フル規格 実現へ向け佐賀県との対話どう築く 山口知事「手を挙げていない…」 長崎新幹線の軌跡・6 完

走行試験で初めて県内を走る新幹線かもめ。9月23日の長崎―武雄温泉開業後は武雄温泉で在来線特急に乗り換える「リレー方式」となる。博多までの全線フル規格化には佐賀県の理解が欠かせない=5月10日、JR長崎駅そば

 今年3月下旬、大石賢吾知事は就任あいさつで佐賀県の山口祥義知事を訪問した。約30分の面会は報道陣にも公開され、山口知事は柔らかい口調で終始会話をリード。10分ほどたったころ九州新幹線長崎ルート(博多-長崎)の話題を自ら切り出した。
 「佐賀県と長崎県はずっと一緒に新幹線を国にお願いしてきたが、急に長崎県は豹変(ひょうへん)して(単独で)国にフル規格を要望し出した。僕ら(両県)が決めてきたのはスーパー特急とフリーゲージトレイン(FGT、軌間可変電車)までだったのに。(佐賀県はフル規格に)手を挙げていない」
 JR九州は2017年、収支採算性が成り立たないなどとしてFGT導入を断念。中村法道長崎県知事(当時)は与党検討委に全線フル規格での整備を要望した。山口知事の言う「豹変」はこの場面を指すとみられるが、長崎県はフル規格を求める意向を事前に佐賀県に伝えていたという。
 19年1月、山口知事は中村知事と会談した際、財源や新たに生じる並行在来線など複合的な課題があると主張。だがその後、与党検討委は「フル規格が適当」との基本方針を決定した。これに佐賀県は反発。事態を打開したい国土交通省は今年2月までに「幅広い協議」を同県と計6回重ねたが、目立った進展はない。
 山口知事は元総務官僚。過去に長崎県の総務部長も務めた。佐賀県知事に初当選した15年1月には、フル規格について本紙のインタビューにこう答えている。
 「今、数百億円という負担について佐賀県民の理解を得られるとは思っていない。ただ(フル規格に)できたらそれに越したことはない。環境の変化がどうなるかというのもある。旗は持っていたい。長崎県は特にそうでしょう」
 時間短縮効果が少ない佐賀県民の思いを代弁しつつ、長崎県側にも一定配慮している。だが19年5月を最後に、同ルートを巡る中村知事との対話にも応じず、本県側の複数の関係者は「真意が分からない」と口をそろえる。そんな中、就任直後に山口知事と面会を果たした大石知事。フル規格実現に向け対話できる関係をどう築くのか。

 07年冬の並行在来線(肥前山口-諫早)問題決着時に佐賀県鹿島市長だった桑原允彦氏(76)は5月中旬、同市内の自宅で取材に応じた。その際「記事にしてほしい」と言われたことがある。「私たちが並行在来線のJR九州からの経営分離に同意していたら、第三セクターの経営となって沿線市町には人員や赤字補塡(ほてん)などものすごい負担がかかっていた。でも最後まで同意しなかったから(JR九州の運行になり)そうならずに済んだ。長崎県の沿線市(諫早)も恩恵を受けている」
 その上でこう締めくくった。「新幹線開業後23年間はJR九州が並行在来線を運行すると言うが、本当にそうなるのか心配。新幹線の沿線地域はすごく期待するだろうが、過疎化など裏返しの反応がこちらに来る。長崎県も人口は減少しているので、新幹線で発展してほしいよ。ただ(博多-肥前鹿島の特急大幅減少など)犠牲があったことは忘れないでほしい」

  =おわり=


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