来たるべき北朝鮮の核実験で知っておきたい基礎知識5選

By Kosuke Takahashi

北朝鮮が近く7回目の核実験を強行するのではないかと懸念されている。米韓両政府の高官は今月に入り、北朝鮮の核実験がいつ行われてもおかしくないとの見方を示した。来たるべき北朝鮮の核実験をめぐって、特に重要だと思われる基本ポイントを5つにまとめてみた。

1.核実験はいつ頃に?

北朝鮮の核実験は「あるかどうか」の可能性よりも、「いつあるか」の時期に関心が集まるほど切迫したものになっている。

アメリカのソン・キム北朝鮮担当特別代表は7日、「北朝鮮は核実験の準備を済ませた。いつでも実験ができる」と述べた。韓国の朴振(パク・ジン)外相も13日、「北朝鮮は核実験を行う準備を完了した。あとは政治的な決断を待つのみだ」と述べた。

実は5月下旬のバイデン米大統領の韓国・日本訪問のタイミングに合わせて、北朝鮮が核実験を強行するとの予想も高まっていたが、北朝鮮は核実験に踏み切らなかった。

アメリカのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は、過去のデータに基づき、北朝鮮がアメリカの主要な祝日を狙って、軍事的な挑発行動を実施する1つのパターンがあると指摘する。このCSISの分析が正しければ、7月4日のアメリカ独立記念日に北朝鮮が核実験を強行する可能性がある。北朝鮮は過去にも、2006年7月4日にICBM技術を利用した「テポドン2号」などミサイル7発を発射。2009年7月4日にも弾道ミサイル7発を発射した。さらに2017年7月4日には大陸間弾道ミサイル(ICBM)を初めて発射した。

2.どのような核実験に?

北朝鮮は2006年から2017年までに、同国では唯一の核実験場として知られている北東部の豊渓里(プンゲリ)で計6回の核実験を行った。すべて地下核実験の形式で実施された。2017年9月の6回目の核実験は過去最大規模で、防衛省によると、広島に投下された原爆の約10倍の出力に及んだ。北朝鮮は「ICBM装着用の水爆実験に成功した」と主張している。

7回目の核実験は、これまで開発してきた戦略核でなく実戦用に出力を抑えた戦術核になるとの見方が根強い。

韓国・国民大学韓国学世界化研究所の研究員、呂賢駿(ヨ・ヒョンジュン)氏は筆者の取材に対し、「韓国では戦術核兵器以外の核実験を予測する声は聞いたことがない」と述べた。

3.北朝鮮の思惑は?

北朝鮮指導部は、ロシアによるウクライナ侵攻を目にし、ウクライナのように核兵器を持たない国の脆弱性を改めて認識するとともに、ロシアといった核保有国相手にはアメリカが軍事的には直接手は出せないという厳然たる事実を再認識しただろう。

北朝鮮は4月16日に「新型戦術誘導兵器」を実験し、基地攻撃など局地的に使う戦術核の実戦配備に突き進んでいる。北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は4月25日の軍事パレードで、核兵器を戦争防止だけでなく国家の根本利益が侵害される場合には先制攻撃にも使用する可能性を示した。

北朝鮮は、通常兵器を使ったロシア軍がウクライナ戦争で苦戦していることもあり、朝鮮半島での局地戦に戦術核兵器を使用できる態勢を早急に整えようとしている。

核ミサイルは、金正恩氏にとっては自らの体制と権力を維持する「命綱」となっているほか、朝鮮半島統一のための手段でもある。北朝鮮は、ワシントンやニューヨークを攻撃できるICBMをちらつかせて、朝鮮半島へのアメリカの軍事介入リスクを排除したうえで、北朝鮮主導で朝鮮半島統一をなし遂げることを目指している。北朝鮮は憲法第9条で「祖国統一を実現するために闘争する」と規定している。そして、それはあくまで社会主義国家としての赤化統一を目的にしている。金正恩氏の言葉で言えば、「祖国統一の革命偉業」にあたる。

北朝鮮最大の新型ICBM「火星17」は11軸22輪の過去最大の超大型移動式発射台(TEL)に載せられて、2010年10月の軍事パレードで初めて登場した(労働新聞)

韓国・国民大学のアンドレイ・ランコフ教授は6月5日付の韓国の大手新聞、朝鮮日報とのインタビュー記事で、「韓国の通常戦力で本当に(北朝鮮の)戦術核兵器を防げるのか。核兵器が拳銃なら、韓国が自慢する最先端の通常兵器は水鉄砲だ。韓国は、北朝鮮の脅威を過小評価し、錯覚に陥ってはならない」と警鐘を鳴らした。

4.核実験を行うとどうなる?

朝鮮半島での緊張が一気に高まり、南北対立が激しくなることが予想される。米韓は、北朝鮮が核実験を強行した場合には、制裁を強化する方針を示している。

しかし、国際環境は北朝鮮を利している。ロシアによるウクライナ侵略で、中露とアメリカの対立が激化。北朝鮮はその間隙を縫って、ICBMを含むミサイル発射実験をたて続けに実施してきた。どんなに北朝鮮が国連安全保障理事会決議が禁じる弾道ミサイルを発射しても、中露は常任理事国として新たな制裁決議案に拒否権を行使するばかりだ。中露は北朝鮮への制裁強化どころか、制裁緩和と対話を求めている。

中国外務省は1日、北朝鮮が核実験を実施しても、「制裁の追加は問題解決の役に立たない」と主張した。米中の覇権争いに加え、韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が米韓同盟強化を打ち出していることから、中国はこれに反発。北朝鮮寄りの姿勢を強めている。

なお、北朝鮮の新たな核実験が環境への悪影響を与えるとの懸念の声も出ているが、低出力の戦術核の実験であれば、北朝鮮も核実験による環境影響効果の管理がしやすく、放射性降下物も限定的とみられる。中朝国境地域での放射能汚染への懸念もこれまでの核実験に比べれば、少ないかもしれない。

5.実験したら核保有数が増える?

戦術核の実験に成功すれば、北朝鮮の核ミサイル開発は勢いを増し、核保有数も増える可能性がある。

北朝鮮は2021年7月、核開発施設のある北西部の寧辺(ニョンビョン)で5メガワットの原子炉の稼働を再開した。アメリカ拠点の北朝鮮分析サイト「38ノース」は、北朝鮮がこの原子炉から出た使用済み核燃料を再処理すれば年間最大6キロほどのプルトニウムを生産できるとみている。これは年間1個程度の核弾頭を製造できる核物質を生産できる計算になるという。

また、1986年から稼働してきたこの5メガワットの原子炉に加え、北朝鮮は戦術核開発に有利といわれるプルトニウムを大量に作り出すため、寧辺で50メガワット級原子炉の建設を再開したと取り沙汰されている。米ミドルベリー国際大学院モントレー校の核専門家、ジェフリー・ルイス氏は、50メガワット級原子炉が完成すれば、年間約55キロのプルトニウムを生産でき、これは年間少なくとも1ダース(12個)の核兵器に相当すると指摘している。弾頭の数を増やして複数の標的を狙い、迎撃を困難にする「多弾頭化」のためにも、北朝鮮はより多くの核物質を生産したいところだろう。

核実験のタイミングは金正恩氏の一存で決まる。日本も警戒を緩められない状況がしばらく続きそうだ。

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