アストロデザイン「Private Show 2022」レポート。最新の映像技術や製品を紹介[Report NOW!]

アストロデザインの最新技術や製品を紹介する内覧会「Private Show 2022」が2022年6月16~17日にかけて開催された。コロナ禍の影響でリアルな内覧会の開催は実に3年ぶりとなった。放送、医療など様々な分野に向けた映像技術など、盛りだくさんの展示内容から、その一部をご紹介する。

ランクルで手軽に中継車を実現

「Off-Grid Studio ATOM'S」と名付けられたのは、テレビの中継車のように1台で撮影、編集、配信などが可能な特別仕様車。トヨタ自動車のレース事業などを受け持つトムスと連携して生まれた1台。

ランクルを使った配信車「Off-Grid Studio ATOM'S」

トヨタのランドクルーザー100をベースに撮影、配信機材などを搭載した改造車で、カメラはBlackmagic DesignのBlackmagic Pocket Cinema Cameraを始め、各種モニター、ミキサー、スイッチャーなどが車体後部に収納されている。さらに通信機能として4G LTE用のアンテナを装備しており、撮影映像をそのまますぐに配信することもできる。

後部座席が改造されており、様々な中継機材が搭載されている。機能の割にはコンパクトに収まっている

テレビの中継車のように大がかりな機材ではないが、比較すれば十分にコンパクトで小回りがきく装備になっており、現場に乗り付けてすぐに撮影、編集、配信が行える。最大4台までのカメラのスイッチングが可能で、マルチカメラの収録が手軽にできる、としている。カメラ映像のワイヤレス配信も可能だが、フルHD止まりのため、実際の配信もフルHDが最高解像度となる。

Blackmagic Design製品が多いが、モニターやスイッチャーなど、必要な機材が完備されている

それでも、屋外イベントの配信、生配信、災害時の中継局といった様々な用途が提案されており、より気軽に高度な配信ができる環境として紹介されていた。もともとトムスとの協業から始まっているのでランドクルーザーが採用されているが、さらに小さい車でも十分に搭載できる機材構成になっている。

カメラもBlackmagic Design。最大6Kの撮影が可能だが、ワイヤレス伝送自体はフルHDまでだという
LTE用のアンテナは車体に取り付けられている

すでにトムスがレース会場の撮影で活用しており、依頼を受けてイベントなどの撮影を行うサービスを提供している。全てをセットにして配信車として丸ごとの販売も可能だそうで、その場合の費用は3,900万円とのこと。

4K120Pでの映像制作が可能なシステム

4K120Pの映像収録が可能なSDI収録機「IR-7523」も出展されていた。4K対応レコーダーは市場にもあるが、120Pに対応している点が新しい。記録媒体はCFexpress Type B。4Kの収録に加えて、単体でスローモーションの出力ができるという点がポイントだ。

4K120P記録に対応したSDI収録機「IR-7523」(下)。上はインタフェースアダプタ「IA-1566」
デモ撮影にはソニーのフルサイズカメラが使われていた

現実的には、まだ4K120Pの撮影自体があまり行われておらず、一部の放送局がトライアルとして撮影している程度だと、ブースの担当者は説明する。そうした現場ではすでにこの製品がテスト採用されているという。

IR-7523を中心にPCやモニターに4K120P映像を出力しているところ

高解像度のスローモーション撮影は、スポーツシーンなどでは使われ出しており、特に海外のスポーツシーンではスーパースロー撮影が普及し始めているそうで、プロダクションサーバーレベルの製品が使われているそうだ。

それに対してIR-7523は小型で持ち運びも容易なサイズ。「このサイズで実現しているのは弊社だけではないか」と説明員の方はコメントしていた。とはいえ、サイズも小型のため、HDであれば「理論上は480Pまでは可能」だが、4K240Pになると「ビデオレートが8Kサイズに等しくなる」ことから、現状では難しいという。

IR-7523とIA-1566の背面

発売は2021年12月。発売後もアップデートで機能を追加予定だという。例えばHD映像を4本同時収録したり、HDで480Pなどのハイフレームレートに対応するなどを考えているそうだ。

