Googleの実験でわかった「優れている管理職」に共通する8つの行動

人生100年時代を迎え、長く働き続けるためには自分の強みや課題を把握し、それを活かせる仕事を見つける必要があります。

そこで、人事コンサルタント・西尾 太氏の著書『人事の超プロが教える 会社員 50歳からの生き残り戦略』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集してキャリアの棚卸しについて解説します。


管理職として優れている人の8つの行動

マネジメント力は、豊富な経験や知識がある人ほど高いパフォーマンスを発揮しやすい、50代の強みとなるスキルです。部長や課長などの役割をしっかりと果たすことができれば、転職や独立・起業をする場合の武器にもなります。

マネージャーについて、米国のGoogleが興味深い実験を行っています。従業員にとってマネージャーとは重要な存在なのか。Googleではそれを否定するために、2002年にマネージャーのいないフラットな組織に変えたそうです。

ところが、この実験は失敗に終わりました。従業員は、基本的な質問やニーズへの回答、キャリアアドバイスなどの重要な部分の指導をマネージャーに求めていたことがわかったのです。Googleは、2ヶ月後にマネージャーを元に戻しました。

Googleの研究チームは、それでもなおマネージャーが従業員にとって重要な存在ではないことを証明するために、6年後の2008年に再び同じ実験を行いました。マネージャーとは、せいぜい必要悪。最悪の場合、官僚的な層になることを証明しようとしたのです。

結果は、やはり同じでした。

出た答えは「マネージャーは必要である」。Googleはデータに基づいて「優れたマネージャーを持つチームのほうが幸せで生産性が高い」ことを結論としました。

次に調査したのは、「どのようにしたら偉大なマネージャーが育つか」。研究チームは、毎年の従業員アンケート、業績評価、Great Managers Awards のノミネートなど、社内データを分析した結果、組織内の管理職として優れている人に共通する8つの特徴を見つけ出しました。

◎組織内の管理職として優れている人を特徴づける共通の8つの行動
1 よき指導者である
2 チームに権限を委譲し、細かいところまで管理しない
3 チームメンバーの成功と個々人の幸せに関心を示す
4 生産的であり、結果重視である
5 コミュニケーションをとる能力が高い
6 チームメンバーのキャリアの開発を手助けする
7 チームに対して明確なビジョンを持っている
8 チームに助言を与える重要な技術スキルを持つ
(「Google:マネージャはやはり重要な存在である」)

研究チームは、Googleにおいてリーダーを優れたマネージャーにする方法が、そのまま他の企業に通用するとは考えていないそうですが、この8つの特徴は、僕はかなり普遍的な考え方なのではないかと思っています。

メンバーに関心を持ち、一定のコミュニケーションをとり、キャリア開発の手助けをする。助言を与えるスキルは持っていても、細かいところまでは管理せず、任せるところは任せる。明確なビジョンを示し、結果を重視する。どれも非常に重要なことです。

非ピラミッド型のフラットな組織のほうがいいのではないかと考えている経営者の方もいらっしゃいますが、必ずしもフラットな組織がいいとは限りません。

「やっぱりマネージャーは大事なんだよね」ということをGoogle は実験で証明しています。自身のマネジメント力を棚卸しする際は、こうした指標も参考にしてみてください。

マネジメント力は普遍的な力です。どんな企業においても、タスクマネジメント、ヒューマンマネジメント、リーダーシップ、リスクマネジメントは求められます。

このスキルを見直し、向上させることによって、自社で必要とされる人材になるのはもちろん、どこに行っても通用する力を身につけることができます。より良い職場に転職することも、起業することも可能になり、50代以降の人生の選択肢が大きく広がります。

知識やスキルをまとめてみる

もうひとつ棚卸ししておきたいのは、あなたの業種・職種ならではの知識やスキルです。自分が学んできたことを体系化してマニュアルをつくったり、資料をまとめて虎の巻を作成することで、知識やスキルを継承できます。

自身のキャリアを整理し、課題を発見することによって、リストラ対策、転職、起業・独立にも活かすことができます。

僕は前職を辞める際、学んできたことを振り返って引継ぎ書をつくり、独立後にさらにそれを発展させて「人事の学校」という人事担当者の養成講座を開講しました。

この講座では、全12回のカリキュラムを組み、人事制度のつくり方や採用のやり方、キャリアプランの考え方など、人事担当者にとって必要な基礎をお伝えしています。

人事という領域には、人員計画・採用・配置・任免・等級・職位・評価・給与・規定・労務・教育など多岐にわたる分野があり、それぞれが密接に関連しています。

ところが、ある調査では「人事担当者を育成する仕組みはあるか」という問いに対して、「ある」「どちらかというとある」と答えた企業の割合は、わずか
16.4%。8割以上の企業では「人事担当者の育成の仕組みはない」という状況だったのです。

