【Editor's Talk Session】今月のテーマ:面白いと思うものに光を当てる新レーベル“highlight”

Editor's Talk Session

東京・下北沢にある音楽レーベル兼プロダクションのUK.PROJECTが、2020年9月に立ち上げた新人向けのレーベル“highlight”。第31回の座談会では同レーベルに携わるスタッフに参加してもらい、デジタルサービスを軸にアーティストと二人三脚で歩む姿勢や、所属しているpeanut butters、LAYRUS LOOPの魅力を語ってもらった。なお、ジャンル、形態、年齢、性別不問で、通年アーティスト募集を行なっている。

【座談会参加者】

■今井貴彦
UK.PROJECTのA&R;/マネージャー。社内のデジタル部門を新設したり、新レーベル“highlight”を立ち上げたりしています。

■たまこ
CD屋の店員を経て、UK.PROJECTに入社。CDの営業だったり、配信周りの諸々、アーティスト担当などいろいろ頑張ってます。

■オガチョ
バンドマンとしての活動を経て、UK.PROJECTへ入社し、A&R;/マネージャーへ。人一倍水を飲みます。

■石田博嗣
大阪での音楽雑誌等の編集者を経て、music UP’s&OKMusicにかかわるように。編集長だったり、ライターだったり、営業だったり、猫好きだったり…いろいろ。

■千々和香苗
学生の頃からライヴハウスで自主企画を行ない、実費でフリーマガジンを制作するなど手探りに活動し、現在はmusic UP’s&OKMusicにて奮闘中。

“チャンスが多くなるように動く”が 僕らの基本的な姿勢

千々和
highlightは2020年に立ち上げられたUK.PROJECT内の新レーベルですが、どんな経緯があったのでしょうか?

今井
コロナ禍で会社やアーティストの動きが全体的に止まってしまって、このまま終息するのを待つだけにはいかないので、来年、再来年につながる何か新しいことをやろうという話があったんです。そこで、僕が2019年からストリーミングやSNS周りを担当するデジタルプロモーションチームを作っていたので、今井のところでやるのがいいんじゃないかと声をかけられたのがきっかけでした。

千々和
デジタルプロモーションチームではどんなことをされていたのでしょうか?

今井
Apple MusicやSpotifyなどストリーミングサービスのレーベル窓口としてのプロモーションや社内への情報共有はもちろん、各サービスのアーティストページ/チャンネルの最適化などの下地作りを中心にやっていました。また、“Spotifyとは?”というような、そもそものサービスの特徴など、“とりあえずこの人に聞けばある程度分かる”という存在になろうと考えていました。そのあとに注力アーティストのSNS施策の企画/実行などですかね。

千々和
その背景があってhighlightはストリーミング等のデジタルサービスを軸にしたレーベルとして立ち上がったんですね。また、ロックバンドのイメージが強いUK.PROJECTですが、highlightの合言葉は“新発見”で、“UK.PROJECTの中に、まだ何の色もついていない、まっさらな場所があってもいいんじゃないか?”という想いもあったそうで。

今井
はい。まず、会社の中で新人発掘に対して積極的になれていない部分があると思ったんですよね。みんなそれぞれに担当業務があるから、ビビッときた新人アーティストがいても手をあげにくいというか、やりたくても全力で取り組めるか分からないというところで、躊躇してしまう空気感を感じていたんです。マネージャーやA&R;をやっている人と話すと、みんな同じような気持ちがあって、特にマネージャー陣はアーティストと365日をともにするので、全然そんな時間がないんですよ。この新人発掘を社内でどうにか仕切り直したいと思ったのは根本としてあります。

千々和
現在highlightを担当されているのは今井さんを含めて8名いらっしゃいますが、このメンバーは主に今井さんが声をかけていったのですか?

今井
そうですね。普段の業務が音源制作ではない人を中心に声をかけました。マネージャーの他にもデスクをやっている人もいて、1組のアーティストにつき複数名のコアスタッフを付けて分担をしているので、新人アーティストの動きが止まらないような体制を作っています。

たまこ
新人発掘はどこのレーベルでも永遠の課題だと思いますが、弊社の場合は新人発掘の部署がないので、たまたま見つけたバンドをスタッフ同士で“いいね”と話すことがあっても、実際に声をかけたりするまでの道のりもすごく長くて、すぐに踏み切れないところは感じていました。

オガチョ
僕は入社したのが2020年4月で、highlightが立ち上がったのとほぼ同時期でした。声を掛けて頂いたタイミングで実はすでにこのレーベルの第一弾アーティストであるpeanut buttersをやりたいという気持ちが強くあり、レーベルのコンセプトを聞いた時に“ここだ!”と思ったので二つ返事でスタッフになりたいと言いました。

今井
あと、新人発掘を仕切り直したいという考えから、最初はデジタルディストリビューション(デジタル配信の流通)だけをやることもいいと思ったんですけど、あと追いでやってもすでにあるサービスよりもいいものにはならないので、highlightはレーベルとしてやることにしました。また、UK.PROJECTはレーベルとして30年以上やってきているので、レーベルのほうが僕たちらしいのではないかなと。ただ、その30年の歴史は心にありつつもhighlightではフラットな状態で、どんなジャンルであろうと面白いと思うものに光を当てることをやりたいという考えです。

石田
UK.PROJECTさんの色は大切にしつつっていうことだったんですか? それとも壊すくらいでもいいから新しいものをという感じでした?

