第92回 注目のクラブ史上最年少選手

スポーツ歴史上最年少デビュー誕生なるか

メジャーリーグサッカー(M L S)、フィラデルフィア・ユニオンは、14歳のキャヴァン・サリバン選手と、MLS史上最高額のホームグロウン契約(自クラブの育成システムで育った選手との契約)となる2028年までの4年契約を締結しました。ユニオンのジム・カーティン監督は、「フィラデルフィア・ユニオンにとって歴史的なことで、特にサッカーの世界で、世代を代表する才能ある選手を獲得することはめったにありません」と述べました。

話題性と共に実力を見せつける若きエース

サリバン選手は、クラブ史上最年少の選手としてトップチームにメンバー登録され、MLS史上5番目に若い選手として初めてトップチームと契約をしました。

もし14歳の彼が今年7月29日までにユニオンでデビューすれば、北米のトッププロスポーツリーグ(MLB、MLS、NBA、NFL、NHL、NWSL)での最年少デビュー選手として、またトップ5の欧州サッカーリーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)での最年少デビュー選手として歴史に名を刻むことになります。

カーティン監督は、「彼をいつでもフィールドに送り出すことを恐れてはいません。彼はまず第一に、実力でフィールドに立つために一生懸命取り組むでしょう」と、述べていることからもわかる通り、サリバン選手との契約は話題性だけではなく、実力も伴っていることを表しています。

去年、サリバン選手は、15歳以下の米国代表を23年北中米カリブ海地域(CONCACAF)チャンピオンシップで4得点を挙げ、チームが大会で初めて優勝することに大きく貢献しました。

「移籍金」に垣間見るサッカービジネス戦略

サリバン選手は、「ずっと自分の地元のユニオンを見てきました。いつか自分の家族、友人、ファンの前で自分の街のためにプレーする機会を得ることを願っていました。同時に兄と一緒にプレーできることは夢の実現です。このクラブに全力を尽くし、トロフィーを持ち帰れるようにしたいと思います。この機会に感謝しており、フィラデルフィアを誇りに思っています」と、既にユニオンのトップチームでプレーをしている兄との共演をも楽しみにしていること、そして長年の夢が叶ったことへのコメントをしています。

また、チーム最年少でのプロ契約自体も偉業ですが、関係者によると、サリバン選手の契約には18歳になった後にイングランドプレミアリーグのマンチェスター・シティーへの移籍を許可するリリース条項も含まれており、その移籍金は約500万ドルと推定されています。これは、国際サッカー連盟(FIFA)の規定で18 歳にならないと国際移籍ができないことに備えて、今のうちから有望な選手と複数年契約をしておく必要がある、サッカービジネスの戦略も垣間見られます。

移籍金とはサッカー独特のルールで、選手が契約期間中に他のチームに移籍をする際、既存の契約を破棄にした上で、新しい契約書を移籍先のチームと結ぶので、既存の契約を破棄するために違約金を既存のチームに支払わないとならず、この違約金のことを移籍金とも言います。

サリバン選手よりも若く、MLSでプロ契約をした選手たちは以下の通り。

1位:2022年、マキシモ・カリッゾ選手(NYシティーFC・14歳0日)

2位:2022年、アクセル・ケイ選手(レアル・ソルトレイク・14歳15日)

3位:2004年、フレディ・アデュ選手(DCユナイテッド・14歳168日)

4位:エマニュエル・オチョア選手(サンノゼ・アースクエイクス・14歳191日)

一方で、右記の4名の内すぐに活躍をする選手は稀で、ここに列挙した中ではフレディ・アデュ選手のみとなることからもわかる通り、いかに性急にならず、じっくりとその才能を育てていくのかは本人のみならず、チームにおいても責任重大となります。今後のサリバン選手の活躍に注目をしていきたいと思います。

中村武彦

青山学院大学法学部卒業後、NECに 入社。 マサチューセッツ州立大学アマースト校スポーツマネジメント修士課程修了。メジャーリーグサッカー(MLS)、FCバルセロナなどの国際部を経て、スペインISDE法科学院修了。FIFAマッチエージェント資格取得。2015年にBLUE UNITED CORPORATIONを設立。東京大学社会戦略工学部共同研究員や、青山学院大学地球社会共生学部非常勤講師なども務める。

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