IR-7523にはCFexpressカードスロットが2つ搭載されている

4K120Pの出力は12G-SDI×2を使うが、同時期に発売されたインタフェースアダプタ「IA-1566」を経由することで、8K/4Kテレビに映像を出力可能になる。もともとは8Kテレビに業務用レコーダーやカメラを接続するために開発されたもので、IR-7523と組み合わせることで、4K120Pの映像をHDMI2.1経由でテレビなどに出力できるようになる製品だ。

JPEG XSで遅延なく8K映像をIP伝送

画像圧縮方式としてJPEG XSを採用し、8Kの高解像度映像を超低遅延に伝送するシステムも展示されていた。8Kカメラの映像をエンコーダ/デコーダー「CD-5550」でJPEG XSによる圧縮を行い、IP網を経由してCD-5550でデコードし、モニターに表示するというシステム。ほとんど遅延を感じさせず、画質面でも良好な結果を示していた。

映像を撮影する8Kマルチパーパスカメラ
光伝送装置で送られた映像をCD-5550でJPEG XSにエンコード
これをIP網で伝送し、受信側のCD-5550でデコードする
圧縮率は1/16

JPEG XSは、「JPEG 2000に近い」という圧縮方式。JPEG 2000に対してレイテンシーを改善している。「XSはエクストリームスモールとエクストリームスピードの意味」だという。

実際にIP伝送されたJPEG XSの映像。カメラをズームすると即座に映像もズームし、遅延はほとんど感じなかった

JPEG XSは、放送コンテンツの伝送規格であるSMPTE ST 2110をカバーしており、今後ST 2110が拡大すれば、JPEG XSの普及にも繋がる可能性がある。JPEG XS自体は、「今、求められている要求に全部対応できている」ため、普及には期待が持てるようだ。

要求の1つがコンテンツの高解像度化による容量拡大で、4K映像を伝送するのには回線の負担が一番のネックで、100Gbpsクラスの回線を保有しているところは多くはない。こうした回線への投資は業界でも始まっているというが、100Gbpsクラスの回線で、4K8K映像を複数流しても負担にならない、という程度に各社の投資が行われれば、JPEG XSを使った伝送システムへの需要も高まると期待しているという。

JPEG XSは、加えて低遅延という大きな特徴がある。エンコード・デコードを経由しても遅延がほとんど発生しないため、オンライン会議やオンライン医療など、リアルタイム性が重視される環境で活用できるとしている。

FPGAやロジックに搭載しやすい規格を目指して開発されたJPEG XSは、4K8Kのような高解像度を想定しなければフットプリントは軽いという。現状はIPネットワーク機器への搭載だが、カメラのJPEG XS対応もなくはないと推測するとしていた。カメラ自体に搭載するのか、カメラがネットワーク対応して伝送経路内で変換するか、方法はいろいろありえるが、高解像度の映像を限られた帯域でIP伝送するという状況では候補になる、という。

実際のJPEG XSの見た目は、「ビジュアリーロスレス(Visually Lossless)」と表現されるとおり、圧縮前後で見た目にはほとんど変化が分からないレベル。説明員によれば、デモは「自分たちもビックリするぐらいうまくいった」ということで、シーンによって圧縮の影響は異なるようだが、圧縮率を16倍にしても一見して分からないレベルの圧縮となっていた。

ちなみに、通常の8Kの場合、生データの容量で42Gbpsぐらい使うが、1/16の圧縮率だと2.61Gbpsほどの伝送容量になり、さらに1/20で圧縮したところ2.08Gbpsまで縮小できていた。画質劣化が少なく、遅延も少ないため、ネットワーク帯域の節約にもなりそうだ。

圧縮率1/16の時のデータ容量は2.61Gbps
圧縮率1/20にするとこれが2.06Gbpsまで圧縮された

なお、今回のCD-5550はゲートウェイとして1Uサイズだが、きょう体は別のゲートウェイ製品を流用しているためで、もう少しコンパクトなサイズにすることも可能だという。