今井
完全に後者でした。UK.PROJECTの素晴らしさやブランドは自分たちなりに理解しているつもりなので、新しいレーベルとして打ち出すにはいったんそこから距離を置くというか、まっさらなところから始めたいと思いました。

石田
そのスタンスでスタートさせたhighlightを、現在の音楽シーンの中でどんな存在にしたいと思っていますか?

今井
デジタルというものを中心に考えるのはこのレーベルをやるにあたって大切にしていることです。これまでのプロモーションのやり方はリリース近辺の一極集中だったと思うんですけど、そこに縛られずに365日動き続けることが重要だと考えています。リリースを細かくするとか、SNSでの発信を細かくするとか、やり方はさまざまですが、ストリーミング上のヒットを作ることが目標であり、それが僕たちの大事な仕事だと思っているので、そのために打席に立ち続けようと思っています。今はリリースしたタイミングで勢いをつけることよりも、どのタイミングでどの曲がヒットするか分からない面白さがあると思うんですよ。打席に立ち続けて、できるだけチャンスが多くなるように動くというのが僕らの基本的な姿勢としてあると思います。

アーティストと 音楽以外での接点を見つける

千々和
所属や契約が決まったアーティストとのコミュニケーションで、音楽以外の好みを知ることはあると思いますが、highlightは募集要項の時点で映画や本、漫画など音楽以外の好きなものを書く項目があるのも珍しいと思いました。

今井
音楽以外で僕らとの接点が見つかると、それがコミュニケーションのきっかけになるという意図がひとつと、そのアーティストの音楽が他の好きなものと交わることでより広がったり、化学反応が起こることがあると思うので、できるだけ知っておきたいんですよね。デジタルディストリビューションの場合は完成された音源が送られてきて、アーティストが望めばプロモーションも一緒にやる流れになると思うんですけど、レーベルの場合は音源制作から一緒にやることが前提にあるので、より最初から二人三脚であると思うんです。だからこそ、音楽以外の好みも把握しておきたいなと。

千々和
highlightのスタッフさんもご自身の好きなものや音楽のルーツをnoteに投稿されていますよね。

今井
募集するにあたって質問しているから、こっちも“スタッフにこういう人がいるよ”と書かないといけないだろうと(笑)。アーティスト側からも共通項を見つけてもらえたらいいなと思って、スタッフにお願いしました。highlightではオーディションも開催しますが、通年でアーティスト募集をしているので、今の時代はSNSやnoteである程度のきっかけ作りはしていこうと。

千々和
noteには今井さんとたまこさんがもともとタワーレコードで働いていたことや、オガチョさんはバンドマンとしてUK.PROJECTのスタッフさんと知り合ったのがきっかけで今に至っていることなどが書かれていて、音楽ファンが集まっているレーベルという印象が強くありました。

自分がバンドをやっていた当時お世話になっていたスタッフがいまして。その方の印象もあり、UK.PROJECTはアーティストへの愛情が濃いイメージありました。だから、裏方に回るのもすごくプラスな気持ちで、UK.PROJECTにスタッフとして携わることに抵抗もなく、むしろ憧れのほうが強かったです。

新しいレーベルとして 素晴らしいアーティストを迎えられた

千々和
以前はライヴ会場の物販で出していた自主制作のCDが最初の作品というアーティストが多かったと思いますが、今は配信リリースが先のアーティストがかなり多いですよね。昨今の新人発掘でも何か変化を感じることはありますか?

今井
特にメジャーレーベルが顕著だと思うんですけど、まずTikTokで探すっていうのはどこもやっていることだと思います。うちはまだ頑張りきれていないところではあるんですけど、やっぱりSNSで知ことが一番多いです。peanut buttersはどんなきっかけで知ったんでしたっけ?

たまこ
peanut buttersは紹介がきっかけではあるんですけど、ライヴはまだ一回もやっていなくて、配信シングルが一作リリースされている状態でした。その時にUK.PROJECTで定期的にやっていた新人発掘的なイベント『UNKNOWN SPICE DAY』に出てもらいたいというお誘いをして、ライヴのためにメンバーを集めてくれたという流れでしたね。

千々和
peanut buttersはコンポーザーのニシハラさんのソロプロジェクトですが、どんなところに魅力を感じましたか?