そんな状況に危機感を覚え、2009年に「人事の学校」を始めたところ、商社、流通、IT、電子機器、住宅、アパレル、マスコミ、エンターテインメントなど、さまざまなジャンルの経営者や人事担当者が企業人事や人事制度の基礎を学びに来てくれるようになりました。その数は、約13年間で延べ4000人以上になりました。

あなたの業種や職種でも、実は育成の仕組みやマニュアルがなかったりしませんか?

人材育成は、50代における重要な任務です。

一人前の寿司職人になるには、「飯炊き3年、握り8年」と言われています。親方に弟子入りし、皿洗いから下積みを重ね、一人前になるまで10年以上かかる世界です。ところが、3ヶ月で寿司職人を育てるというカリキュラムが登場し、その卒業生が店を開いてすぐに、有名なミシュランガイドに掲載されるというニュースが話題になりました。

自分が20年、30年かけて身につけてきた知識やスキルをマニュアル化することによって、後輩はもっと早く成長できるかもしれません。人材育成は、会社に対する多大な貢献になります。そのニーズによっては、転職や独立・起業にも活かせます。

下記の「人事の学校」のカリキュラムも参考にしていただき、これまで学んできたことを振り返ってカテゴリーごとに体系化してみてください。

得意なことと苦手なことを明確にする

キャリアの棚卸しをする際に、もうひとつ大事なポイントは、自分の得意なこと・苦手なことを明確にすることです。

企業の昇格試験で合格する人を見ていると、得意なことを伸ばし、苦手なことは極力マイナスにならないように気をつけ、他の人にカバーしてもらったりしています。

下記のマネジメントの図でいうと、縦軸(タスクマネジメント)と横軸(ヒューマンマネジメント)のどちらかが苦手であっても、マイナスにならないように気をつけてさえいれば、プラスの面積を広げ、一定の影響力を発揮できます。

ところが、縦軸・横軸のどちらかがマイナスに振れてしまうと、「あの人、いい人なんだけど、仕事できないよね」や「あの人、仕事はできるけど、一緒に仕事したくないよね」という状態になり、「いらない人」候補になってしまいます。苦手なことを自覚し、致命的なマイナスにならないように努力するのは非常に重要なことなのです。

僕の場合で言えば、段取りを組むことが苦手です。行き当たりばったりが好きで、電車の時間を調べるのすら面倒くさがるタイプです。行けば何とかなると思っています。

計画を立てるのも好きではないのですが、それでは仕事にならないので、人事部長になった頃から「ちゃんと計画を立てないとダメだな」と考えるようになり、今でも得意とは言えませんが、嫌々ながらも計画的に仕事をするようにしています。

細かいチェックも苦手で、品質チェックが甘くなりがちです。これは致命傷になりかねないので、自分でも気をつけながら、メンバーにも協力してもらって、ダブルチェック、トリプルチェックの仕組みをつくり、致命的なミスが出ないようにしています。

ビジネスパーソンにとって、弱みを自覚し致命傷にならないように気をつけるのは重要なリスクマネジメントです。「もう50歳だし、今さら変えられない」と開き直ったりせず、ダメな点は変える努力をしましょう。それが大人になるということではないでしょうか。

著者 西尾 太

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50代は、日本の人口で一番のボリュームゾーン。この世代が「今さら頑張っても…」「枯れてもいい」などと思っていると、日本はダメになってしまう。自分のため、家族のため、社会のために、あと20年、30年は頑張らなくてはいけない!
一方で、45歳以上の社員を「早期退職」「希望退職」という名目で、リストラする企業が急増。さらに会社員の給料は「時価払い型」に変わりつつあり、このままでは今の年収は、維持できなくなるかもしれない。
50代で「もう無理! 」と諦めている場合ではない。今後もリストラに遭わず、企業に必要な人材でありつづけるために必要なことは何か?
本書は「50代社員に関する意識調査」の結果をふまえたうえで、50代の強みを分析。必須となるコミュニケーションの知識や、転職・独立しても困らない「年収を維持・向上する力」などを解説する。
巻末に、「これだけはやめよう」「これをやってみよう」チェックリストも収録。

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