参院選近いけど、私たちの暮らしや身の回り今どうなってる? 少子化進行、賃金低迷、自殺者増加、ヤングケアラー問題…投票前に知っておきたい日本社会の「現在地」

国会議事堂=東京・永田町

 3年に1度行われる参院選が近づいている。私たちの暮らしや身の回りは現在、どうなってるのだろうか。少子高齢化の進行に歯止めがかからず、最低賃金は欧米に比べて低迷、自殺者数は増加に転じた。大人に代わって日常的に家事や家族を世話する子ども「ヤングケアラー」の問題が顕在化。この2年半は新型コロナウイルス禍の影響を大きく受けた。7月10日の投開票を前に、政府の統計データから日本社会の「現在地」を探った。有権者が投票先を選択するための一助になればと思う。(共同通信生活報道部、社会部、地域報道部)

(1)出生数【81万1604人】 赤ちゃん最少更新続く

 2021年に生まれた赤ちゃんの数(出生数)は81万1604人(概数)と、6年連続で過去最少を更新した。国の推計で30年ごろとされていた70万人台が目前に迫る。出産世代の人口減や晩産化のほか、若い世代が経済不安で結婚、出産に踏み出せないことが少子化加速の背景にある。
 厚生労働省の人口動態統計によると、第2次ベビーブームだった1973年の出生数は209万1983人。以後、減少傾向が続き、初めて90万人を割り込んだ2019年は「86万人ショック」と呼ばれた。20、21年は、ともに前の年より2万人以上も減った。

 この2年間の出生数は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、妊娠を控える動きがあったことも影響したとみられる。このまま少子化が進めば、社会保障の担い手不足がより一層深刻化しそうだ。
 希望する数より、少ない数の子どもを持つ予定という夫婦もいる。国立社会保障・人口問題研究所(東京)が15年に実施した意識調査で、妻が30~34歳のこうした夫婦に理由を尋ねると、8割が「子育てや教育にお金がかかり過ぎる」(複数回答)を挙げた。非正規雇用が増える中、経済的な理由で子を持つことに不安がある若い人の姿が浮かぶ。
 コロナ禍で厳しい雇用情勢が続く。中央大の山田昌弘教授(家族社会学)は「非正規雇用の人も安心して子育てできるよう、正社員との待遇格差是正が必要だ」と話す。少子化対策などの子ども政策の司令塔とされる「こども家庭庁」が2023年4月に発足する。

(2)最低賃金【930円】 欧米に比べ低水準

 最低賃金は非正規雇用を含めた労働者の賃金の下限だ。2021年度の最低賃金の全国平均額は前年度から3・1%引き上げられ、時給930円となった。額としては過去最大となる28円増。それでも、欧米などに比べ低い水準にある。
 最低賃金は毎年、まず労使や有識者による中央審議会が協議し、目安を示す。その後、都道府県の審議会で額を定めるというやり方で決まる。都道府県別の現行額では、東京が最高の1041円で、高知、沖縄がともに最低の820円だ。

 近年は政府が主導する形で大幅アップの傾向が続いている。16年の政府の経済財政運営指針「骨太方針」には全国平均千円を目指すとの目標が盛り込まれた。4年連続で年率3%超の引き上げが実現し、19年度は901円となった。
 20年度は新型コロナウイルス感染拡大が影響した。賃金よりも雇用の維持を優先するべきだとの考えが広がり、0・1%上げにとどまった。
 最低賃金に近い水準で働く労働者の割合は過去に比べて高くなっている。引き上げで時給アップする人が増えているが、企業から見ると人件費の膨張につながる。コロナ禍や原材料価格高騰に直面する経営側は引き上げに危機感を強めている。
 日本総研の山田久主席研究員は、性急な最低賃金引き上げは雇い止めや投資の縮小といった副作用を伴う可能性を指摘する。「引き上げに併せ、経営改善を支える施策を政府が打ち出す必要がある」と話した。

(3)マイナンバーカード【5659万7216枚】 「ほぼ全国民」目標遠く

 2016年に始まったマイナンバーカードの交付は、今年6月1日時点で5659万7216枚。全人口の44・7%にとどまっている。カード取得者にポイントを付与するマイナポイント第1弾を実施していた21年は新規交付が急増し、最も多かった6月は299万9490枚に達した。だが22年は月100万枚前後で推移しており、23年3月末に「ほぼ全ての国民」が取得するという政府目標は遠い。
 普及が進まない一因は、現状ではインターネットでの確定申告など用途が限られているためだ。

 国民に一律10万円を配った20年の特別定額給付金は、カードを用いたオンライン申請を導入した。だが利用する機会が少ないカードの暗証番号を忘れた人が続出。再発行のため自治体の窓口へ殺到して混乱を招いた。
 政府は21年10月からカードに健康保険証の機能を加える制度を始めた。今後は運転免許証としての利用など多機能化を図る予定だ。近く本格化するマイナポイント第2弾は、新規取得のほか、保険証機能の追加と公的給付金の受け取り口座登録で、最大計2万円分が受け取れる。
 ただ個人情報と直結する番号制度への抵抗感はまだ根強い。政府が検討したマイナンバーと金融機関口座とのひも付け義務化は、情報漏えいへの不安から導入が見送られた。
 日本総合研究所の野村敦子主任研究員は、普及が遅れている要因に政府への信頼感の低さがあると指摘。「安全面に問題がないことを丁寧に説明し、国民の理解を得る必要がある」と訴える。

