笑えない「ごはん離婚」 ささいなことで大ゲンカ、そして"悲劇"に 誤解を解く打開策とは

「ごはん離婚」をご存じだろうか。食事についての発言をめぐってコミュニケーションの行き違いが生じ、ついには夫婦間の〝悲劇〟にまで至ってしまうケースがあるという。「大人研究」のパイオニアにして第一人者、『大人養成講座』『大人力検定』など多くの著書を世に送り出してきたコラムニストの石原壮一郎氏が「大人の切り返し講座~ピンチを救う逆転フレーズ~」と題し、その打開策をお伝えする。

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【今回のピンチ】

夏風邪で寝ている妻に、食べたいものを尋ねるつもりで「夕ごはんどうする?」と聞いたら、早とちりして「あなたは私より夕食が大事なの!」と激怒された……。

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男と女のあいだには、暗くて深い川が流れています。

風邪で熱を出して寝ている妻が、夫に「ごはんは?」と聞かれて、「私は熱を出して寝てるのに、自分のご飯の心配しかしないなんて!」と激怒して大ゲンカになったという話は、昔からよく聞きます。

たしかに、自分の食事のことしか頭に浮かばない夫もいるでしょう。やさしさを発揮したつもりで、「僕は外で食べてくるか大丈夫だよ」と言ってしまう残念なパターンもあります。自分は大丈夫でも、寝ている妻は何を食べればいいのか……。

そういう無神経でピント外れな夫は、責められても仕方ありません。しかし、このケースのように、コミュニケーションの行き違いから悲劇が生まれているケースも、きっと少なくないでしょう。

どうにか誤解を解いて、妻に落ち着いてもらわないと、夫婦間に修復不可能な亀裂が入ってしまいます。このままだと「ごはん離婚」になりかねません。

人間は自分の思い込みを認めるのが苦手な生き物。早とちりしている人に「それは早とちりだよ」と言っても、素直に「あ、そっか」と納得することはまずありません。ひたすら謝ったら謝ったで、妻は自分の早とちりに確信を持ってしまいます。

ここは妻に説明しようとするのではなく、自分で自分を責めることで真意に気づいてもらう可能性に賭けるのが、残された唯一のチャンス。両手で頭を抱えながら、あるいは床や壁に頭を打ち付けながら、

「ああ、どうして俺はいつもこうなんだ! キミが何を食べたいか、何なら食べられそうなのかを聞こうと思ったのに! たしかに『夕ごはんどうする?』なんて聞いたら、自分のごはんの心配をしていると思われても仕方ない。長く生きてきて、日本語も満足に使えないなんて、本当にダメな男だ!」

こんなことを言いながら、自分で自分の頭を叩き続けます。妻が呆気にとられて怒るのを忘れたタイミングで、床なり畳なりに正座して、両手をつきながら「あらためて、教えてください。夕ごはんには何が食べたいですか?必ず用意します」と尋ねれば、こちらの真意を分かってくれるはず。

こっちも半分被害者みたいなもので、「早とちりしてんじゃないよ」とフテくされたくなるかもしれません。しかし、ここは泥をかぶってなりふりかまわない行動に出るのが、夫としての勇気であり男気です。

ここまでやっても、妻が「また、ウソばっかり」と信じてくれないとしたら、それは自分の日頃の行ないによっぽど問題があるか、妻の性格によっぽど難があるかのどちらか。もっと根本的に、夫婦のあり方を考え直したほうがよさそうです。

(コラムニスト・石原 壮一郎)

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