひとつです。

店では発酵食品を中心とした食品の購入と、スイーツやドリンクのテイクアウトができます。

麹(こうじ)は、蒸した米などの穀物に微生物(麹菌)を繁殖させて発酵させたものです。

麹菌が米を麹に変えるときに、酵素を生み出します。

この酵素が、麹由来の発酵食品をつくるときに働いているそうです。

写真左が黒糀、右が白糀

発酵には食品の旨みを引き出す栄養価が上がる保存性を高めるひとの腸内環境を整える効果があります。

「麹」はすべてのコウジに使える漢字で、「糀」は米コウジのみに使います。

記事では店の商品名の表記に従い、漢字を使い分けます。

旅のくすり箱は、糀(こうじ)を軸に発酵の研究をしている「吉田研究所」といつまでも旅を楽しめる心と体の健康づくりを発信しているそうです。

黒糀は吉田研究所でつくられています

旅のくすり箱で買える商品

旅のくすり箱の商品は、店の自家製や岡山県内でつくられた発酵食品が中心。

一部、発酵食品以外も販売されています。

自家製糀の量り売り

店内に入ると、目を引くのは大きなショーケース。

上段には茶色、黒色、黄みがかったもの、実に多種多様な発酵調味料がずらりと並んでいます。

発酵調味料は自家製なんだそう。

発酵調味料は量り売りされています。

糀の購入をするなら、瓶(びん)の持参を。

もし瓶がなくても大丈夫。空瓶を購入すれば、糀を入れてもらえます。

「口に合うかな」と心配な場合は、試飲ができるので安心です。

黒糀を試飲。ヨーグルトのような酸味とまろやかさがあります

発酵食品・調味料

店内には発酵食品などの販売も。

岡山県の商品が多くあるので、自宅用だけでなく、お土産にもぴったり

▼真っ赤なデザインが目を引く、佐藤紅商店の柚子胡椒(岡山県高梁市産)がありました。

筆者は、そうめんに付けて食べるのがお気に入り。

▼アンチョビならぬ、ままチョビを発見!

「まま」は岡山を代表する魚「ままかり」から取ったようです。

塩漬け発酵したままかりが、オリーブオイルに漬かっています。

見た目もかわいく、岡山らしい商品なので、筆者は県外の友だちにプレゼントしました。

倉敷市の児島で作られているようです。

倉敷市産のオリーブ、干しシイタケなどの発酵食品以外や岡山県内外の調味料もあります。

添加物を極力使用しない商品なので身体に良さそうです。

旅のくすり箱のテイクアウトメニュー

旅のくすり箱には、糀入りのテイクアウトメニューがあります。

メニューの一部を紹介しましょう。

甘酒ラテ

ホットドリンクの甘酒ラテ。

砂糖は入っておらず、甘みは糀によるものだそうです。

やさしい甘さで、ホッとします。

大吟醸の酒粕を使用し、豆乳で割っているようです。

生姜が入っているので、寒い冬に特におすすめ。

発酵クラフトコーラ

ネーミングから気になりませんか?

クラフトコーラと聞くだけで気になりますが、まさかの発酵ドリンク?

量り売りもしています

シナモンや八角、クローブなど数種類のスパイスとレモン、オレンジ、生姜が入ったコーラです。

コカコーラとはまったく別物。スパイスがしっかり効いて元気がわいてきそう。

発酵クラフトコーラの甘さは甘酒や黒糖で、身体に負担が少ない甘味料を使用しています。

フランボワーズ×黒糀ソフトクリーム

筆者はこれまであらゆる変わり種ソフトクリームを食べてきましたが、糀入りは初めて!

