投資を始めたものの損失がどんどん拡大−−「損切り」のタイミングをどう判断すべきか?

経済アナリストの馬渕磨理子です。

私は金融業界に入り10年になりますが、最初の頃は「損切り」が苦手でした。しかし、株式投資をする時に「損切り」の知識は必要です。苦手だった「損切り」を向き合ったことで、自分なりの損切り方法と出会い、今ではその方法を大切に実践しています。

コロナ以降に株式投資を始めた方から、「損失が出ていて、どうしらいいの?」と不安に思っている声をよく聞きます。今回は損切りの考え方、損切りの方法を具体的に紹介することで、皆さんにとっても参考にしていただけると思います。


「損切り」をしなくてもいい投資もある

「損切り」とは、保有している株を売却して損失を確定させることです。株式投資では利益を出すことに意識がいきがちですが、ずっと利益を出し続けることは困難です。予想と異なる値動きによって損失が出た場合に対応できるか、という点も株式投資では大事なポイントになります。

ただし、積み立て投資などで投資信託やETFを通じた長期投資を考えている方は「損切り」をあまり意識しなくて良いです。むしろ、安くなったタイミングでたくさん購入できるので、コツコツ積み立て投資のスタンスを貫くことができます。

ただ、個別企業に投資したり、為替トレードをしたり、新興国に投資したりしている場合は「損切り」を使いこなせるようにしておく必要があります。

私も「損切り」が苦手で、ズルズルと保有したことによって、損失を拡大させた経験があります。前提条件が変わったのであれば、早めに損失を確定させることで、損失の幅を最小限に抑えることができます。

ただ分かっていても、いざ、そのタイミングになると「損切り」できない人も多いですよね。

なぜ「損失り」できないのか

私なりに、なぜ「損切り」ができないのか理由を考え続けた結果、主に以下の3点に絞られました。

1. そもそも、購入した理由が明確でない
2. 株価がどれくらい下落したら「損切り」するか決めていない
3. 感情に左右される

そこで、それぞれを潰すことで私は「損切り」ができるようになりました。例えば、ある企業の株を購入した時に、「業績はまあまあ堅調で、テーマに乗っていて、成長しそうだ」といった、かなり“ざっくり”した理由で購入した場合です。

これくらいの弱い根拠では「なんとなく買っている」範疇を超えていません。

本来、個別企業に投資を行うなら「業績が2桁成長していて、来期も2桁成長見通しだ。売上高の柱となっている事業セグメントがこれからも伸びしろがある。企業独自性の強みを理解している。その割には株価が安い」などの根拠が必要でしょう

なんとなく購入すると、なんとなく損失が出て、なんとなく損切りのタイミングがわからない−−これが「なんとなくの怖さ」です。根拠を明確にしておくことで、自分が買った理由が「2桁成長」であるならば、その前提条件がなくなってしまった場合には手放す理由になります。

そして、過去の株価推移から下値となるポイントを確認しておきます。その水準を大きく下回った場合は、しばらく株価の浮上が難しいかもしれません。購入時点で「この水準を割り込んだら手放そう」と決めておくことです。

ここまでお伝えした2点から分かるように、大切なのは購入するまえに「損切り」の理由や水準が決まっているということです。「損切り」は、損失が出てから考えるものではなく、購入前に決まっているべきものなのです。

損失をシステム化する「脱・感情」

しかし、いざ、自分が決めていた水準まで株価が下落すると「いや、ここから反発するかもしれない」「ここで損失を確定させたらもったいない」など、色んなことを考えてしまい、なかなか損切りできなくなってしまうのではないでしょうか。

そこで、損失をシステム化してしまえば、ほったらかしにできると思うようになりました。ほったらかし投資ならぬ、ほったらかし損切りです。これで、いらぬ感情から解放されます。

私が特に、為替の取引で実践している損切り方法が「トレール注文」です。

例えば、為替のレートが110円のときに、このくらいまで下がったら損切りしよう、と事前に決めて注文を出しておきます。これを、逆指値注文と言います。

事前に109円80銭まで下落したら、勝手に損切りされるように事前に予約しておくことで、損失を最小限に押さえることができます。さらに、損切りを自動で完了しているので、資金を残したうえで、下落したタイミングで買い直すことができます。再チャレンジできるのです。

一方で、損切りポイントまで下落せずに、為替レートの水準が上昇し120円になった場合は逆指値注文も10円上乗せして119円80銭まで引き上げます。

そうすることによって、「損失を最小限にし、利益幅を伸ばす」ということができます。

「事前に予約」しておくことで、損切りをシステム化し、自分の揺れる感情と向き合う必要もなくなります。そのほか、様々な損切りの手法がありますが、どれも先人が苦労の末に編みだした方法です。

ぜひ、皆さんも「損切り」を自分のものにして、必要のない悩みから解放されてみてください。

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