(4)相対的貧困率【15・4%】 当たり前の生活できない世帯

 中間的な所得の半分に当たる127万円に満たない世帯で暮らす人の割合を算出した「相対的貧困率」(厚労省調べ)は、最新データの2018年時点で15・4%だった。国民の6人に1人が、社会で当たり前とされる生活ができない状態と言える。
 経済が好調だったこともあり、前回調査の15年からはわずかに減ったものの、先進7カ国(G7)では米国に続いて2番目に高い割合となった。
 特に厳しい状況にあるのがひとり親世帯の人で、半数近い48・1%に上った。母子世帯が多く、女性が男性と比べて非正規雇用の割合が高いため、収入が低くなりがちだ。18歳未満の子どもの貧困率も13・5%となっている。

 阿部彩東京都立大教授(貧困・格差論)は「景気が回復して所得が増える流れから、最も貧しい層は取り残された」と指摘する。「近年、配達などの仕事を、単発で請け負うなど労働者として保護されない働き方が広がり、脆弱な層が増えた。この傾向は、新型コロナウイルス感染拡大以降、加速しており、貧困率は上がる可能性がある」と分析する。
 コロナ禍2年目の21年に子育て世帯の貧困状況を調べた内閣府調査では、過去1年間で必要な食料を買えなかった経験がある世帯は11・3%、衣服については16・3%に上った。
 感染拡大の影響で収入が減った世帯向けの無利子特例貸し付けや、所得が低い子育て世帯への現金給付が行われた。

(5)ヤングケアラー【小学6年生の15人に1人】 世話で学校生活影響も

 大人に代わって日常的に家事や家族の世話をする「ヤングケアラー」についての厚労省の調査で、小学6年生の約15人に1人に当たる6・5%が「世話をしている家族がいる」と回答した。ケアを担う児童は遅刻や早退が多いなど、学校生活や健康状態に影響があるとの傾向も分かり、支援策の拡充が急務となっている。
 調査は4月に公表された。それ以前の調査結果も合わせると、世話をする家族がいる割合は中学生5・7%(約17人に1人)、高校生4・1%(約24人に1人)、大学生6・2%(約16人に1人)だった。

 小学生ケアラーが世話をしている家族は「きょうだい」が71・0%と最も多かった。内容は「見守り」40・4%、「家事(食事の準備や掃除、洗濯)」35・2%、「きょうだいの世話や送り迎え」28・5%などだった。
 健康状態はどうかを聞くと「よくない・あまりよくない」が4・6%。学校の遅刻や早退は「たまにする・よくする」が22・9%で、ケアラーではない人よりいずれも2倍前後の高さだった。
 日本ケアラー連盟によると、児童が「当たり前のお手伝い」だとして自分の境遇を自覚せず見過ごされやすいことが懸念される。連盟幹部は「ケアラーではない子と同じような人生の選択肢を持てる社会にしていく必要がある」と強調する。
 各自治体で支援に関する条例の制定が進むほか、国政でも法整備を含め議論している。

(6)自殺者数【年間2万1007人】 女性や子ども増加

 国内の自殺者数は、リーマン・ショック後で3万人超だった2010年から減少が続き、19年には統計が始まってから最少の2万169人となった。新型コロナウイルス禍に見舞われた20年は、2万1081人と11年ぶりに増加に転じ、21年も2万1007人と高水準で推移。経済状況の悪化や生活環境の変化の影響を受けやすい女性や子どもの増加が顕著となっている。
 警察庁の統計(確定値)によると、21年の男性の自殺者数は1万3939人と12年連続で減少した。一方で女性は前年に比べ42人増の7068人と2年連続で増加しており、全体数が過去最少だった19年から977人増。小中高生は20年に過去最多の499人に達し、高止まりが続く。

 原因・動機を見ると、21年に大きく増えたのが「経済・生活問題」(前年比160人増)、「家庭問題」(72人増)だった。社会的に弱い立場の人にしわ寄せがいった形となった。
 NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」の清水康之代表は「非正規雇用が多い女性が影響を受けたほか、ドメスティックバイオレンスなどの問題も悪化し、それらが連鎖した可能性がある。家に居場所がない子どもは、20年春の一斉休校などでより追い詰められたのではないか」と分析する。
 コロナ禍を踏まえ新たな国の自殺総合対策大綱が夏にも閣議決定される。生活支援の拡充や、女性や子どもへの対策推進などが盛り込まれる見込みとなっている。(取材・執筆は岩崎由莉、関かおり、津川康一、岩原奈穂、恩田信吾、大野雅仁)

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