「ESG投信の実態とは」投資信託を選ぶために金融庁のレポートを読み解く

金融庁が毎年作成・公開している「資産運用業高度化プログレスレポート」の2022年版がリリースされました。特に個人が投資信託を購入するうえでの留意点について書かれた部分を、今回と次回で取り上げたいと思います。


ESG投信の本数は225本

資産運用業高度化プログレスレポート(以下、プログレスレポート)」は、金融庁が2020年から作成しているもので、この5月にリリースされた2022年版が3回目になります。

基本的には、資産運用ビジネスに関連した人が目を通すものではありますが、このレポートの作成にあたっては、金融庁が投資信託会社をはじめとする資産運用会社の動向をモニタリングすると共に、対話を通じて浮かび上がった課題、問題点などをとりまとめたものなので、やや難解な言葉が混じってはいますが、個人が読んでも参考になります。金融庁のホームページからアクセスできるので、興味のある方は一度、目を通してみてください。

今回から2回続けて、このプログレスレポートに書かれている内容から、個人が投資信託を購入するうえで留意しておきたい点を取り上げていきます。

まず、「ESG投信」についてです。

ご存じのように、「SDGs」や「ESG」が資産運用の世界でもよく言われるようになり、これらをファンド名に掲げた投資信託が増えています。プログレスレポートによると、2021年10月末時点において、「ESG関連公募投資信託(以下、ESG投信)」の本数は225本あり、これを37社の投資信託会社が設定・運用しているとのことです。これについて、プログレスレポートはさまざまな観点から分析しています。

30%がESG専門部署を持たず

ESG投信の新規設定本数は年々増加しています。2013年に1本、2014年に3本、そして2015年に11本というように徐々に増え始め、2018年に31本、2019年に22本、2020年に41本となり、2021年には96本が新規設定されました。ちなみにこの新規設定本数は、アクティブ型とパッシブ型の合計です。ちなみに2010年から2021年までの新規設定本数で言うと、アクティブ型が181本、パッシブ型が44本ですから、圧倒的にアクティブ型が中心です。

またESG投信の信託報酬率の平均についても説明されています。それによると、パッシブ型が年0.4%以下、アクティブ型は年1.6~2.0%に設定してあり、ESG投信以外の投資信託と比較した場合、パッシブ型ESG投信はその他のパッシブ型に比べて信託報酬率が低めに設定されている一方、アクティブ型ESG投信はその他のアクティブ型に比べて高めに設定されている傾向が見られるとのことです。

「ESG要素を考慮して銘柄スクリーニングを行う」という付加価値がある分、信託報酬率を高めに設定しているという理屈なのかも知れませんが、ただ、ESG投信の設定・運用を行ううえでの組織体制について、いささか疑問に思われる点が指摘されています。

まずESG投信を運用するうえで、ESG専門部署やチームの有無については、70%が「有」としたものの、30%が「無」と回答しました。また、ESGの取組を推進するために「責任投資推進室」を設置したものの、全員が他部署との兼務であるケース、あるいはESG専門人材がいないと答えた運用会社が38%を占めるなど、体制の不備を同レポートは指摘しています。

ESG投資のための体制が不備であるにも関わらず、特にアクティブ型ESG投信の信託報酬率が、その他アクティブ型に比べて高めというのは、納得しにくいところです。

長期投資できないESG投信もある

もう1点、償還期限についても触れておきましょう。

ESG投資は、持続可能な世界を実現するために、企業が環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)という3つに配慮した経営を行うことによって、企業そのものの長期的かつ持続的成長につながるという考え方です。

つまりESG投信は、企業の長期的かつ持続的成長に対して投資する投資信託であると考えることができます。そういう投資信託の償還期限をどう考えるべきでしょうか。

できれば、償還期限の設定はないに越したことはありません。長期投資が前提になるのだから、それは当然のことでしょう。

しかし、実際に今、設定・運用されている投資信託の信託期限を見ると、償還期限を設定していないESG投信は93本で、全体の41%を占めるだけに止まっています。

では、他のESG投信の償還期限はどうなのかというと、

10年超……49本(22%)
10年以下……60本(27%)
5年以下……23本(10%)

という結果になりました。10年超はまだしも、償還期限を5年以下に設定しているESG投信が23本もあるというのは、ESGの本当の意味を理解して商品設計をしているのかどうか、いささか疑問に感じるところがあります。もしESG投信を購入するのであれば、まずは償還期限の有無がファンドを選ぶ際の基準になるかも知れません。

「ESG投信」というと、何やら漠然と良いイメージが先行しやすいのですが、なかにはESGを謳って手数料稼ぎをしているのではないか、と思われるようなものが混じっている恐れがあるので、注意が必要です。

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