こわいをしる

 石垣などに横穴を掘る「トンネル式の車庫」を見ると、言いようのない恐怖心が胸に広がる高齢の男性がいる。戦時中に逃げ込んだ真っ暗な防空壕(ごう)を思い出すのだという▲原爆の惨状を思い浮かべてしまい、浦上川を直視できない被爆2世の女性もいる。どちらも取材で伺った話だが、心の底にある戦争の記憶や恐怖心が、日常生活の中でふと立ち現れる人は数多くおられるに違いない▲ロシアのウクライナ侵攻に、ご自身の戦争体験を重ねる人もいる。焼け野原にされた町が記憶の中の風景と二重写しになる人、旧満州を命からがら脱出したのを思い出す人…。胸を突かれる体験談を本紙のオピニオン欄で何度か読んだ▲この地もまた、ウクライナの「今」に心を痛めている。〈恐怖と隣り合わせで生きることを余儀なくされている状況は、住民を巻き込んだ地上戦の記憶を呼び起こすものであり…〉。沖縄慰霊の日のきのう、沖縄県の玉城デニー知事は追悼式でこう述べた▲式では小学2年の女の子が自作の詩を朗読した。沖縄戦の絵を見て、震え、〈こわいをしって、へいわがわかった〉という▲戦争や侵攻は罪のない人々を必ず巻き込む。77年前の「こわい」を知るのも、思い出すのも心痛を伴うが、今や未来の「こわい」と地続きであることを決して忘れまい。(徹)

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