坪単価100万円台市場はほぼ消滅 首都圏一次取得向けマンション市場の今(下)

コロナ感染拡大以降も確実に価格が上昇し続けている首都圏マンション市場。近郊・郊外部でも単価が200万円台後半のマーケットが広がっており、かつて郊外部で主力だった100万円台の供給範囲は大幅に縮小。200万円台だった市場は次々と300万円台市場に変化している。一次取得者向け市場の足元と今後を見通す。

坪単価100万円台市場はほぼ消滅 首都圏一次取得向けマンション市場の今(上)より続く

200万円台前半も同様の動きがあるほか、200万円台後半市場は、2014年までは超都心を除く23区全域に広がり、都心3区や城南、城西でも活発に供給されていたが、2020~2021年になると、城東、城北、横浜、川崎、湘南、さいたま区部、川口、戸田など、千葉区部、浦安、市川、船橋など近郊・郊外に拡大している。つまり、価格重視の一次取得者向けの供給エリアが郊外化し、連れて価格も上がっている。

エリア別に見ると、城東、城北エリアと城西の練馬で若干供給される程度で、都下では中央線の都心寄りを除き、国立、豊田、調布、府中、町田などにマーケットが広がっている。神奈川は供給が多く、川崎市内の全域、横浜市内では中、西、神奈川の各区でも供給されている。さらに、藤沢、辻堂といった湘南エリアに加え、小田急線、田園都市線沿線の川崎、横浜の山側から県央地域でも高駅力のエリアではマーケットが形成されている。埼玉は京浜東北線、埼京線、東武東上線の人気沿線を中心に分布。川口、浦和、大宮は300万円台に上昇している。千葉は現時点では200万円台後半の単価水準がほぼ上限市場だが、人気エリアでは300万円台での供給が始まることが予想されている。

都心部における強烈な価格上昇が首都圏マーケットの平均価格を押し上げる一方、郊外エリアでも300万円以上の高額市場は存在する。2020年以降の供給事例を見ると、足元ではコンパクトが中心だ。神奈川県央・湘南エリアは、コンパクト系以外では、鎌倉・江ノ島といったリゾートエリア物件のみ。「ザ・パークハウス鎌倉」(三菱地所レジデンス、24戸)は487.8万円だった。埼玉の供給事例が最も多いが、コンパクト以外は、ほぼ京浜東北線の川口、浦和、大宮に集中しており、それ以外は川越の再開発タワーのみ。千葉でもコンパクトを除くと、「プラウド浦安」(野村不動産、100戸)が347.2万円、「ザ・パークハウス市川二丁目」(三菱地所レジデンス、57戸)が302.4万円だった。いずれも販売は好調で、今後は郊外でも好立地ならば300万円台物件が増加すると予想され、郊外市場の底上げも進むと見られている。

坪単価200万円前半・4000万円台が下限相場に

市場判断の鍵は顧客の返済負担額の上限値

郊外一次取得向けの単価100万円台・3000万円台は、コロナ禍において200万円台前半・4000万円台に上昇、以前の200万円台前半・4000万円台の市場は、200万円台後半・5000万円台に変化している。現在わずかに残った100万円台の市場も、建築費の高騰で今後は消滅してしまうと予想されている。新築分譲マンション市場においては、今後は200万円台前半・4000万円台が下限相場となりそうだ。コロナ前にあった3000万円台までの市場は、中古マンションや建売戸建市場が担っていくことになると考えられるが、実際に郊外でこれほど急激に上昇した新築マンション価格に、所得の上昇が見られない一般ユーザーはついてこられないと見ても不思議ではない。しかし、低水準金利にある住宅ローンがしっかりと彼らを支えている。マンション価格が割安だった2010年~2014年に単価150万円・専有面積73㎡・3300万円を、頭金1割入金・35年返済(ボーナス無し)と、2022年の215万円・68㎡・4400万円の返済負担を比べると、顧客の月々の返済負担額は、フラット35でもほぼ同水準、現在主流の民間住宅ローンの変動金利を選択すると、返済額は逆転し現在の方が返済負担額が少なくなる。

以前の市場相場を知らない1次取得者にとって、あくまでも月々の返済負担額が指標であり、家賃との比較が重要な購入判断の物差しとなる。トータルブレインの杉原禎之副社長は「マンション業界に長く身を置いていると、現在の市場判断をする際に、以前の市場相場の記憶が邪魔することが多々ある」としたうえで、「市場判断で重要なのは、近年の相場実績よりもエンドユーザーの返済負担額の上限値」と見る。今後は、郊外マンション市場も坪単価200万円台前半・4000万円台が下限相場となると見られる中、顧客の物差しが返済負担額である以上、事業者は金利水準の細かな変化に敏感に対応することが求められると言えそうだ。

2022/5/25 不動産経済ファンドレビュー

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