撮影から表示まで、8K製品を評価

8Kカメラの解像度特性(MTF)をリアルタイムに測定する「IP-8030」、ディスプレイの色域評価システム「SP-8870-CM」、ディスプレイのMTF測定装置「DT-8031」という8K対応測定装置も出展。カメラからディスプレイまで、8K環境でも正確な測定が可能になる。同社はこうした測定をすでに8年ぐらいやっているとのことで、従来製品からさらなる機能追加が行われているという。

IP-8030は改良型Slanted-edge測定法を採用。定量的に高精度なMTF測定が可能とされている。レンズのフォーカス、アイリス、ズームを制御しながらの測定が可能で、マシンビジョン規格、SDI入力、HDMI入力に対応し、放送用カメラやミラーレスカメラなど様々なカメラに適用できる。

カメラのリアルタイムMTF測定が可能なIP-8030

外付けGPUボックスを使ってThunderbolt 3経由でノートPCなどに接続しての計測も可能。幅広い環境で活用できる測定装置となっている。

SP-8870-CMは、信号発生器と測定用デバイスを組み合わせた自動測定アプリケーションで、8KテレビやLEDなどの色域測定がワンストップで行える。特徴は、色域としてGamut Rings(ガマットリングス)を使った表現が可能な点。

ディスプレイの色評価システム
PCに接続してGamut Ringsで色域を表示してくれる

色域の表現は、光の3原色であるRGBを平面上に描写することで行っていた。ただ、ディスプレイの色域には明度も必要で、3次元での表現が必要だった。これを実現したのがGamut Ringsで、NHKが考案して国際標準化された技術となっている。

これは明るさを含めた色域を立体で表現し、それを明度の感覚で輪切りにしていき、それを平面に引き伸ばして2次元で表現するというもの。こうすることで、2次元ながらRGB+明度を表現できるようになった。

立体で表現された色域を輪切りしてそれを平面に引き伸ばすのがGamut Rings
平面に引き伸ばすと、それぞれの実線の幅が明るさを示すことになる

「このテストを自動化して表示するのは、現状アストロデザインしかできない」と説明員はいう。Gamut Ringsをいち早く取り入れた点が新しいとしている。

SDRのBT.709の時代に比べて、HDRでBT.2020になったことで、色域と明るさが重要になってきている。明るさだけ追求して白を入れると色が飛んでしまうこともあり、例えば火山や花火の映像で暗闇に赤色がある場合、明るくするために白を入れるとピンク色になってしまい、本当の色にならないとのこと。

こうしたGamut Ringsで色域を評価したテレビやモニターなどは、今後登場する見込みとのこと。これが普及すれば、紙に印刷して色域を表現する際にも、誰でも同じ評価ができるようになるとしている。

ディスプレイMTF測定システムのDT-8031は、ディスプレイの解像度に関する明確な基準がなく、適切な評価がされていないことから開発された。同じ4Kや8Kといった解像度の2つのディスプレイがあった場合、それぞれの空間解像度特性は異なり、見比べると画質が異なってくる。それを定量的に測定するシステムを開発した。

ディスプレイの解像度特性(MTF)を計測するシステム
PCに接続してリアルタイムで測定

開発はNHKの協力の下行われたもので、8Kテレビやモニター、プロジェクタ、スマートフォンのディスプレイなども測定可能だという。実際に使う際は、PCにインストールしたソフトウェアを用いて、HDMI 2.1に対応したVG-887経由で測定映像をPCに取り込む。実際の測定に使うカメラは「LMD(Light Measuring Device)」と呼ばれ、産業用カメラが使用される点が特徴だ。

このLMDによってカメラのコストを大幅に削減しながら、ちゃんとした測定はできるというのがメリットとなる。加えて測定スピードも高速でリアルタイムに測定できる点がアピールされている。

測定に使われているカメラのLMD。これがコスト削減のポイント

特にカメラのコスト削減効果は大きく、別の測定方法だと100万~200万円の世界が、今回の場合は30万円程度で済むとしていた。精度に関しても、NHKが細かくチェックをしているとのことで、従来の方法よりも精度は上がっているそうだ。

