<レスリング>【2022年明治杯全日本選抜選手権・特集】世界選手権銀メダリストを破り、全日本チャンピオンに2連勝して世界への切符獲得…女子68kg級・石井亜海(育英大)

 

(文=布施鋼治/撮影=矢吹建夫)

 2022年明治杯全日本選抜選手権の女子68㎏級の主役は、世界選手権銀メダリストではなく、新進気鋭の石井亜海(育英大)だった。

初戦で世界2位の宮道りん(日体大)を破った石井亜海(赤=育英大)

 大会前は、昨年の世界選手権で東京オリンピック金メダリストのタミラ・メンサ・ストック(米国)からフォール勝ちを奪い、銀メダルを獲得した宮道りん(日体大)の活躍が予想された。だが、石井が初戦(準決勝)で宮道を9-6で撃破した。

 石井は「勝ったことが救いで、内容的にはダメダメの試合だった」と振り返るが、もつれた状況になるとめっぽう強い。第2ピリオドに一度逆転されたが、すぐに試合の流れをたぐり寄せ、再逆転に成功して決勝進出を決めた。

 もう一方のブロックからは、昨年12月の全日本選手権で優勝している松雪成葉(ジェイテクト)が勝ち上がってきた。同選手権の決勝で石井は松雪に敗れているので、抜かりはなかった。第1ピリオド早々、片足タックルからバックに回って2点を先制する。

 松雪が低い姿勢からの片足タックルを狙っても、石井はそれを切る。組んでから石井を左右に振っても、崩れない。石井は2-1でこの階級で初優勝を遂げた。

昨年の敗戦のあと、構えと組み手を研究

 「今日は(プレーオフも含め)3試合闘ったけど、この決勝戦が一番印象に残っています。去年の全日本選手権で松雪選手に敗れてから、構えと組み手を研究して挑みました」

決勝とプレーオフで全日本チャンピオンの松雪成葉(ジェイテクト)を破った

 この日の決勝戦終了後、世界選手権代表を決めるために両者はプレーオフに挑んだ。石井は「プレーオフの方が闘いにくかった」と言う。「直前に決勝で闘ったことで、こっちの手口はばれている。あらためて何をしようか考えました」

 そんな言葉とは裏腹に、決勝戦同様、石井は第1ピリオド開始早々、片足タックルからバックを奪い2点を奪う。その後もポイントにこそ結びつかなかったが、自分から攻めて松雪を動かしていく。第2ピリオドになると、後がない松雪は必死に反撃を試みるが、加点はアクティビティタイムによる1点にとどまった。

 結局、石井は2-1でプレーオフを制し、初めて世界選手権出場の切符を掴んだ。抱負を求めると、石井は「やることは今までとそんなに変わらない」と答えた。「どんな舞台でも相手にどう対応するかではなく、自分をどう出していくかが問題になってくると思います」

けがと向き合った元木咲良の姿勢を学んだ!

 1年前、石井はこの大会の62㎏級でエントリーしていながら、棄権した。左ひざの膝蓋骨脱臼によってリハビリを余儀なくされていたからだ。「あのときは悔しかった」

育英大の女子を指揮する柳川美磨総監督。今年も世界チャンピオンを誕生させるか

 単調なリハビリに嫌気が差し、レスリングを続けることを諦めかけた時期もある。踏みとどまることができたのは、育英大の1年先輩・元木咲良の背中を見たからだ。

 「咲良さんが前十字じん帯を断裂していた時期とかぶっていたんですよ。復帰を目指す過程を通して、マットに入れない辛さも同じだった。咲良さんは真面目なことを淡々と持続できる先輩なんです。その姿が大きな刺激になりました」

 奇しくもこの日、元木も59㎏級の本戦とプレーオフを制し、世界選手権出場を決めている。「自分は咲良さんのことがめっちゃ好きなので楽しみです」

 2人が優勝を決めた翌日には、同じ大学で昨年の世界選手権で初出場初優勝の快挙を成し遂げた櫻井つぐみも勝ち、世界選手権出場を決めた。2024年パリ・オリンピックに向け、育英大の快進撃が始まるのか。

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