年収を維持・向上させる4つの力とは? 400万円と600万円で必要な能力を人事コンサルタントが解説

人生100年時代を迎え、長く働き続けるためには自分の強みや課題を把握し、それを活かせる仕事を見つける必要があります。

そこで、人事コンサルタント・西尾 太氏の著書『人事の超プロが教える 会社員 50歳からの生き残り戦略』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集して年収を維持・向上させる力について解説します。


「コンピテンシー」が自社でも転職しても年収を維持・向上させる

50代における重要なポイントは、給与とパフォーマンスを一致させること。そのために必要なのは、企業の「評価基準」を知ることです。

どのような業界や職種であっても、人事制度の根幹は基本的に同じ形をしています。新人、チーフ、課長、部長など、職位や年収に応じて会社が社員に求めていることは、ほぼ一緒。明確に「見える化」されていなくても、どんな企業にも共通する普遍的な評価基準があります。これらを理解し実行すれば、「パフォーマンスより年収が高い人」にはなりません。

下記の表は、「キャリアステップを5つの等級で示したモデル」における1等級レベルと呼ばれる、新人クラスの評価基準です。規則を守る、マナー意識があるなど、社会人の基本ができている。協調性や、他者の気持ちをわかる共感力があり、チームワークを実践できる。成長意欲や学習意欲もある。こうした基準を満たしていることが、年収300万くらいの人には求められます。

50代の皆さんなら実践できていることばかりだと思いますが、自分を客観的に見る「状況把握・自己客観視」だけは気をつけてください。これが実は難しいのです。

50代でも僕を含めてできていないかもしれず、多くの場合、これがトラブルの元になります。そして短く話す「伝達力」ができていない人もいます。これらはビジネスの基本ですから、気をつけなくてはいけません。

人事領域では、こうしたビジネスにおける欠かせない行動を「コンピテンシー」と言います。自分の階層におけるコンピテンシーを実践できれば、自社でも転職しても年収を維持・向上させることができます。そこで事項では、このコンピテンシーについて解説します。

年収400万を維持するコンピテンシー

下記の表は、2等級レベルと呼ばれるチーフクラスのコンピテンシーです。求められるスキルは、周囲を巻き込み、3~5人程度の少人数のチームを取りまとめる力です。

目標を達成できる。情報を客観的に収集できる。より良い方法、無駄のない方法を考え、実行できる。短く伝えるだけでなく、相手にわかりやすく効果的に伝えられる。品質に信頼がおける。周りをやる気にさせる。自分で考え、自ら動ける。エネルギーがあり、ストレスコントロールができる。これらが実行できれば、年収400万ぐらいになります。

たとえ優秀なプレイヤーであっても、与えられた仕事を自己完遂できるだけでは、年収は350~400万ぐらいが上限です。それ以上の年収を得ようと思うなら、企画を提案できるプレゼンテーション能力、周囲に働きかけ、やる気にさせる力、自分1人だけでなく、メンバーを率いて組織PDCAを回せるマネジメント力が必要となってきます。

年収600万を維持するコンピテンシー

下記の表は、3等級レベルと言われる、いわゆる課長クラスのコンピテンシーです。求められるレベルは、5~10名単位のチームを率いて、組織の結果を出せるマネジメント力です。

目標設定、計画立案、進捗管理は、第3章でお伝えしたタスクマネジメント、組織のPDCAを回せる力です。個人のPDCAを回せる力は、さほど価値は高くなく、できて当たり前。組織を率いて目標設定、計画立案、進捗管理ができることが重視されます。

人材育成は、ヒューマンマネジメントにおいて最も重要なポイントです。これらのコンピテンシーがちゃんとできれば、年収600万くらいになります。

50代はこの3等級から次の4等級の人が多いのですが、実は課長であってもこれらのコンピテンシーを満たしていない人が少なくありません。それはすなわち、黒字リストラの候補になりやすい「パフォーマンスより年収が高い人」ということになります。

また、過去を見る「後払い型」給与から、今を見る「時価払い型」に変わった場合、あるいは、転職した際に、年収が大幅に下がる危険性があります。

リストラを回避し、現在の年収を維持・向上させるためには、どうしたらいいのか。

ここからは、特に重要なコンピテンシーについて詳しく見ていきましょう。

(1)「計数管理」は、どんな会社に行っても通用する

「計数管理」とは、会社に関するB/S(バランスシート=貸借対照表)やP/L(プロフィット&ロス=損益計算書)などの知識を有し、財務的視点・計数的視点から物事を捉え、分析することです。P/Lは、特に必須となります。

ビジネスをする以上、お金と無縁ではいられません。チームのタスクマネジメントをするためには、ある程度の数値管理ができることが絶対の条件となります。

管理職でなくても、目標設定は的確なのか、プロジェクトの予算は適切なのか、チームが目標を達成するための計画は大丈夫なのか、余計にお金を使いすぎていないか、売上と利益は確保できるか、原価や粗利は大丈夫か、といった視点が必要になってきます。

