「船長の言葉」から浮かぶ真相とは…「テレメンタリー2022」で知床・観光船沈没事故を取材

HTB北海道テレビで6月26日、テレメンタリー2022「なぜ、出航した ~知床・観光船事故の真相~」(午前11:00、北海道ローカル、6月30日午後2:20再放送)が放送される。テレビ朝日系各局でも随時放送される(https://www.tv-asahi.co.jp/telementary/timetable/)。北海道・知床半島沖で、乗客・乗員26人を乗せた観光船が沈没した事故。日本の海難事故の歴史に残る大惨事はなぜ起きてしまったのか。関係者の証言から、安全航行がないがしろにされていた実態と、それを見過ごしてきた行政のチェックの不備を浮き彫りにする。

「船が浸水している、沈みそうだ!」
4月23日、知床半島西側を航行中の観光船「KAZUⅠ(カズワン)」から救助要請が寄せられた。運航会社「知床遊覧船」が他社に先駆けて営業を始めた初日のことだった。天気予報では海が荒れる予想となっていた。

「ブラック企業で右往左往です」
船を操縦していた豊田徳幸船長が、事故の約1カ月前に残していた言葉だ。メッセージを受け取った友人は、豊田船長が無理な出航や過酷な勤務を命じられ、悩んでいたと証言する。船の修理を求めても応じてもらえず、「いい加減な会社だ」とよく口にしていたという。

運航会社の桂田精一社長は、事故5日後にようやく開いた会見で、当日の出航判断についてこう説明した。「海が荒れるようであれば引き返す『条件付き運航』であることを豊田船長と打ち合わせ、出航を決定しました」「最終的には船長判断です」。桂田社長は運航を統括する「運航管理者」でありながら、ほとんど事務所に常駐していなかった。一方で、知床の観光拠点・斜里町ウトロで旅館やホテルを複数経営し、事業拡大を図っていた。さらに、豊田船長が友人に宛てたメッセージから、「知床遊覧船」が新たな観光船ビジネスをもくろんでいたことも明らかになった。

「社長は海のことを全く分かっていない」
海や船の知識が乏しかったという桂田社長は、去年、複数のベテラン船長を雇い留めにしていた。残ったのは、1年前に船長職についたばかりの豊田船長。甲板員は事故当日が初の乗務だった。事務所にいたのは、従業員1人と手伝いの2人だけ。同業者は、「桂田社長が人件費を削減したかったのでは」と語る。関係者の証言を積み重ねると、経験の乏しい「寄せ集め」の運航体制で、安全面が軽視されていた実態が浮かび上がる。

「KAZUⅠ」は昨年、接触事故と座礁事故を起こしていた。北海道運輸局が特別監査を行い、「知床遊覧船」は改善報告書を提出していたが、教訓が生かされることはなかった。出航中止基準や連絡体制などを定めた「安全管理規程」の内容を順守するという約束は果たされなかった。ずさんな安全管理はなぜ見過ごされたのか? 船の検査機関の関係者が初めて語った行政のチェック体制の問題点とは――。

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