トップには刻んだチョコが散りばめられています。

黒糀が入っているため、レアチーズケーキのような甘酸っぱい味わい。

ほどよい甘さで、ぺろぺろっとあっという間に食べてしまいました。

辻利抹茶×甘糀ソフトクリーム

食べても糀が入っているとわからなかったソフトクリーム。

抹茶の風味を損なわないように糀を配合しているそうです。

そのためしっかりと抹茶の深みを感じられます。

抹茶の魅力をさらにアップさせる、あんこと白玉付きです。

糀の甘さを活かしたソフトクリーム。

身体に良い糀入りなので、ダイエット中のひとでも罪悪感なしに食べられるかもしれませんね。

倉敷美観地区にできた、日本人の食生活に欠かせない麹に着目した旅のくすり箱。

社長の楠戸 登美夫(くすど とみお)さんと、店長の鷲野 勝之(わしの かつゆき)さんにインタビューしました。

社長の楠戸 登美夫さんと店長の鷲野勝之さんへインタビュー

地元のかたも観光客のかたも訪れる旅のくすり箱。

社長の楠戸 登美夫さんと、店長の鷲野 勝之さんに、店のこだわりや商品の紹介など話を聞きました。

吉田研究所の協力のもと、旅のくすり箱を立ち上げる

──開業の経緯を教えてください。

楠戸(敬称略)──

健康志向が高まってきて、自然食品やビーガン、発酵食品が注目されつつあります。そのなかで身体に良いもの、発酵、麹を扱えればいいなと思っていました。

自分自身は、5年前(2017年)に大腸がんを患い、その経験があって健康志向に。

早期発見だったのでステージゼロでよかったんですけど、手術の後が大変でね。

腸閉塞(ちょうへいそく)になって病院に駆け込むことが続いたんです。

そのなかで自分の身体のことを考えて、発酵食品のひとつでもある、身近な漬物から目を向けていきました。

楠戸さん(左)と鷲野さん(右)

当店をプロデュースしているのが吉田研究所の吉田 亜衣(よしだ あい)で、発酵マイスターを取得したり、発酵の教室を開いたりしています。

そこで店の立ち上げから協力してもらおうと。吉田は娘で、店長は息子です。

──吉田さんが発酵に興味を持ったのは楠戸さんの影響ですか?

楠戸──

どうなんだろうね。たまたま吉田と興味が合致したのだと思うんだけど。

発酵の店を始めようと、決めて進んではないですね。

鷲野(敬称略)──

吉田が教室を開いたのは5年前(2017年)です。

吉田も体調不良がきっかけで糀の世界に入りました。

糀の魅力

──糀で体調が変わりましたか?

楠戸──

黒糀を飲みだしてから一回も腸閉塞はないですね。

病院に駆け込むことが最近はほとんどなくなりました。

黒糀は九州や沖縄の焼酎をつくるときに用いるもので、岡山にはあまりないです。

鷲野──

黒糀は当店の手作りです。

すっぱいのが苦手なかたやお子さまには、牛乳などで割るとヨーグルト風味になって飲みやすくなります。

当店では甘酒や牛乳で割って提供していますね。

楠戸──

僕は酸っぱいのが好きなので原液で飲みます。

鷲野──

この酸っぱみの成分が、身体を元気にしてくれるクエン酸です。

黒糀はクエン酸が豊富で、さらに一般的な糀に比べて酵素が4倍といわれています。

試飲用の黒糀。少し黒みがかっています

酵素は食べものを消化、分解する力があります。

調理前に肉を糀に漬けることで、タンパク質が分解されます。この分解は胃の消化活動と同じ働きです。

糀付けした肉のほうが、弱った胃腸の負担を減らしてくれるため、父の腸閉塞がなくなったのかなと。

──なぜ量り売りの糀を、瓶で売るのですか?

鷲野──

温度が高くなると発酵が進み、空気に触れる面積が大きくなると雑菌が入りやすくなります。

酵素の失活(酵素の機能を失うこと)を防ぐために、瓶での量り売りにたどり着きました。

楠戸──

黒糀は吉田研究所で、そのほかの発酵調味料や甘酒は当店の自家製です。

──鷲野さんが発酵の世界に興味を持ったきっかけは?

鷲野──

姉が昔から発酵の仕事をしているので知っていましたし、味見もしていました。

ただ、この店ができるまでは発酵にまったく興味がなくて。

店を開いてから黒麹を飲み続けているうちに、身体の変化に気づいたんですよ。

あくまでも個人の感想ですけど、飲み続けて3か月経ってから肌の凹凸がなくなったのを実感しました。

お客さんも言ってくれるんです。肌がきれいになったって。

そこからどんどんはまって、糀について本格的に学び始めました。

──店名の由来は?

