ニュー・ホープ・クラブが語る約2年ぶりの新曲とコロナ禍での成長

(写真左から)ジョージ・スミス、ブレイク・リチャードソン、リース・ビビィの3人からなるUKポップ・バンド、ニュー・ホープ・クラブ(New Hope Club)。2017年10月にザ・ヴァンプスの来日公演のスペシャル・ゲストとして初来日し、2019年11月に初の単独来日公演(ソールドアウト)を実現。2020年にリリースしたデビュー・アルバムは全英アルバム・チャートで5位を記録。そんな彼らが約2年ぶりとなる新曲「Getting Better」と「Girl Who Does Both」を2022年6月15日に2曲同時リリース。日本のインタビューに応じてくれたバンドの言葉を交えながら、新曲と彼らの成長について、音楽ライターの新谷洋子さんに寄稿頂きました。

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デビュー・アルバムまでの活動

2022年夏、ニュー・ホープ・クラブがふたつのサマー・アンセムと共に帰って来る。約2年ぶりの新曲となるその2曲――サイケデリックなディスコ・チューン「Getting Better」と、微かにボサノヴァのリズムを感じさせるフォーキーな「Girl Who Does Both」――をご紹介する前に、少し時間を巻き戻してバンドの歩みを振り返っておきたい。

メンバーはブレイク・リチャードソン(Vo、G/22歳)、ジョージ・スミス(Vo、G/23歳)、リース・ビビィ(Vo、B、Dr/23歳)。歌唱力もソングライティング力も備え、かつ複数の楽器をプレイし、それぞれに音楽活動をしていた3人が、ロンドンでバンドを結成したのは2015年のことだ。以来カヴァー曲・オリジナル曲をプレイする映像を続々公開して支持を集め、ザ・ヴァンプスのメンバーの目にも留まり、彼らが主宰するステディ・レコーズと契約。2017年春にEP『Welcome to the Club』でデビューしている。

それからも精力的にリリースを重ねて、2019年には初の単独ツアーを敢行。世界中を旅した末に11月に東京公演でフィナーレを迎えた彼らは、翌2020年のバレンタイン・デーにいよいよファースト・アルバム『New Hope Club』を送り出した。ルーツにあたる新旧のUKギターロックに根差した曲のほかに、エレクトロニックなダンスポップに挑んだりファンキーなグルーヴを取り入れたり、多彩な曲を揃えて最初の4年間を総括。全英チャートでは最高5位を記録し、その後は再びツアーに突入するはずだった。

パンデミックによる活動の変化

ところがパンデミックの影響で予定変更を余儀なくされ、当時の戸惑いを次のように振り返る。

「僕らはアルバムをすごく誇りに感じているし、色んなことを計画していたから、全てが止まってしまったのは奇妙な気分でした」(ジョージ)

「分からないことが多かっただけに、怖くもありました。そもそも僕らは15~16歳の頃から活動を休んだことがなかったので。だからいきなり実家に帰って家族と過ごすことになって、自分たちがやってきたことが何を意味するのか、じっくり考える時間も得られました」(ブレイク)

もちろん彼らはただ休んでいただけではなかった。すみやかに活動の場をヴァーチャルな世界に移して、YouTubeやTikTokに様々なコンテンツを投稿。ファンとの密なコミュニケーションを保ちながら曲作りに打ち込むことになる。

「あの期間に可能だったのは曲を書くことだけだから、そこに専念することにしたんです。今までの体験を題材にして。そういうことって、常に慌ただしい状態にあるツアー中はまず考えなかっただろうし、僕らは普段なら話しにくいことも語り合えるようになって、絆を深めたんじゃないですかね。結果的には人間として成長し、自分たちらしさを確立したと思います」(ブレイク)

新曲2曲同時リリースの試み

まさにこうした成長のあとが刻まれているという「Getting Better」と「Girl Who Does Both」は、メンバーが曲作りと演奏を分担して行い、プロデュースもブレイクが担当。「可能な限り自分たちに誠実でありたかったし、セルフ・プロデュースでなければ僕らが作りたい曲を作れなかったんです」と彼は指摘する。2曲を同時発売するという試みも、3人のこだわりの表れだ。

「これに関してはオールドスクールなバンドをお手本にしていて、例えばザ・ビートルズなんかはアナログのシングルをリリースしていたわけだけど、A面でシングル曲が聴けて、B面にもう1曲入っていましたよね。彼らがやっていたことを、現代に相応しい形にアップデートしたんです」(ジョージ)

そんな2曲が共有するのは、夏っぽい軽やかさ、ポップソングとしての完成度、細やかなアレンジメント、演奏する彼らの手のぬくもりを感じさせるサウンド、そして声を用いた実験だ。ヴォーカル・ハーモニーはデビュー当初からのバンドのウリでもあるのだが、今回は低音を活かしたり、ファルセットを効かせたりして、歌い手としてのフレキシビリティをさらに見せつける。

「僕らはザ・ビートルズやビー・ジーズやELOの大ファンですからね。それにファルセットって、気分を高揚させるポジティヴなフィーリングを醸してくれるんです」(リース)

「Girl Who Does Both」について

その“ポジティヴ”というのもふたつの曲の共通項であり、「Girl Who Does Both」は、心を許せるパートナーに宛てた熱烈なラヴソング。リース曰く「僕らのガールフレンドに宛てたラヴレター」だ。「街に出かけて遊ぶのも、家でテレビを観ながらチルアウトするのも、どんなシチュエイションだろうと一緒に楽しめるガールフレンドに捧げています」。聞けば、当初はややヘヴィなプロダクションだったものを再考し、ブレイクが「ポール・サイモンぽいヴァイブ」と形容する最終形に辿り着いたのだとか。

「今までは一旦曲を書き上げたらそれで完成って感じだったけど、この曲に関しては納得が行くまで練って、やりたかったことを100%表現できました。これも大きな学びでしたね」(ジョージ)

「Getting Better」について

他方の「Getting Better」は、去年綴ったというフレーズ“Put down your weapons no need to fight between you and I(君と僕が闘う必要はないから武器を置こう)”が図らずもタイムリーな意味合いを帯びることになったが、新たなスタートを切ろうとしている3人に相応しい、ポジティヴィティに溢れるアンセムに仕上がった。曲のメッセージは、次に控えているセカンド・アルバムにも受け継がれるという。

「さっきも言ったように僕らは短期間に大人になったし、次のアルバムに着手するにあたって、クリエイティヴな主導権を与えられていました。だから、何らかのポジティヴィティを世界に送り出すことが僕らの役目なんじゃないかと感じたのです。そういう意味で、「Getting Better」には自分たちが広めたいメッセージの全てが凝縮されています。僕らにとって人生はどんどん好転していますから」(リース)

「今はすごくエキサイティングだし、この先2年くらいは充実した時期になると思います」(ジョージ)

「いや、2年どころか20年ですね!」(ブレイク)

Written By 新谷洋子 / All Photos by Clare Gillen

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