歌手・浅香唯インタビュー ② 作詞家・麻生圭子との出会いと絶対に聴いて欲しいアルバム!  ミニアルバムですが、私たちの中では全然ミニではなく(笑)。シングル曲が入っていない「HERSTORY」

__第2回
今も十代の浅香唯と対話が出来るアルバム『HERSTORY』__

浅香唯さんインタビュー第2回は、当時のアルバム作りについて、その熱意と向き合い方についてたっぷりとお話を聞きました。

言葉も曲も全てが素晴らしい作品『HERSTORY』

― 一番気に入っているアルバムとかはありますか?

唯:それを聞かれるのが一番ツラいんですよね(笑)。ただ、『HERSTORY』というアルバムはシングル曲が入っていない作品です。ミニアルバムですが、私たちの中では全然ミニではなく(笑)。ここまでの私の歴史をひとつの作品にしたものなんです。
私が東京に出てくる前、出てきた直後の心情だったりとか、出てきた時の不安だったり、戸惑いだったり、喜びだったり、いろんな心情とストーリーが入っています。言葉も曲も全てが素晴らしい作品です。

― 等身大の作品ということですね。

唯:その時の私の気持ちを一番分かってもらえる作品ですね。

― 『HERSTORY』って「C-Girl」と「セシル」がリリースされた年の12月にリリースしましたよね。

唯:全曲作詞は麻生圭子さんなんですよ。だから「セシル」、「Melody」の後ですね。

― ヒットを連発していた時期にすごい冒険をしていますね。ヒット曲が収録されていないアルバムを出そうというのは。

唯:私もすごいと思います。そこにヒット曲を入れないのは、私自身のストーリーを作りたかったというのがあったからです。

― ヒット曲が入るとアルバム全体のイメージが変わってきますよね。聴き手としても、そこを中心として考えてしまうのも仕方がないことなので。

唯:そうなんですよ。だからレコード会社の方には、ヒット曲を入れずにこのアルバムを 出させてもらえたことに感謝しています。

― それはやはり、当時のハミングバードのスタッフとの信頼関係だと思います。忙しい中でそういうアルバムを出すこと自体価値がありますよね。

唯:あります。『HERSTORY』は1曲だけ私が詞を書いて、それも麻生さんと相談しながら書きました。そういうアルバムを、すごく時間が経った今も、このアルバムが大好きと言ってくれるファンの方がたくさんいてくださるので、満を持して出した意味がすごくあったと思います。そして年月が経てば経つほど意味があるアルバムだったことを実感しています。

― 今の浅香さんが十代の浅香唯と対話が出来るみたいな。そういう作品を残せたということですね。

唯:そうです。昔の曲を時間が経った今歌ったりすると、その時の気持ちとは違う気持ちで歌うことが出来るんですが、曲は色褪せないから、私もそこに戻れる時があるんです。今もライブで歌っていると『HERSTORY』を歌っていたあの時の自分に戻れるんですよね。 胸が熱くなって泣きそうになることも結構ありますね。

作詞家・麻生圭子との出会い

― トップアイドルとして忙しい日々を送っていた時も、ひとりの女性の “素” の部分があったと思います。そういう部分が交差されるということですね。
やはり、麻生先生との出会いが大きかったということもありますか。

唯:麻生さんと出会えて、麻生さんと素晴らしい作品を残させてもらえたというのは、私にとってものすごく大きなことです。近い存在だし、ある意味肉親のような存在です。
麻生圭子さんが作品を作る時に仕事ではない面で私を理解しようと、いろんな話を聞いてくれたところがあったと思います。だから私もいろんな話をしたり、他の人に話せないことを話せたんだろうなと思います。

― 作詞家の先生は感性が優れているので詞を作る時イメージだけで完結してしまうことも多いと思うんです。でも、コミュニケーションの中で生まれた浅香唯像というのは、また違うものになるでしょうね。

唯:そうですね。例えば「二人だけで話をしませんか」と言われたら、当時は構えていたような気がします。仕事としての話しかしなかったと思います。でも、麻生さんとは、本当に自然な形で話をする機会がたくさんあって、麻生さんも時間が空いている時は、会いにきてくれて、いつも側にいてくれた存在でした。
私は、そんなにペラペラと自分について話すタイプではなく、意外に警戒もするタイプでしたが、自分を任せることができました。信頼していたんだと思います。

予期せぬ出会いから生まれた「LIGHT A SHINE〜月はずっと見ている」

― 当時はアルバム1枚1枚と真剣な気持ちで向き合って、作品を作っていたと思いますが、新たにレコーディングしたいという気持ちはありますか。

唯:今は全くないですね。私には、35周年の時にMr.ChildrenのサポートメンバーであるSUNNYさんが詞と曲を書いてくださって、アレンジもしてくださった「LIGHT A SHINE〜月はずっと見ている」という曲があります。SUNNYさんが、アイドル浅香唯と、当時の私を考えて作ってくださった曲でもあるんです。だから私自身にもめちゃくちゃ響いたんですね。歌えば歌うほど楽しくなる楽曲だなというのを感じていて、すごく可能性を秘めた曲でした。その歌を歌うと私も元気になれる素晴らしい曲をいただきました。だからこの世界観を曲の中だけで終わらせたくないという思いがあるので、これからもライブで歌っていこうと思っているんですけど、それだけ大きな財産になりました。だから。頭の中では、新曲は必要ないと思っています。でも、これから、そういう予期せぬ出会いがあるかもしれないとも思います。

サブスク解禁で聴いて欲しいアルバムとは?

