岐阜の有名ゴルフ場、入会申し込みを「3年前まで外国籍だったから」と拒否 明文規定なし 「差別」かそれとも「私的自治」か

元韓国籍の男性の切実な主張が書かれた訴状の一部

 岐阜県可児市の「愛岐カントリークラブ」が、40代の日本人男性の入会を拒否した。理由は「元外国籍だから」。男性は精神的苦痛を受けたとして、慰謝料など330万円の損害賠償を求める訴訟を津地裁四日市支部に起こした。男性は「出自を理由にした不当極まりない差別だ」と非難するが、過去には裁判所がクラブ側の「私的自治」を認めたケースもある。属性による会員の選別を続けているクラブは今も多いとされ、業界関係者らは訴訟の行方を注視している。(共同通信=三木敢太)

 ▽プライドがズタズタになった

 提訴したのは三重県桑名市に住む男性。取材すると「これまでの人生で一番の差別を感じた。法的に認められた日本人なのに…」と話し、悔しさをあらわにした。
 事の経緯はこうだ。
 男性は元韓国籍で2018年に日本国籍を取得。今年2月11日、愛岐カントリークラブのメンバーに誘われ、このゴルフ場でプレーした。16日にはメンバーの男性らとともに、入会希望者を対象にした「視察プレー」にも参加。その後、戸籍謄本や印鑑証明書、入会申込書、反社会勢力に該当しないことを約束する「誓約書」などを提出して入会を申し込んだ。

 ところが20日、クラブ側から電話が。元外国籍であることを理由に入会は認められないと告げられた。入会申込書に国籍を記入する欄はない。ただ、提出した戸籍謄本には以前の国籍や、日本国籍を取得した時期が記載されていた。
 まさか入会条件に出自や国籍があるとは知らず、ふに落ちずにいると、3日後、クラブの常務理事から電話で次のような説明を受けた。
 (1)外国人の会員を制限しており、今はその「外国人枠」に空きがない(2)日本国籍を取得した場合も該当する(3)規定はなく、理事会が決定する―。
 説明を聞いた男性は、外国人を制限することは人権侵害に当たると訴えた。さらに、日本国籍を取得した「元外国人」まで対象とすることにも「納得できない」と強調。「日本にきちんと税金を納めてきたのに、こういう扱いを受けてプライドがズタズタになった」とも伝えたが、常務理事は「申し訳ない」「ぐっと(怒りの気持ちを)抑えて下さい」と繰り返すだけで、入会拒否の姿勢を覆すことはなかった。

 ▽知人に出自を説明する羽目に

 男性は5月、慰謝料などを求めてクラブを提訴。法の下の平等を定めた憲法14条に抵触するなどと訴えている。誘ってくれた知人に、本来であれば明かす必要のない自身の出自についても説明する羽目にもなった。「精神的損害は非常に大きい」と主張している。
 一方、クラブ側に取材すると「プライベートクラブの伝統的なルールで、差別には該当しない」と説明された。6月29日に始まった訴訟の弁論でも、請求棄却を求めている。

 ▽都合の良い解釈

 

神戸学院大の上脇博之教授

 愛岐カントリークラブは、ホームページなどによると1964年に岐阜県で4番目のゴルフ場としてオープンした。会員数は約1500人。2012年の「ぎふ清流国体」など、著名な大会の会場にもなった。
 歴史あるクラブの対応を識者はどう見るのか。
 神戸学院大の上脇博之教授(憲法学)は、そもそも外国人枠を設けていること自体が時代錯誤で、公序良俗にも反すると指摘。日本国籍を取得した「元外国人」も対象に加えていることも「差別的感情に基づき都合の良い解釈をしているとしか思えない」と批判する。
 NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(東京)の鳥井一平代表理事も憤りをあらわにした。「とんでもない話だ。独自にルールを決められるとはいえ、ゴルフクラブもいろいろな法律に守られている民主主義社会の一員である以上、外国とのつながりを理由とした差別は許されない」

NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平代表理事

  ▽正直に説明、まだまし

 しかし、裁判ではこうした独自ルールが是とされたケースもある。
 東京地裁は2001年、在日韓国人の男性が千葉県のゴルフクラブに会員権譲渡による入会を求めた訴訟の判決で、適法とする判断をした。判決理由では「入会できなくても生活などに支障が生じることはない。入会制限の理由がどうであれ、単なる私的な団体にすぎないクラブ側の自由を制限してまで平等の権利を保護するべき特別な場合には当たらない」と指摘している。最高裁まで争われたが、2002年に男性の敗訴が確定した。
 性別による選別が物議を醸したこともあった。
 2020年東京五輪のゴルフ会場となった霞ケ関カンツリー俱楽部(埼玉県川越市)は、女性の正会員を認めていなかったが、この規定が五輪憲章に抵触すると問題になった。批判を受け、男性に限定していた規則を変更した。
 ゴルフ会員権に詳しい弁護士は、入会できない理由を本人に説明した愛岐カントリークラブの対応を「異例だ」と説く。「民法の『契約自由の原則』に基づき、クラブ側には入会を拒む権利がある。『ご入会いただけません』としか言ってくれないクラブがほとんどの中で、拒否の理由を正直に説明しただけましだと思う」

 ▽時代とともに変わらないと

 かつて提訴された千葉県のゴルフクラブは、今も外国籍の人の入会を原則認めていない。取材をすると、営業部長の男性は一般論と断った上で「メンバーであることに誇りを持っている人がいるのです」ときっぱり。会員権を持つ多くの人が、世間の批判にさらされても入会のハードルを下げたくないと考えているのではないかと推測した。
 一方、三重県のあるゴルフクラブでも以前、外国人の入会を認めていなかった時期がある。ただ、15年ほど前に撤廃した。支配人によると、きっかけは「記憶にない」と述べた一方でこう付け加えた。「外国人は集団になると声が大きくなり、雰囲気が乱れることはたしかにある。でも、それはクラブ側がちゃんと注意すればいいだけの話」
 この支配人は、愛岐カントリークラブの「考え方も分かる」としつつ、こう指摘した。「ゴルフクラブも時代とともに変わらざるを得ない。断るにしても他の方法があったのではないか」

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