従来は、30倍ほどの倍率が必要だったカメラが、LMDでは2倍で十分となっていて、それでも十分な精度が取れることから大幅なコスト削減が可能になったという。

今回のシステムは、カメラでの撮影からディスプレイの表示まで、客観的に評価できる環境を実現したというのがポイントだろう。

24枚のSIMで8K映像をワイヤレス伝送

中継機材として様々な放送局などで使われる「LiveU」を使ったワイヤレス伝送ソリューションも展示されていた。特に、携帯網を使ってワイヤレスで8K映像を伝送できるというのが特徴だ。

現地で実際に撮影に使われていた8Kカメラ
そこから優先でLiveU送信機4台と接続。ここからLTE回線で映像を伝送する

LiveUの機材自体は4Kまでの対応だが、これを4台組み合わせることで8Kに対応させた。映像自体は8Kカムコーダーで撮影し、それを12G-SDI経由でLiveU送信機4台に有線伝送。この送信機にはSIMカードが1台に付き6枚(仕様上は最大8枚)、計24枚(同32枚)のSIMが内蔵されており、これによってLTEの帯域でも8Kという高解像度映像をリアルタイム伝送可能にしたのが、今回のシステムだ。

右の受信機で受信。左のPCが映像補正装置

通常の携帯回線を使用しており、一般のスマートフォンでも使われているのと同じ回線だ。実際は、MVNOが映像伝送用に設計したプランを採用しているが、QoSのような帯域保証があるわけでもなく、ベストエフォートでも映像が途切れず伝送できるような設計となっている。

管理画面では接続状況も確認できる。一部130kbpsほどしか出ていない回線は、帯域制限が掛かった回線だそうだ

1つのカメラの映像を4台のLiveUで分割して伝送しているため、デコードする際には同期を取って映像のズレがないように統合しているそうだ。この統合には同社の映像補正装置を使い、内部のバッファメモリを活用して映像同期をしているという。

映像を4分割し、パケットごとに送信するLTE回線を使用しているため、回線状況によっては一部のデータが欠損する可能性もある。基本的にピクセルごとに伝送されているので、ピクセル単位の欠損であれば周辺ピクセルからデータを推測して補完できるという。

4台の送信機に6枚ずつのSIMが入っているため、データはそれぞれ分割されて送信されるが、回線状況に応じて1つのSIMが送信するデータは変動しているらしく、「LiveUのアルゴリズムによって動作している」(説明員)そうだ。仮に1枚のSIMが通信できなくなっても、それ以外のSIMが伝送を行うとのことで、回線の不安定さをカバーできるようになっているようだ。

送信機にはバッテリーも内蔵されているので、4台を背負うなどすれば、カメラマン一人でもライブ配信が可能。カメラマン自体は自由に動き回れるので、撮影の自由度も高い。実際、東京都内を移動して撮影したところ、映像自体は途切れることなく伝送ができたという。

「専用線を必要としないのが一番の特徴」と説明員はいう。携帯回線のため、即座に中継できるというのがメリットだ。放送波を使うわけでもないので、放送局以外でも中継できるのが特徴で、しかも8Kの映像すら伝送できるので、高画質な中継が可能になる。

とはいえ、あくまで専用線ではない一般の携帯回線を使うため、「ダメなときはダメ」と説明員は正直に説明する。テレビの生中継だと難しいかもしれないが、最近はテレビ局もスマートフォンの映像を使う例があり、画質や撮影の自由度という面では有利だろう。

LTEであれば国内ではほとんどのエリアで使えるので、「問題は帯域制限」と説明員。8Kクラスになると大容量になるため、1つの回線で使えるデータ容量が数GB程度だとあっという間に使い切って速度が低下してしまう。

全体の遅延は2.3秒とやや長め。LiveU自体の伝送遅延が1.5秒程度で、映像補正装置の処理時間を合わせて2.3秒程度になるという。LiveUは誤り訂正などの機能があり、これを使うと映像はより安定するが、遅延時間は延びる。その辺りは実際の運用時のバランスを考えて設定できる。

今後、5G時代になればさらに速度、容量が向上するほか、スライシングによって映像伝送を優先させるなど、新たな回線の利用が可能になる。そうした時代になれば、より一層使いやすくなりそうだ。

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