― 話は変わりますが、今回のサブスク解禁で思ったのですが、昔は700円のシングルを買ったり、2,800円のアルバムを買ったり、ネットもないから、買うときに迷うこともあったと思います。今より音楽に価値があったと思うんですよね。それについてどう思われますか。

唯:私は、その時代の人なので、このお小遣いの中で、「さぁ、どれを買おう」って、ものすごく悩んだり、「お年玉をもらってこれ買おう!」とか、そうやって音楽を手にした時代を知っているので、そういう意味では、サブスクって、「すごい時代だな」って感じがします。そこに賛否両論あって当然だと思うし、サブスクに対して、よく思われない方もいると思います。でも音楽が気軽に楽しめる時代になったんだなという意味では、いいのかなと思います。

― 僕も賛成派ですが、出会った時の大切さが薄れちゃうというのはありますよね。

唯:そうそう。でも、昭和の時代に生きてきた私たちにとっては、そこに気持ちが追いつくまでは時間がかかるのかな? とも思います。

― では、今回のサブスク解禁は大歓迎ということですね。

唯:もちろんです!

― 今回解禁される浅香さんの楽曲数もすごいですよね。23枚のシングルとオリジナルアルバムが14枚。後期の頃の『joker』とかは、女性作家陣だけでガッツリやられた作品ですよね。

唯:はい! 女性の狡賢さとか、強かさとか、そういう面も出していきたいよねというところからスタートしました。
こんなこと言っていいのか分からないですが、男性と女性って、理解出来そうで、どこかで理解出来ない… し合えないところに魅力があったりしますよね。だから、きっと男性は理解出来ないだろうなと思う部分も作品に残したいよね! というところもあって、女性だけでやろう! となりました。

― 今の時代はジェンダー・フリーだから、そういうこと言っていいのかな? という部分はありますよね。

唯:そうそう! でも当時は全くそういうのがなかった。だから納得いくような作品になったというのもあったし、アルバムを作り上げていくという作業は本当に楽しかったです。

― 『joker』は1992年のリリースですよね。90年代に良い作品を残していますね。

唯:はい。本当にいい作品を残しているんですよ。数字は別としても(笑)。いい作品がたくさんあるので、このまま埋まってしまうのはもったいないなと思っています。

― そうなんですよ。数字で評価出来ない部分というのは、どのアーティストも持っていますからね。

唯:結局、数字って、時代と合うか合わないかっていうところもあったりするので…。

― 良い作品であっても、数字が伸びないと埋もれてしまうことってありますよね。宝はだいたい埋もれているものですから。

唯:92年にリリースした『STAY』も『CONTRAST』(1993年)も良い楽曲が入っているアルバムですよ。

― その辺の90年代のアルバムって浅香さんも仕事が落ち着いてきて、楽曲との向き合い方も変わっていったのではないですか?

唯:ようやく、音楽と落ち着いて向き合える時間が出来たというか。時間が出来た=落ち着いたというか。どうしても忙しくなると、「ここは任せます」というところが生まれてくるし…。

― アイドルとして、あれだけの仕事量をこなしながら、出来る限りのことはされていたわけですよね。それが、ある程度仕事が落ち着いた時に出したアルバムが今回のサブスクの目玉になるのかな。

唯:そうですね。世に出ていな曲がたくさんあるので、やっと我が子が自由に羽ばたいていく感じですね。

― 今は新しい、古いではなく、その人が聴いた瞬間が新曲ですからね。

唯:でも、時代、時代で流行りの音があって私がデビューした80年代のキラキラ感とか90年代のちょっとお洒落な音だったり、時代の流れが分かるのも、ちょっと面白かったりしますよね。

― 「恋のロックンロール・サーカス」をリリースした89年というのもバンドブームが成熟していった時期だし、そこでNOBODYの楽曲であったり、時代の流れの中で生まれたものであると同時に、さっき『HERSTORY』のように、流行りでは語れない部分があるのも素晴らしいですよね。

(取材・構成 / 本田隆)

次回最終回は、9月に予定されるビルボードライブにおけるコンサートについて、そして、ステージとの向き合い方、現在、そして “これからの浅香唯” について語っていただいています。

カタリベ: 本田隆

アナタにおすすめのコラム 浅香唯「C-Girl」アイドル四天王が歌う明るく元気なアッパーチューン

▶ 浅香唯のコラム一覧はこちら!

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC