本当は教えたくない福岡物件「超希少!武家屋敷の賃貸だと!?」

「空き家ポリスの本当は教えたくない福岡物件」。「住む予定もないのに、おもしろそうな物件を探して見に行く」ことを趣味とする空き家マニアが、福岡の空き家物件を紹介していきます。 第19回は、「超希少!武家屋敷の賃貸だと!?」です。

今回お縄になったのは、超希少な武家屋敷の賃貸物件。
水郷・柳川にある家賃5万円(要相談)/4K/建物181‪㎡のこちら。

庭は若干荒れているものの、ご覧のように堂々とした風格で、ただものではない雰囲気。

築180年(推定)というから江戸時代の後期に建てられたものだけど、元は武家屋敷らしく、柳川藩お抱えの武士が日がな出入りしていたかと思うと、胸が熱くなる。

屋根はいわゆる「缶詰屋根」で、茅葺き(かやぶき)の屋根をトタンで覆ったもの。
ノスタルジック症候群の諸氏からは「風情が無い」と評判が悪い缶詰屋根だけど、絶滅危惧種である「茅葺き」という文化を真空パックにできるんだから、田舎で缶詰屋根を見かけた際には家主の心意気をリスペクトする気持ちで鑑賞したいところ。

缶詰屋根については下記ページが熱く解説しているので、興味ある方はどうぞ。
▼茅葺き屋根の缶詰はタイムカプセル?
http://www.kinzoku-yane.or.jp/feature/n_10.html

と最初に屋根の話をしたのは、ここから続く本題につなげるための布石でして、ここからは本題である「くど造り」の家について書こうと思う。

物件について調べていると、下のような表記を発見した。

> 柳川の数少ないくど造りの武家屋敷です。
> (くど造りとは、棟がコの字型の有明海沿岸で見られる伝統的な屋根の形です。)

とのこと。
恥ずかしながら「くど造り」という用語を初めて知ったんだけど、「くど」というのは竈(かまど)の別称で、屋根の形が竈のように「コの字型」になってる家を指すそうだ。

文字だけだと伝わりにくいので、絵にしたのがこちら。

上空から見た時、屋根の形がコの字になっている家を「くど造り」と呼ぶらしい。確かに、おくどさんの形に似ていて理解は深まったけど、はたして「くど造り」の家が有明海沿岸に広がったのはなぜか?

それは、台風から家を守るためだ。
「屋根をコの字型にすると、台風に強くなる!?」というのが直感的に理解できない方のために、ちょっと解説しておく。(弊ポリスもすぐには理解できませんでした...)

一般的な寄棟屋根の家と比較したのが、下の図。

条件を同じに揃えた場合(=敷地の広さ、屋根の角度、壁の高さ)、くど造りの方が屋根が低くなるのだ。

台風の強風がまともに当たる有明海沿岸では、屋根をできるだけ低くすることで台風から家を守る、独自の屋根工法が発展したのでは?というのが定説のようだ。

縁側から座敷をのぞむ。新築には出せない使い込んだ味が良き。

そんな文化価値あふれる「くど造り」の家に住めるだけでも充分満足感にひたれるんだけど、実はもうひとつ胸アツPOINTがある。

この武家屋敷、2年前から改修が行われており、今も現在進行形で進んでいるのだ。この「現在進行形」という事実に価値があるんだけど、それについて解説したい。

荘厳な格式漂う客間。剣豪になった気持ちで、ただ座っていたい。

こういう古民家を借りる時って、ボロの状態のまま安く借りるか、綺麗にリノベされたものに高い家賃を払うか、の二択になりがちだ。

前者の安く借りるパターンは、自分で何もかも考えてDIYする楽しみはあるものの、途中で力尽きて挫折しちゃう率が高いので鋼(はがね)のメンタルがないと厳しい。

後者のパターンは、当然リノベ業者の手間賃が乗ってくるから家賃が高くなるのは当然だし、そもそもお財布に余裕がないと無理。

で、その中間あたりの物件をみんな待っているんだけど、なかなか出てこない。

やっぱ自分には無理かも・・・と夢から覚め、現実に引き戻されゲームオーバー、というのが世の常だけど、そんな貴方の味方がこの物件なのです。

鳥が飛んでいるような欄間のあしらい。家主の粋が伝わってくる。

この武家屋敷は「柳川暮らしつぐ会」という地元の団体が管理していて、専門家のサポートを受けながらワークショップ形式で徐々に改修を進めているという。

改修作業の様子はこちら
http://www.kurashitsugu.com/kudodukuri.html

資本主義の世の中だから「改修にかかった費用が家賃に上乗せされる」という仕組みからは逃れられない。だけど、ワークショップ形式であれば作業にかかる人件費は要らないし、時間はかかるにしても費用を抑えて改修できる。

別途、倉庫も借りられます。充分住めそうなサイズ感!

実際、この規模とこの風格で家賃5万円というのは良心的な設定だと思うし、職住一体の店舗兼住居と考えれば、お手頃な部類に入るのではなかろうか。

2階は見事な船底天井。屋根の勾配を肌で感じられて良き。

関係者が古民家改修を助太刀してくれる仕組みもちろんありがたいんだけど、一番うれしいのは、この改装作業が現在進行形で、みずからワークショップに参加できること。

というのも「古民家に住むことは、朽ちていく家との戦い」なので、「家を自分で直せるかどうか」が、古民家に長く住むための分岐点になると思うからだ。

その点、改修ワークショップでは専門家のサポートが受けられるし、土壁など昔ながらの手法や材料を用いて改修が進んでいるようなので、お金をかけないサステナブルな修繕の仕方が学べそう。当然、作業にみずから携わることで、家が壊れた時には自分で修復できるようになるはずだ。

1階の間取り図。水洗トイレも計画中とのこと。

ということで「古民家は好きだけど住むのはハードルが高い...」と感じてる方や、「とにかく武家屋敷に住みたい!」という方にオススメのこの物件。

賃貸開始まで1年あって待ち時間がもどかしいけど、古民家改修に興味ある方であれば、ワークショップに参加して美味しいところをつまみ食いできるおまけも付いてます。

柳川の風土や歴史が色濃く残った、くど造りの武家屋敷。
気になる方はこの機会にいかがでしょうか。

(※くど造りについては諸説あります。内容はあくまで筆者の見解です)

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福岡県柳川市 家賃5万円(要相談)/4K/建物181‪㎡
(※家賃は目安です。改修後に要相談となります)

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