計数管理がしっかりできる人は、自社ではもちろん、会社を移っても年収600万を維持できます。なぜなら、会社が変わっても、やることは一緒だからです。

(2)「問題分析」は、50代の武器になる

「問題分析」とは、情報収集したものを的確かつロジカルに分析できることです。これも重要なスキルで、50代は特に物事を俯瞰する力が大事になります。僕らは長いこと働いてきたのですから、「木を見て森を見ず」にならないように「森」を見なくてはいけない立場です。森を見るにはどうしたらいいのか、というのが分析ツールを使ったロジカルシンキングです。

SWOTや3C、5フォースなど、さまざまなフレームを使ってロジカルに物事を捉え、何が重要で、何が重要じゃないのかを俯瞰して見極める。年収600万を維持しようと思ったら、こうした問題分析のスキルも不可欠です。

「問題の本質って何だっけ?」「そもそもの目的って?」と、物事を網羅的に見られる力はとても重要です。それをフレームに当てはめて考えられるスキルも持っておくべきです。

上司が年下の場合、突破力はあっても、俯瞰力は弱いかもしれません。物事の全体を見る力は、長く働いてきた50代のほうが持っている可能性が高いです。

「なんとなく俺の勘がそう言っているんだ」と言うだけでは話を聞いてもらえませんが、「SWOTや3C、5フォースで分析した結果、こうなんだ」とロジカルに説明すれば、年下上司も耳を傾けてくれます。長年の経験で「これはおかしいな」と勘が働いたとしても、仮説を立て、それを検証し、構造化・体系化した意見を伝えなくてはいけません。

プレゼンテーションでも、分析した結果をしっかり伝えることが重要です。ここが甘い人が多いので、ロジカルシンキングを身につければ、50代ならではの武器になります。

(3)「スペシャリティ」は、希少価値が高ければ、市場価値を高める

「スペシャリティ」とは、他者より特定分野において長けている専門性のことです。一定の領域で何かの専門性を持っている人は強いです。希少性の高い専門的な知識やスキルを持っていれば、ビジネスパーソンとしての市場価値は何倍にも膨らみます。

社内的に希少価値の高い専門性を有している、他社には同等の専門性を有している人材がいるが自社では極めて貴重など、希少価値の高い専門性があれば、組織内での影響力が大きくなります。

その専門分野において、外部で講演を行ったり、論文を発表したり、著作を出版している。こうした状態にまでなれば、転職でも有利になり、独立・起業の道も開けてきます。社会的に極めて希少価値が高い専門性を有し、同様の人物が他にいない、ある分野の第一人者として認知されると、「先生」と呼ばれる存在になり、市場価値はさらに高まり、分野によっては何倍もの収入を得ることが可能になります。

自身の専門性は、非常に重要です。しっかり棚卸しをして、磨いていきましょう。

(4)年収600万レベルのマネジメントスキルがあれば転職できる

課長クラスのコンピテンシー=年収600万レベルのマネジメントスキルを持っていれば、転職も可能です。会社の規模や経験してきたマネジメント範囲によっては年収が下がる場合もありますが、500~600万は維持できるはずです。

タスクマネジメントの目標設定、計画立案、進捗管理、ヒューマンマネジメントの人材育成、この両軸について棚卸しをして、自身のやり方を体系化し、「私はこういう風にやっています」という方法論が示せたら、マネージャーとして転職することができます。マネージャーとして転職できれば、年収600万ぐらいにはなります。

目標設定を行い、内外に示し、そこに向かって計画を立てる。リスクも想定し、目標を達成するための計画を立て、リスクが発生したときには、違う計画で動けるようにする。実際に動き出したら、進捗を管理し、計画に修正が必要ならそれを行い、目標を達成する。

メンバーの3年後や5年後のキャリアビジョンやライフビジョンを把握し、それについて一人ひとりと話し合い、各々の課題を明確にし、能力開発を支援する。

職種や会社が変わっても、タスクマネジメントとヒューマンマネジメントの基本フレームは変わりません。この2つのスキルがあれば、どこに行っても通用します。

マネージャーでなくても、一定以上の専門性を有し、会社や部門、または顧客に対して有効な提案を行い、それが受け入れられ、成果に結びつく新たな価値創造ができるのであれば、600万程度の年収は安定的に望めます。自分は「何屋さん」なのかを見極め定義することは、組織で上を目指すためにも、転職や独立・起業をする場合でも非常に重要です。

著者 西尾 太

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50代は、日本の人口で一番のボリュームゾーン。この世代が「今さら頑張っても…」「枯れてもいい」などと思っていると、日本はダメになってしまう。自分のため、家族のため、社会のために、あと20年、30年は頑張らなくてはいけない!
一方で、45歳以上の社員を「早期退職」「希望退職」という名目で、リストラする企業が急増。さらに会社員の給料は「時価払い型」に変わりつつあり、このままでは今の年収は、維持できなくなるかもしれない。
50代で「もう無理! 」と諦めている場合ではない。今後もリストラに遭わず、企業に必要な人材でありつづけるために必要なことは何か?
本書は「50代社員に関する意識調査」の結果をふまえたうえで、50代の強みを分析。必須となるコミュニケーションの知識や、転職・独立しても困らない「年収を維持・向上する力」などを解説する。
巻末に、「これだけはやめよう」「これをやってみよう」チェックリストも収録。

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