リーグ運営法人設立で変われるか? フットサル・Fリーグが新体制で開幕。本格改革に向けた第一歩

日本フットサルリーグ(Fリーグ)の2022-2023シーズンが、6月18日に開幕する。ディビジョン1(1部リーグ)が12チーム、ディビジョン2(2部リーグ)が9チームで、ホームアンドアウェー方式で2回戦総当たりで行われる。今シーズンからは新たにマルバ水戸FC、リガーレヴィア葛飾が加わった。

今シーズンのFリーグには小さくない変化があった。リーグの運営法人がそれまでの一般財団法人日本フットサル連盟から、今年4月1日に新しく設立した一般社団法人日本フットサルトップリーグに移ったのだ。これまで日本フットサル連盟がFリーグの運営、フットサルの普及や若年層の育成など全てを担ってきた。Fリーグの運営のみ独立させることで、リーグの運営や発展に集中できる体制になった。観客動員に苦しむFリーグが、どう変わっていくのだろうか。(取材・文=大塚淳史)

リーグ前哨戦のカップ戦決勝の観客数は701人

リーグ開幕に先立って開催されたオーシャンカップ、決勝戦の観客数は701名だった。筆者撮影

2007年に華々しく立ち上がったFリーグだが、ディビジョン1の総入場者数は2014-2015シーズンの約26万人をピークに右肩下がり。コロナ前の2019-2020年シーズンは約17万人まで落ち込んでいた。Fリーグ、フットサル人気の低下は、長年、メディアを含め何度も言われてきている。

リーグ開幕に先立って、6月4日、5日にオーシャンカップの準決勝、3位決定戦、決勝が東京の駒沢オリンピック公園総合運動場の屋内球技場で開催された。2日間で計4試合、いずれもがスリリングな試合展開で誰もが楽しめる試合だった。しかし、決勝の名古屋オーシャンズ対立川スレティックFCの観客数は701人。決勝の前に行われた3位決定戦のしながわシティ対ペスカドーラ町田を含めると、4チーム中3チームが東京が拠点のチームだったが、それでも集客には大きな影響がなかったようだった。会場自体の客席は決して多くないが、空席が目立った。

ただ、それでも各チームの熱心なサポーター達が応援に訪れていた。優勝した名古屋オーシャンズは、会場内にいたサポーターが奏でる太鼓に合わせて一緒になって喜びを分かち合っていた。

決勝後の記者会見で、名古屋オーシャンズのフエンテス監督と篠田龍馬キャプテンに、なかなか観客動員が厳しい現状のFリーグについて問うと、それぞれ感じる問題意識を二人とも話してくれた。

「リーグ全体の問題になってくると思う。自分たちは選手、スタッフとして、より魅力のある試合をしないといけない。もっと面白い、観客に楽しんでもらえる試合にしないと。そこから各クラブのプロモーションで興味をもってもらうなど、リーグや協会と協力しながら成長していかないといけない。リーグとスポンサーを含めて、皆が手をつないでやっていかないと」(フエンテス監督)

「僕たち選手はピッチの中で魅力のある試合をして、また見に来たいと思ってもらえるような試合をすることが大きな仕事。僕たち(名古屋オーシャンズ)は勝利を義務づけられているチームで、今まで僕も長く名古屋でやっているが、勝てば、結果を出せば(試合を)見に来てもらえると思っていたが、最近はそれだけではダメだと感じている。クラブとしても、色んな取り組みをしている最中です」(篠田龍馬キャプテン)

名古屋オーシャンズはFリーグ過去15シーズンで14度のリーグ優勝を誇る絶対王者だ。歴代の日本代表選手たちや、過去には世界的な名手も在籍するなど、Fリーグを引っ張り続けている。試合中のテクニックや面白い内容で魅せて勝ち続けているのに、観客数は伸ばせていない。

「本拠地の武田テバオーシャンアリーナから離れて、新しくトレーニングセンターを作ったのですが、試合に関しては、巡業ではないけど(愛知県内の)色んな所でやる形で、昨シーズンからホームゲームをやるようになった。以前は見に来てもらえなかった新しい層の方々に、ホームゲームに見に来てもらえる環境になっている。

移転したことで、そういった点でメリットはあると思う。そこから本当に集客につなげていくというのはクラブとしてもリーグとしても課題。クラブもいろんな取り組みをしている。選手たちも試合、練習だけでないことをしていかないといけないと思っています」(篠田キャプテン)

2007年のFリーグ元年開幕戦は約7000人

2007年のFリーグ開幕戦は華々しかった。東京の代々木体育館に約7000人を集めた。それがコロナ直前の頃にはリーグ戦では1試合2000人を超えればまだいい方で、1000人を切る試合も多い。コロナ禍で集客にダメージを受けている中で、新シーズンがそのレベルにすら戻るか微妙なところだ。

