【追う!マイ・カナガワ】高校の健康診断、なぜ脱衣? 学校「医師との間でジレンマ」

学校医は聴診器を生徒の胸に当て、心音や呼吸音に異変がないか確認する

 「うちの学校の健康診断は下着を脱いで、衣服を胸の上まで上げる。セクハラだと思う」。交流サイト(SNS)上で県立高校に通う女子生徒とみられるアカウントが健診の実情を明かした。「追う! マイ・カナガワ」取材班にも、投稿を見た読者から「この件をぜひ取材して」との依頼が相次いで寄せられた。不快に思う女子生徒の間では「脱がされる意味はあるのか」との不信感が強まっているが-。

◆「より正確な診断のため」

 女子生徒による問題提起を、当該の県立高校はどう受け止めているのか。

 副校長によると、同校には少なくとも3年続けて保護者らから、「女子生徒の心情に配慮して」との要望が届いた。そのため、学校側はその都度、生徒の体が見えない工夫を学校医に求めてきたが、「正確な検査には視診、触診、聴診が必要」と説かれるという。

 聴診器を衣服の上から当てたり衣服と肌の間に入れたりする方法では視診ができず、副校長は「学校も生徒側の声と医師の意見の間でジレンマを抱えている」と語る。

 健康診断に脱衣の必要性はあるのだろうか。

 県内の学校で長年健診を担当している男性医師は「より正確な診断のためには脱衣が望ましい」と説明する。聴診器を胸に当てて確認するのは、主に(1)心臓の雑音(2)呼吸音の異常(3)不整脈─の有無だ。音の聞き分けが困難な場合、状況に応じて脱衣を求めている。

 このほか、文部科学省が監修した学校健診マニュアルでは、アトピー性皮膚炎など皮膚疾患を発見するために「原則全身を視診」と記されている。

 加えて厄介なのが、背骨が弓なりに曲がってしまう「側彎(そくわん)症」だ。悪化すれば手術を要する病で、早期発見のため学校健診でチェックが義務化されている。10歳以降では「思春期突発性側彎症」の発症リスクがあり、患者の多くが女子という。確認は視診と触診で行われている。

 県内の別の男性医師は、側彎症を例に「異変を見落とせば医者が責任を問われる」と危ぶむ。2019年には、学校健診で側彎症を見落とされたとして、女性が卒業した秋田県の小中学校のある地元自治体などに損害賠償を求める訴訟を起こしたケースもある。

◆女性医師割り当てに課題も

 生徒の体を脅かすのは疾病だけではない。同省によると、視診からあざを見つけて虐待の発見につながることもあるという。

 視診の必要性は多岐にわたり、今回取材に応じた医師2人は「本来は脱衣が望ましい」と口をそろえたが、ともに生徒のプライバシー配慮を求める声の高まりを受け、今は着衣のまま健診を進めている。

 同省も、各教育委員会から相談が相次ぐことを受け、「脱衣を伴う検査における留意点」を全国の教育委員会などに昨年通知。生徒・保護者に「(脱衣の)必要性やプライバシーに配慮した方法を丁寧に説明し、理解を得る必要がある」としたが、あくまで「学校医と共通認識を図り、検査を受けやすい服装で」とし、判断は現場に委ねた形だ。

 交流サイト(SNS)で取り沙汰された県立高校に聞き取り調査をした県教委も「医師と学校が話し合う中で進め方を決めてもらうしかない」としている。

 また、女子生徒に女性の医師を割り当てることは「現実的には困難」(県教委)という。学校医は県医師会から推薦された開業医が務めるが、所属する約9500人の医師のうち女性の割合は2割弱。全国的に学校医の担い手は不足し、日本医師会によると、多くの医師が診療の合間に複数校を掛け持っているのが実情だ。

◆取材班から

 取材に応じた県立高校の女子生徒によると、今年は健診のルールが改善され、待合室のホワイトボードに「下着はそのまま」と記されていたという。

 ただ学校側から経緯説明はなく「私たちは子どもじゃない。大事な話なので説明してほしい」と不満を口にし、同校の男子生徒からも「健診は1人1~2秒で医学的な意味があるのか不明だし、学校にはちゃんと生徒と向き合ってほしい」と声が上がった。

 学校健診マニュアルを監修し、追加の通知も出した文科省も「生徒への配慮も正確な健診も欠かせない。各校には学校医や生徒、保護者と話し合ってどちらも実現してほしいが…」と対応に苦慮するこの問題。みなさんはどうあるべきと考えますか。

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