オガチョ
一番初めに自分が聴いた音源は、ニシハラが宅録で制作したものでした。一辺倒なリズムの上に乗っているメロディーだったり、ギターのリフだったりがすごく心地良く自然体に聴こえて。かつ、しっかりと頭の中ではメロディーが残っていたんです。最初の音源ではニシハラが自分の声のピッチを上げて女性ヴォーカルっぽく表現しているのも面白くて、初めに聴いた時は女性だと思っていたんですけど、実際に会ってみたら男性だったので驚きました(笑)。歌詞はすごくネガティブで日常の負の部分をストレートに歌っているけど、楽曲はポップっていうギャップにもやられました。

たまこ
私はThe Drumsが好きなんですけど、peanut buttersもThe Drumsが大好きで、曲を聴いた時に“これは私の好きなやつじゃん!”と思いました。音作りやメロディーの良さにもThe Drumsを感じます。

千々和
ルーツにはThe Drumsをはじめ、Red Hot Chili Peppers、Weezer やThe Beach Boys、筒美京平さんが手がけたものを中心とした歌謡曲も好きだそうで、まだ特徴が掴み切れないところも魅力に感じます。

今井
プレイリストを作ってもらったら海外のレジェンドアーティストから日本のあまり知られていないアーティストが入っていたりと雑多なんですよね。音楽性は洋楽のインディーロックが背骨にあると思うんですけど、ニシハラくんの琴線に触れる音楽はひと括りにできない何かがあって独特のセンスが感じられるので、僕らはそういう部分にも惹かれているんだと思います。激烈ポップなメロディーととんでもなく暗い歌詞というのも、誰も持っていない組み合わせ方だと思いましたね。歌詞には嘘がないというか、ただ暗いだけじゃないので、自分がその状況になくても胸を打たれるものがあります。

千々和
highlightの第一弾アーティストとして選んだ理由は何だったのでしょう?

今井
第一弾としてこれ以上ぴったりなアーティストはいないと思いました。楽曲の良さもそうですが、彼がヴォーカルとしてやっているものではなく、あくまでニシハラくんが中心になってサポートの人たちと一緒にやってもらうというかたちをとっているので、彼自身がどんな人なのかをフィーチャーしているわけではないんですよね。アーティスト写真もイラストで表現していますけど、俺が俺がって感じじゃないのも新鮮でした。そこも含めて、新しいレーベルとして素晴らしいアーティストを迎えられたと思っています。

千々和
もうひと組のLAYRUS LOOPさんはどんな流れで出会ったのでしょうか?

今井
LAYRUS LOOPは京都MOJOからの紹介がきっかけでした。MOJOのスタッフの方はよくお勧めのバンドの情報をくれて、複数のバンドのライヴ映像を送ってくれた中にいたのがLAYRUS LOOPだったんです。highlightのスタッフが“すごくいい!”っていうので社内のチャットで話題に出て、僕も魅力を感じたので、MOJOでのライヴを観に行きました。

千々和
どんなところに魅力を感じましたか?

今井
3ピースバンドなのはスタンダードだと思うんですけど、女性ヴォーカルであることはUK.PROJECTからのリリースアーティストとしてはかなり珍しいんですよ。なおかつ、ライヴハウス界隈だけじゃなくて、ポップスを聴いている人にも届くポピュラリティーがあるんじゃないかと思って、そこのポテンシャルに魅力を感じています。

たまこ
声がすごく魅力的で、どこか椎名林檎さんを彷彿させるのもいいなと。楽曲もキャッチーだし、すごい才能だと思いました。

オガチョ
昨年初めてライヴを観させていただいたんですけど、3人ともすごく明るくて、周りの人が応援したくなる感じが魅力的だと思いました。

今井
ダイヤの原石なので、もっとブーストさせるには彼女たちにとっての音楽の家庭教師みたいな存在がいるとより成長するんじゃないかと思ったので、EP『ポップコーン』(2022年5月発表)は僕自身も尊敬している真部脩一さん(ex-相対性理論/集団行動)にお声がけをして、全曲のプロデュースをしていただきました。これからリリースする楽曲も真部さんと一緒に制作を進めています。

とにかくアーティストには やりたいことをやってほしい

千々和
highlightはアーティストの個性が豊かな上に、スタッフの方それぞれの思考も活かされていくレーベルに感じましたが、最後にA&R;で個人的に大事にしていることを挙げると?

オガチョ
peanut buttersにかかわって何だかんだ2年が経ち、1stアルバム『peanut butters』(2021年9月発表)を区切りにして、今年からは新しいヴォーカルを迎えて新体制で動いているんですけど、彼からは思いもよらぬ発想が頻繁に出てくるので、こちらで軌道修正できるところはしつつも、アーティストの意向を常に基軸に置いてサポートしていきたいと思っています。

今井
完全に新しい音楽というのはなかなかあり得ないと思うんですけど、何かと何かの組み合わせで思わぬフレッシュなものができたり、ハッとさせられる要素が感じられた時に人の心が動くと思っているんですよ。最初の話に戻っちゃいますが、音楽以外のことにも興味があって、いろんなものに魅力を感じる楽しさを大切にしています。

たまこ
とにかくアーティストにはやりたいことをやってほしいと思っています。こっちから“こうしてほしい”とかではなく、やりたいことを全力でやってもらう中でコミュニケーションをとって、“もっとこうなるんじゃない?”と少しだけスパイスを加えることができる存在になりたいというのがあります。そういうサポートの仕方をしながら、やりたいことを長くやり続ける環境を作りたいと思っています。

highlight

highlightオフィシャルnote

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