楠戸──

ここは観光地なので「旅」を。

身体を健康にするのが薬ですよね。それで「旅のくすり箱」に。

鷲野──

地域や旅のお客様に、テイクアウトのドリンクや扱う商品を通して健康を支えていきたいと思います。

旅行中に体調を崩されることが多いとお聞きしたので、私たちの商品で楽になっていただきたいです。

店内に入らず外から気軽にテイクアウトメニューの購入ができます

──ソフトクリームについて教えてください。凍らせても糀は生きているんですか

鷲野──

ソフトクリームには糀が入っていて、その酵素は消化の手助けや腸内の環境を良くする役割があります。

酵素はタンパク質からできていて熱に弱く変質しますが、低い温度は問題ないです。

休んではいますが、活性化しています。

酵素によりますが、だいたい65度以上の熱を与えて高い温度になると活動が止まるんですよ。

熱を入れたからといって効果がないわけではなく、死んでしまった菌も善玉菌のエサに。

まわりまわって腸によい作用があります。

発酵食品を手軽に味わえ、購入できる店

──なぜソフトクリームの開発を?

楠戸──

暑い時期になるので、冷たいものがほしくなるだろうし。

鷲野──

甘酒入りのソフトクリームはあるかもしれませんが、黒麹甘酒を使用したソフトクリームは調べた限りでは初めてではないかと。

それで黒糀甘酒入りソフトクリームを作りました。

──開発は大変でしたか?

楠戸──

塩糀のソフトクリームも試作中です。大失敗しました。

塩を入れると温度が急激に下がってなかで凍ってしまったんです。

完成まで乞うご期待ですね。

──店に並んでいる商品はご自身で探されるんですか?

楠戸──

みんなであちこち出かけて、いいものがあれば取り扱うように。

鷲野──

基本的に添加物が少なかったり、身体にやさしいものであったり、昔ながらの製法のものを中心に取りそろえています。

基本的に岡山のものをそろえていて、これからも増える予定です。

”発酵人口”を増やしたい

──今後の目標はありますか?

鷲野──

発酵は奥が深くて難しい世界のように感じられるかと思います。

はたから見てちょっと入りにくい世界かなと思われているのではないかと。

だんだんと認知はされていると思うのですが、自分で作るまでは踏み込めないかたが多いようで。

そういったかたでも簡単に扱えて料理がおいしくなったり、糀がもたらすメリットを世の中に広めたりしたくて。

麹の販売も。自宅で自家製麹をつくれます

“発酵人口”を増やしてもっとみんなが健康になってほしいと思っています。

ここが発酵人口を増やす拠点になれれば。

若いかたにも知ってほしいです。これは姉の想いでもあります。

楠戸──

健康面で困っているかたがいらっしゃったら自分の経験も含めておすすめしたいです。

岡山は気候がよく、山も海もあり、食べものが豊富。

そういった岡山の食を旅に来られたかたに認知していただきたいです。そのなかで糀も知ってもらえたら。

岡山には発酵食品のひとつである、日本酒の酒蔵が40もあるので味わってもらいたいと思い、一部置いています。

鷲野──

日本人の根本から支えてきたのが糀。醤油、味噌、日本酒にもなります。

日本人に愛される調味料はほとんど糀が元です。

発酵食品が身体に良いと、みなさんわかっていると思います。

ただ、どのように食するかは具体的にわからないかたが多いのかと。

楠戸──

今後はレシピも公開しますし、作ったものを試食としてご用意しようと思います。

もっと発酵食品をわかりやすく紹介していきたいです。

鷲野──

発酵食品に興味があるのは女性が中心です。

男性にはあまり認知されていないようですが、ソフトクリームなら若いかたも興味を持ってもらえるかなと。

いまSNSで話題になっているようで、地元のかたがソフトクリームを目掛けて来てくださることもあります。

そこから糀にも興味を持ってもらえたらうれしいです。

おわりに

取材をとおして、旅のくすり箱を知るだけでなく、発酵食品・糀・酵素についても学ぶことができました。

個人差はありますが、消化を助けたり、腸内環境をよくしたり、美肌になったり良いことがたくさん。

旅のくすり箱のテイクアウトメニューは砂糖不使用で糀由来のやさしい甘さなので、すっと身体になじみます。

おいしくて健康にも良い一石二鳥の発酵食品。

調理に用いるのは難しいと思うかたは、まずは気軽にテイクアウトメニューを食べるのがおすすめです。

発酵の世界に目覚めるかもしれませんよ。

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