親と子が気動車のノッチ入れて「出発進行!」 関鉄が「親子で鉄道エンジニア体験」開催【レポート】

運転士体験では数秒間ですが指導運転士が手を放して参加者が一人で列車を走らせます

コロナ後の鉄道会社のイベントやツアーの傾向。本サイト掲載のニュースでも明快なように、一時代前の人気列車の再現とか、普段見られない現場の公開とか、鉄道ファンを意識して、プレミアム(特別)感を打ち出した企画が目立ちます。

鉄道会社の経営資源といえば、もちろん車両や駅。それらをツアーやイベントに仕立て、鉄道ファンに来訪してもらう作戦です。そんなイベントの一つ、関東鉄道(関鉄)の「親子で鉄道エンジニア体験」が2022年6月19日、茨城県常総市の水海道車両基地で開かれ、20組の親子が参加しました。最近の子どもたちは、どんな列車に興味を持つのか、会場でたっぷり話を聞きました。

本物の鉄道車両を走らせる これぞプレミアム

鉄道車両の運転体験は、今や鉄道イベントの定番かも。関鉄も以前から「気動車体験運転」を定例開催し、100回以上参加したコアなリピーターもいます。

車両基地内の限られたスペースといいながら、本物の鉄道車両を自分の手で走らせる。これぞ究極のプレミアム体験といえるでしょう。

そして今回、初めて参加対象を親子連れに広げました。子どもたちにとって、昔も今もあこがれの仕事が電車の運転士(気動車もです)。実は「子ども以上に鉄道が好き」という、お父さん、お母さんは少なくなく、関鉄のイベントも定員を上回る応募者から、抽選で参加者を決めました。

マスコンキーを差し込んでGO!

イベントは「運転士・車掌体験」と「軌道整備・軌道自転車体験」の2部制。運転士体験を主に紹介します。

軌道自転車は〝2両編成〟。行きはペダルをこいで前進、帰りはエンジン付き車両でけん引します
車掌体験で窓から顔を出して車側灯の消灯を確かめます。車側灯はドアが開いたままだと消えません

最初に、先生役の指導運転士から加速用のマスコンキーを受け取って、運転台に差し込みます。イベントで使用したキハ2300形は、加速用、ブレーキ用が別々の2レバータイプ。走り出す前にブレーキを3ノッチに入れ、圧力計の針がきちんと動くかを確認します。

発車時は知らせ灯をチェックして、大きな声で「前進よし」。次に出発信号を見て、「指さし確認」。出発時は警笛(「電気笛」といいます)を軽く鳴らして、周囲に注意をうながします。

鉄道車両を運転した経験をお持ちの方ならご存じ、列車はノッチを一気に入れても比較的スムーズに発車・加速しますが、難しいのが停車時。どうしても急ブレーキになりがちで、目標の手前で停止してしまうケースが珍しくありません。

「北海道新幹線やサンライズに乗りました」

何組かの親子に話を聞きました。新幹線Tシャツを着て、列車をプリントしたリュックサックを背負った男の子。今年、小学校に入学したので、お父さん、お母さんと、はじめての鉄道イベントに参加したそうです。

「北海道新幹線に乗ったし、最近は寝台列車の『サンライズ』にも乗った(『瀬戸』か『出雲』かは聞き忘れました)。愛読書は『JR時刻表』。時刻表に出ているいろんな列車に乗ってみたい」

東京都江東区在住で、関鉄のイベントはネットニュースで見つけたそう。私の腕章を見て、「サイト、いつも見てます」とお父さん。「ありがとうございます」と私。ご両親に、いろんな列車に乗せてもらってうらやましい。お子さんへの愛情が伝わります。

「減速時に速度計を見忘れた」

もう一人、千代田線(東京メトロ)のTシャツを着た子にも話を聞きましょう。千葉県我孫子市からお父さんと一緒に参加した小学4年生です。運転士体験を終えて、「減速時に速度計を見忘れた」と何だかくやしそう。

ここで若干の解説。本物の運転士は停車時、速度計を確認しながら減速します。でも関鉄はエンジニア体験で、参加者にそんな細かい点まで教えません。どうやら自分で勉強したようです。

お父さんに話を聞くと、「運転シミュレーションゲームで知ったようです」と、コアな鉄道ファンも顔負けの知識。今、乗ってみたい列車は、本サイトでも紹介された「伯備線に復活した、国鉄色の特急381系『やくも』です」と話してくれました。

空気ブレーキ車両をピタリ定位置に停める職人技

今回の鉄道エンジニア体験もそうですが、関鉄イベントの一番人気は気動車運転体験。前にも書きましたが100回以上参加したファンもいます。その理由、関鉄担当者の話では車両のブレーキシステムにあるようです。

関鉄の気動車には、旧型の空気ブレーキと新型の電気ブレーキが混在します(今回の体験運転で使用したキハ2300形は電気ブレーキです)。実はコアな鉄道ファンには、空気ブレーキが人気。

季節や天候、車両の調子でブレーキの利きが変わるので、素早く見極めて目標にピタリと止める。そこが、鉄道車両運転のだいご味。運転体験にリピーター続出の理由です。

人力による保線作業で鉄道の安全守る

参加した子どもが線路の突きかためを体験。人力による保線作業が鉄道の安全を守ることを学びます

スペースの関係で詳細は割愛しますが、軌道整備や軌道自転車の体験も興味深いものでした。大手の鉄道会社はマルチプルタイタンパー(マルタイ)と呼ばれる大型の保線機械で軌道整備しますが、関鉄は人力による保線作業が主流です。

終電運行後、限られた時間の作業で安全を守る。こうした鉄道の現場を知ることで、鉄道の知識や興味も増すはず。「関鉄の『親子で鉄道エンジニア体験』は、鉄道ファンのすそ野を広げる活動」、そんな思いを抱いて。会場をあとにしました。

イベント参加者は集合場所の守谷駅から水海道車両基地まで、特製ヘッドマークを付けた専用列車で移動します。車両は2000~2002年に10両導入されたキハ2300形通勤型気動車。特製ヘッドマークをつけ、運転体験にもそのまま使用します

記事:上里夏生

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