3位決定戦で勝利したペスカドーラ町田の甲斐修侍監督は、どうしたらもっと集客ができるかという質問に次のように答えた。

「2007年の開幕を僕も経験しているので、どうやったらあんな開幕戦になるのか、数千人の中でゲームできるようになるのか、我々クラブも課題です。上手いだけとか、良い試合だけとかではなかなか深く応援しようとは思ってもらえない。気持ちの部分だったり、見に来た人に伝わる熱いゲームでないと。また見たいという思う試合を1試合でも多くできるか。今シーズンも全力をかけたい」

すでに各チームが集客に取り組んでいるし、他の競技ほど多くはないがメディアや世間に注目されるような取り組みもあった。例えば、2011年にサッカー元日本代表の三浦知良(現・鈴鹿ポイントゲッターズ)がエスポラーダ北海道に参加したり、最近ではサッカー元日本代表で松井大輔が所属のY.S.C.C.横浜のサッカーチーム(J3)だけでなく、同時にフットサルチームにも挑戦したことは話題を呼んだ。松井大輔は今シーズンも二刀流を継続のようだ。

このように一過性的には注目を浴びることはあっても、根本のFリーグ全体、フットサルに対する注目はなかなか上がってこないのが現状だ。

元浦和レッズ社長・Jリーグ理事が代表就任

一般社団法人日本フットサルトップリーグ(Fリーグ) 代表理事 藤口光紀氏。筆者撮影

そこでようやく本格的なリーグ改革に舵を切るきっかけになりそうなのが、今回、Fリーグの運営法人を独立化したこと。Fリーグの試合会場に活気を取り戻すための最初の一歩を踏み出した。

代表理事に就任したのが、藤口光紀氏。Jリーグの浦和レッズの社長や、Jリーグ理事を経験している。クラブ経営の視点と、リーグ運営側の視点も経験している点で期待がかかる。6月4日にオーシャンカップの会場で、藤口代表理事に話を聞いた。

「日本サッカー協会でフットサルの部署を立ち上げたのもあるし、フットサルはもう少しやれることがあるのではないかとは思っていたので引き受けました。連盟からはFリーグの強化を見てくれと言われている。リーグを引き上げることで、日本代表も強化される。男女のFリーグを発展させていく」

藤口代表理事は浦和レッズの立ち上げ時から事務方として尽力。前身の三菱自動車工業サッカー部が、東京から縁もゆかりもなかった埼玉県浦和市(現在のさいたま市)に移った中、ゼロからレッズの浸透、認知拡大、集客に取り組んだ経験を持つ。

途中Jリーグ理事を経験した後に、浦和レッズの社長として戻りJリーグ優勝、アジアチャンピオンズリーグ制覇を経験している。チーム立ち上げ時の苦労があるからこそ、リーグ改革や人気復活はそう簡単ではないとの慎重な姿勢を崩さない。

「(Fリーグは)日本全国にいろんなクラブがある。各地域に根ざしたチーム作りを通して、地域とともにフットサルを発展させていければ。ただ、そう簡単にはいかないとは思っている。今年一年はまず現状がどうなっているか、クラブと色々話をして(リーグ)全体を見ようと思う。事務局体制もしっかりと取り組む」

アリーナスポーツという利点

筆者が個人的にFリーグに期待している理由のひとつが、アリーナスポーツであるという点だ。現在、Bリーグを筆頭に、日本ではアリーナスポーツへの世間の注目や企業からの投資が進んでいる。全国各地で5000人以上の規模のアリーナ建設も進む。

こういった状況から、Fリーグもやり方次第では入場者数を増やして、チケット収入増でさらなる投資ができて魅力的な試合も見られるという、Bリーグのような好循環が生まれる可能性があるのではと見ている。藤口代表理事は、他のアリーナスポーツとの連携はありえるとした。

「こういった室内の良い体育館(駒沢オリンピック公園総合運動場屋内球技場)でできていますが、環境整備も大事。バスケ、バレー、ハンドボールと一緒になってやっていければ」

新シーズンではフウガドールすみだが、ハンドボールリーグ男子のジークスター東京と共催に取り組む。同じ会場で行うことで、互いの違うファン層に対して集客のアプローチになるし、同じ会場を同日使用することで、会場設営費用を抑えられ、その分観客を楽しませるイベントに費用を回せるなどのメリットもある。

過去の経験を請われて就任した藤口代表理事だが、あくまでサッカー畑の話であり、フットサル界との関わりは薄い。だからこそ、リーグは新体制全体でカバーしていく。特に小野寺隆彦専務理事は、エスポラーダ北海道でゼネラルマネジャーを務め、リーグ屈指の集客力を誇るチームにした実績がある。

Fリーグは今シーズンもディビジョン1はABEMAで全試合オンライン配信となり、放映面では利点も多い。いかにFリーグを認知させていくか、リーグとクラブが集客に取り組んでいくか。マーケティングやPRなどやることは多々あるが、それでもまず改革への一歩を踏み出す体制を作れたことは大きい。新シーズンでは改革に向けたアピールも積極的に打ち出していくことが期待される。

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